【TES世界観解説】トリビュナルとは何者か? その8|神々の終わり

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トリビュナルとは何者か? その7|還りし者、ネレヴァリン

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はじめに

その7では、牢から出された一人のよそ者が試練を越え、ロルカーンの心臓の縛りを断つまでを見ました。ダゴス・ウルは滅び、ブライトは去り、三柱は神の力を失いました。

けれど、神でなくなることをはっきり受け入れたのは、ヴィヴェクだけでした。慈悲の母アルマレクシアと、クロックワーク・シティに籠もる賢者ソーサ・シル。残る二柱は、まだ何も答えていません。

その8は、このシリーズの最終章です。三千五百年つづいた神々の時代が、どのように終わったのかを見届けます。

よければ、MorrowindのBGMを流しながらお読みください。

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第八章: 神々の終わり

心臓の縛りが断たれた年、心臓の力を失った神々は、まだ三柱とも生きていました。そのうち二柱は、同じ年のうちに死にます。

一柱は、自ら造った機械の都の奥で、一言も残さずに。もう一柱は、還ってきた夫の剣の前で。

──アルマレクシア。慈悲の名で三千五百年のあいだ民を治め、最後に、自分のための殉教者を欲した女神。

“その慈悲は呪われた偽りの神々を解き放ち、壊れたものを結び、狂った者を贖う”

──『七つの幻視』第七の試練

姿を見せない女神

第三紀427年のモーンホールドは、どこか奇妙な都であった。

モロウウィンド本土の古い王都モーンホールドは、慈悲の母アルマレクシアの都である。三柱が神となるより前から、彼女はこの都の女王であった。

かつて女神は自らこの都の通りを歩き、病む者を癒やし、飢えた者に食べさせ、手ずから衣を与えたという。民にとって慈悲の女神は、祈りの向こうにいる神ではなかった。通りで会える神であった。

その女神が、十年前から姿を見せていない。

第三紀417年、三柱はレッドマウンテンでサンダーとキーニングを奪われた。以来、残る力はゴーストフェンスの内にダゴス・ウルを封じることへ注がれ、女神は民の前から消えた。神殿は民にそう説明していた。

しかし、ここに不可解な点がある。

この年、ダゴス・ウルは滅び、ゴーストフェンスはもう要らなくなった。それでも、女神は民の前に出てこなかったのである。

女神は、至聖所の奥で何をしていたのか?

Hの署名

都の変わりようは、それだけではなかった。

老いたモロウウィンド王アシン・ルレサンが世を去り、王座には若いヘルセス(Helseth)が就いていた。母は、かつてモーンホールドの女王の座にあったバレンジアである。新しい王が先王に毒を盛ったという噂は、都の刷り物にまで書き立てられていた。

還りし者ネレヴァリンがこの都の名を知ったのは、眠りを破られた夜であった。

宿で眠っていたところを、仮面の刺客が襲ったのである。暗殺の結社、闇の一党であった。刺客の出どころを辿ると、エボンハートの魔術師が使う転移の術に行き着き、その行き先がモーンホールドであった。都の屋敷に潜む一党の頭目を討つと、その懐から一通の契約書が出てきた。

署名は、「H」の一文字だけであった。

近衛隊長デリティアンは、それが王の差し金であったことをあっさり認め、この件にはもう関わらぬと言った。王本人は、涼しい顔でこう答えた。

“闇の一党か。たいていは実に有能な連中だ。いつもそうとは限らぬと、つい最近知ったがね”

のちに王は、そのわけを語った。ヴァーデンフェルには、金で雇った情報屋が大勢いる。その一人が、還りし者は王座を脅かしかねないと知らせてきた。知らせは誤りだったが、王座への脅威は放っておけなかったというのである。

還りし者を疎む者は、王宮の中にもいたのである。

迷宮の指輪

神殿もまた、還りし者を頼った。

女神の家令フェドリス・ヘラーは、新しい王が都の地下で小鬼の軍勢を育てているとにらんでいた。ネレヴァリンは古い街の底で小鬼の将を討ち、死者の祠の騒ぎを鎮めた。そして最後に家令は、神殿の地下の打ち捨てられた墓所から、一つの指輪を取り返すよう命じた。崩れて塞がっていた墓所への通路は、女神の命で片づけられていた。

墓所の奥にいたのは、死してなお魔術を操るリッチ、バリルザルであった。その亡骸から外した指輪を、人々はバリルザルの迷宮の指輪(Barilzar’s Mazed Band)と呼んでいた。はめた者を、遠く離れた場所へ運ぶと伝えられる品である。

指輪を至聖所へ届けると、女神は初めてネレヴァリンの前に姿を現した。その第一声は、奇妙なものであった。

“そなたが噂の者か。わが礼拝堂へようこそ……いや、別の名で呼ぶべきであろうか。だが、その話はまたにしよう”

女神は、指輪を手に取った。冷えてはいるが、その奥ではまだ力の熾火が燃えている。自分の魔法で、その力を呼び覚ますのだという。何のためにこの指輪が要るのかと尋ねると、女神は答えた。

“深く気にかけることはない。この指輪も、私のすべての行いと同じように使う。神殿と、モロウウィンドのすべてに仕えるために。そなたに会えたのは、うれしい驚きであった。そなたの内に、久しく見なかったものを見た”

女神は、指輪を受け取った。それが何のために要ったのかを、ネレヴァリンが知るのはずっとあとのことである。

広場を襲った兵

それから間もなく、都の広場ブリンディシ・ドロムが襲われた。

女神は至聖所を動かなかった。広場を調べよとだけ命じ、自分はここに残ると言ったのである。

現れたのは、人でも獣でもないものであった。肉と真鍮を継ぎ合わせて作られた兵、ファブリカント(Fabricant)である。衛兵と神殿の兵が迎え撃ち、広場はかろうじて守られた。兵の来た道を辿ると、広場の像の下に古いドゥーマーの遺跡バムズ=アムシェンドが口を開けていた。

誰が、この兵を放ったのか?

王ヘルセスも、それを知りたがった。あれはソーサ・シルの作った機械に違いない。あの賢者のことを知る者がいるとすれば、女神だけであろう。王はネレヴァリンに、女神から話を聞き出して知らせるよう頼んだ。王と還りし者が手を結んでいるなどと、女神が疑う理由はないというのである。

つい先ごろ刺客を送ってきた王が、今度は手を組もうとしていた。

殺してはならない頭目

襲撃のあと、都には「時の終わり」を名乗る教団が現れた。率いていたのは、エノ・ロマリという若いダンマーである。三柱はもはやかつての神ではない。神々が死ねば、その波は地を揺るがし、一つの時代が終わる。そう説く者たちのなかから、毒をあおって命を絶つ者が相次いでいた。見つかった亡骸は七つを数え、女神の魔法をもってしても誰一人よみがえらなかった。

女神の命は、意外なものであった。頭目だけは、殺してはならない。

“この狂人の大義のために、殉教者を作りたくはない。殉教者の言葉は、狂信者の言葉よりも大きく響くのだから”

その言葉を、ネレヴァリンはのちに別の意味で思い出すことになる。

天候の魔女

教団の教えを伝えると、女神の声は冷えた。

“三柱が力を失っただと? この都で、アルマレクシアの力を疑うというのか。ならば、神の力とは何かを思い知らせてやろう。そなたが私の手となるのだ”

女神が動かさせたのは、遺跡の奥に眠るドゥーマーの機械カルスタングズ=ブカーン(Karstangz-Bcharn)であった。ドゥーマーの言葉で「天候の魔女」を意味し、かつて日照りに苦しんだドゥーマーが雨を呼ぶために造らせたと伝えられる。

女神が起こさせたかったのは、雨ではなかった。灰嵐である。ヴァーデンフェルでは珍しくもない灰嵐も、レッドマウンテンから遠く離れたこの都には、一度も吹いたことがなかった。

機械が動きだしても、女神は満足しなかった。これくらいの空模様は、この都でも珍しくない。灰嵐でなければ、民にまことの力は示せぬというのである。

ネレヴァリンが空破りの回廊で機械を操ると、やがてモーンホールドの空は暗くなり、慈悲の女神の都に灰が降った。

女神は、これこそ望んだものだと喜んだ。このことは口外無用だと言い、自分の力は少し衰えているだけで、失われてはいないとも言った。そして灰嵐は、民が自分の行いのすべてに感謝するようになるまで吹かせておくと告げた。教団の残りと頭目は、オーディネーターが始末をつけるという。

灰嵐を知ったエノ・ロマリは、笑った。女神が自分たちに力を教えるために嵐を起こしたのなら、信徒はかえって押し寄せる。これもまた、来たるべき災いの徴にほかならないというのである。

失われた御手

灰の降る都で、女神は得意げであった。民は空を仰ぎ、そこに自分の主権の証しを読み取っている。天と地をこれほど従えた神が、かつていたであろうかと女神は言った。

そして女神は、悲しげな顔で次の務めを告げた。

女神には、アルマレクシアの御手(Hands of Almalexia)と呼ばれる近衛がいる。その身も魂も女神の加護に支えられ、タムリエルにこれほど恐ろしい戦士はいないと女神は誇っていた。その御手の一人、サラス・ヴァロールが正気を失い、女神のもとを去ったのだという。

いまのサラスは、女神についての卑しい作り話を、聞く者があれば誰にでも吹きこんでいる。神の輝きを見れば、どれほど強い定命の者でも狂うことがある。自分が彼を近づけすぎたのかもしれない。定命の者と神が同じ地平で会うことなどできぬのに、と女神は嘆いた。そして、彼の命は助けられぬかもしれないと言い添えた。

サラス・ヴァロールは、ゴッズリーチの通りにいた。御手の鎧をまとったまま、男は還りし者を見るなり吐き捨てた。

“そうか。あの方がお前をよこしたか。今度はお前がお気に入りというわけだ。都合のいいことだ。どちらが死んでも、あの方は喜ばれる。二人とも死ねば、なおよい。かつてあの方は、すべての者に愛を注がれた。愛さずにはいられなかった。仕えずにはいられなかった。だがあの方は変わられた。いまあの方が愛しておられるのは、力だけだ。ご自分の力だけだ”

どちらかが死ぬまで、男は剣を収めなかった。

報せを聞いた女神は、胸が張り裂けそうだと言った。そして同じ息で、褒美を選べと急かした。鉄のように硬い肌か、恐れを退ける守りか。早く選べ、神を待たせるものではないというのである。

私のネレヴァル

次に至聖所へ呼ばれたとき、女神の声は、これまでになく熱を帯びていた。

“どれほどこの時を待ったことか! 私のネレヴァル、ついに還ってきてくれたのだな。名乗り出ては倒れていった者たちを、私は神殿から見てきた。いまは信じている。そなたこそ、預言された者だ”

本来の座を取り戻す時が来た、と女神は言った。ともにモロウウィンドをふたたび一つにし、帝国のくびきから解き放とうというのである。

帝国のくびきから解き放つという言葉を、心臓の前でも一人の男が使っていた。

アルマレクシアは、かつてネレヴァルの妻であった。

女神は、婚礼の日のことを語った。第一評議会が開かれ、二人が結ばれたその祝宴で、ドゥーマーの王デュマックは対の剣を贈った。女神の剣はホープスファイア、希望の火であり、夫の剣はトゥルーフレイム、真実の炎である。並べて贈られた二振りは、夫婦の契りと、チャイマーとドゥーマーの変わらぬ盟約を祝うものであった。

女神の剣は、いまも女神の手にあった。夫の剣はレッドマウンテンの戦いで砕け、炎は消え、欠片は行方知れずになっていた。女神はその一つをネレヴァリンに渡し、残る二つを探して剣を鍛え直せと命じた。そして、ふたたび自分の傍らに立てと言った。

欠片の一つは、王母バレンジアに行方を尋ねた先で、カロッドという男が持っていた。もう一つは、遺物の博物館に納められたドゥーマーの盾の中に眠っていた。鍛冶のヤガクが三つを一振りに鍛え直し、遺跡の工房に残るドゥーマーの亡霊ラダックが、その刃にふたたび炎を宿した。

三千五百年ぶりに、夫の剣は還りし者の手に戻った。

狂ったとされた賢者

剣が鍛え直されると、女神は、行く手を阻む者が一人だけいると言った。

その名は、ソーサ・シルであった。

ついこのあいだまで、女神はその名を気にかけるなと言っていた。久しく話してはいないが、それは珍しいことではない。古い友は、きっと変わりなく過ごしているはずだと言っていたのである。

いまの女神は、別のことを語った。

“カグレナックの道具の謎を解き明かし、私を本来の座へ引き上げたのは、ソーサ・シルだ。ところがいま、あの細工師は正気を失っている。トリビュナルの終わりと、古き神々の帰還を口にしはじめた。だがソーサ・シルは、見る者ではない。造る者だ。あの男が形づくるのは、いまここにあるものだけ。この先に来るものを知らされているのは、私ひとりなのだ”

都を襲った機械の兵も、あの男の作ったものだと女神は言った。

できるなら説き伏せよ。できぬなら、その命を絶て。胸は痛むが、それがモロウウィンドのためであり、あの男のためでもある。真実の炎は、気高い志を持つ者の手にあれば神をも殺せる。女神はそう言って、ネレヴァリンを送り出した。

死んでいた神

女神の術で、ネレヴァリンはクロックワーク・シティへ送られた。帰還の術も神の介入の祈りも届かず、宙に浮かぶ術さえ使えない、時計仕掛けの都である。

回廊には振り子の刃が揺れ、床に血の染みがあれば、そこからは杭が突き出した。ある円蓋では、巨大な機械の腕が頭上を回り、その先の鋸が足場をなぎ払った。別の円蓋では機械がファブリカントを組み上げており、生まれたばかりの兵が扉の向こうから襲いかかってきた。広場を襲った兵と、同じものであった。

「不完全なる者」の円蓋では、二体の巨像が出口を守っていた。一体は像にすぎなかった。もう一体は、ネレヴァリンが近づくと動きだした。

回廊を抜けるたびに、歯車の音は大きくなった。

最後の円蓋で、ネレヴァリンはソーサ・シルを見つけた。

時の建築家と呼ばれた賢者は、自ら作った仕掛けから吊り下がっていた。その身に、もう息はなかった。頭上では、主を失った歯車がなお回りつづけていた。

誰かが、先にここへ来ていたのである。

説き伏せよ、できぬなら殺せと送り出された相手は、すでに死んでいた。

誰が、先にここへ来たのか?
帰還の術も祈りも届かないこの都へ、どうやって入ったのか?

三千五百年前、チャイマーの肌が灰に変わった日、怯える民を前に、それは呪いではなく祝福だと説いたのはこの男であった。神と直に語る時代を言葉で拓いた男が、最期には一言も残していなかった。

最大の殉教者

円蓋を出ようとしたとき、背後に光が満ちた。

帰還の術も祈りも届かないはずの都に、慈悲の女神が立っていた。その顔は、デイドラの面に似た仮面に覆われていた。

答えは、その指にあった。至聖所でネレヴァリンが手渡した、あの迷宮の指輪である。

“ネレヴァリン。ここで終わりだ。このクロックワーク・シティが、そなたの死に場所となるはずだった。そなたは私の最大の殉教者になるはずだったのだ! 狂ったソーサ・シルからモロウウィンドを守るため、すべてを捧げた英雄ネレヴァリン。だが、そなたは生きている! 生きているのだ! この迷宮の指輪が、私をここへ運んだ。ここで、私はソーサ・シルを殺した。ここから、機械の兵をモーンホールドへ放った。私こそが民の救い主となる! 私ひとりが、民の救いとなるのだ!”

語るのは自分だ、と女神は言った。英雄は最期の息で唯一の真の神への忠誠を叫んだと、民に語ってやるというのである。その死で預言は終わり、民はふたたび一つの神、一つの信仰、女神の法による一つの治世のもとに束ねられる。操り人形の王は武器を捨て、女神にひれ伏す。従わぬ者は滅ぼす。女神の描いた行く末は、そういうものであった。

殉教者を作りたくないと言った女神の言葉を、ネレヴァリンはここで思い出した。女神は、殉教者の言葉がどれほど大きく響くかを知っていたのである。

三千五百年前、神殿はネレヴァルを、殉教した英雄として祀った。いま女神は、還ってきた同じ男を、もう一度殉教者にしようとしていた。

女神の言葉は、ほかの二柱への恨みで終わった。

“誰にも私の道は阻めぬ。そなたも、ましてヴィヴェクなどは。あれは詩人だ、愚か者だ。そしてソーサ・シル……あの男はいつも、自分を我らより上に置いていた。我らを避け、この穴蔵に閉じこもって。死ぬときも、一言も口にしなかった。ささやきひとつ。死んでなお、あの男は沈黙で私を嘲ったのだ! だが、そなたは叫ぶだろう、定命の者よ。いま、そなたが向き合うのは唯一の真の神なのだから”

希望の火と真実の炎

女神が抜いたのは、ホープスファイアであった。ネレヴァリンの手には、トゥルーフレイムがある。夫婦の契りと二つの民の盟約を祝って贈られた対の剣が、三千五百年ののちに、はじめて互いへ向けられた。

心臓の力を失ってなお、アルマレクシアの術は凄まじかった。雷が走り、炎が弾け、円蓋の歯車が震えた。三千五百年のあいだ生ける神と呼ばれた者は、その名に恥じぬ戦い方をした。

刃と刃がぶつかるたびに、二振りの炎が散った。希望の火は熱く、真実の炎は揺るがなかった。

そして、ついにその時が来た。

希望の火が、床に落ちた。

乾いた音が円蓋に響き、慈悲の母は膝をついた。長く民の上に立ちつづけた女神は、クロックワーク・シティの冷たい床に崩れ落ちた。頭上の歯車だけが、変わらず時を刻んでいた。

灰の民の伝えが正しいなら、かつてこの女はレッドマウンテンで夫を死なせている。その女神が、いま夫の剣に倒れたのである。

ネレヴァリンは女神の指から迷宮の指輪を外し、それをはめてモーンホールドへ戻った。

狂った者を贖う

神殿の外では、アズラが待っていた。

“よくやった、定命の者よ。アルマレクシアの死は、モロウウィンドのすべてにとって恵みである。そう悟られるまでには、時がかかろうが。あの女は、愛した者すべてを裏切ったように、いずれダンマーをも裏切ったであろう。それがあの女の呪いであり、あの女の破滅であった”

ソーサ・シルのために泣くことはない、とアズラは言った。あの者はとうの昔に定命を脱ぎ捨てており、その死は小さからぬ安らぎであったはずだという。そして還りし者に、そなたの務めはまだ終わらぬと告げた。ヴィヴェクはまだ生きているが、その時は長くない。わが民を守れ、この地を守れというのである。

三千五百年前、第一評議会の平和のなかで、ネレヴァルは自分の仕事を成し遂げたと思っていたのかもしれない。だがアズラは、還りし者にそう思わせなかった。

灰嵐はやみ、モーンホールドの空はふたたび晴れた。偽りの神々は神の座から解き放たれ、砕けていた剣はふたたび結ばれ、狂った女神は贖われた。第七の試練は、その最後の句まで果たされたのである。

最後の一柱

ネレヴァリンは、ヴィヴェクの宮殿へ戻った。

生ける神は、還りし者の顔をじっと見つめた。君が語らずにいることがあるのは分かる、と生ける神は言った。語らぬのは君の権利だ。だが預言者でなくとも、語られぬことの察しはつく。

ネレヴァリンがクロックワーク・シティで起きたことを告げると、ヴィヴェクは静かに答えた。

“それは、ひどく悲しい話だ。ソーサ・シルは、あれに殺されたのだろう。私にも手をかけるかもしれないと思っていた。そして君をも殺そうとしたのだろう、ネレヴァリン。だが死は、定命の者のもとにいつか来る。そして我々はもう、みな定命の身だ。いずれ死は私のもとにも来るだろう。あるいは君の手によって。運命を拒んでも甲斐はない。それでも私は、ひどく、ひどく悲しい。栄光と気高い約束から始まったものが、こんな形で終わるのは”

ほかに、それを信じた者は少なかった。

女神の大司教ガヴァス・ドリンは、まるで取り合わなかった。トリビュナルは生ける神だが、いつでも会えるわけではない。幸福な時代には民の前に姿を見せたが、時代は変わり、もう誰もトリビュナルを見てはいない。だから女神の亡骸など見つけられるはずがないというのである。神殿の中庭にいた者は、『三十六の教訓』を読んだこともないのかと呆れ、あれは不死の神々だと言った。

王ヘルセスは、還りし者の話を信じた。ただし、民が同じように受け入れるとは思うなと言った。信じる者たちの心の中で神々を殺すのは、容易ではない。時はかかるが、モロウウィンドには新しい時代が来る。そしてそれを率いるのは自分だと、若い王は言った。王母バレンジアは、なんとも見ものだとつぶやいた。いくらでも使い道があるというのである。

やがて都には、神殿の流した噂が広まった。女神はダゴス・ウルとの戦いで身も心も疲れ果て、しばらく身をやつして民のあいだで暮らし、世を愛する心を取り戻そうとしておられる、というのである。

慈悲の母は、民の知らぬところで死んだ。そして民のあいだには、女神が身をやつして通りを歩いているという噂だけが残った。

第一評議会の時代、ネレヴァルのそばには五人がいた。

妻にして女王、アルマレクシアは、夫の剣に倒れた。
教師にして魔導士、ソーサ・シルは、一言も残さずに死んだ。
忠臣にして友、ヴォリン・ダゴスは、心臓とともに消えた。
地下の血の友、デュマックは、三千五百年前にドゥーマーとともに消えていた。

若き戦友にして詩人、ヴィヴェクだけが、まだ生きていた。だがその時もまた長くは残されていないと、アズラは見ていた。

三千五百年前、心臓の間で、三人の定命の者が神になった。

三千五百年ののち、その三人は、ふたたび定命の者に還っていた。

解説 ──神の仮面の下にあった顔

この連載は、題のとおり一つの問いを追ってきました。トリビュナルとは、何者だったのでしょうか?

トリビュナルがどうやって神になったのかは、すでに分かっています。アズラの前で立てた誓いを破り、ロルカーンの心臓から神性を借りた三人のチャイマーです。けれど何者だったのかは、神である間にはかえって見えにくいものです。力さえあれば、どの神も慈悲深く賢く強く見えるからです。

心臓を失った年に、トリビュナルはそれぞれ違う終わり方をしました。一柱は悲しみ、一柱は黙り、一柱は最後まで神であろうとしました。

その終わり方は、神殿が教えた三つの徳よりも、神になる前の彼らの顔によく似ていました。第一評議会の時代にネレヴァルのそばにいた、女王と魔導士と詩人の顔です。

彼らの最期を見届けたアズラは、ネレヴァリンにこう語っています。

“ソーサ・シルのために泣くのではない。あの者はとうの昔に定命を脱ぎ捨てていた。その死はあの者にとって、小さからぬ安らぎであったと私は信じる。この神々は、定命の者が持つはずのなかった力を背負って生きてきたのだ”
(Weep not for Sotha Sil. He shed his mortality long ago, and I am certain his death was no small relief to him. These gods lived with the burden of a power no mortal was meant to possess.)

アズラの言葉(モーンホールドの神殿の外)より

三千五百年前にトリビュナルを呪った女神が、最後に使った言葉は「重荷」でした。つまりアズラの目に映っていた三人は、罰を受ける罪人である前に持つはずのなかった力を背負わされた定命の者だったのです。

アルマレクシアはなぜ狂ったのか?

アルマレクシアが壊れていくことは、ヴィヴェクが先に見抜いていました。心臓を失う前に宮殿でアルマレクシアのことを聞かれて、ヴィヴェクはこう答えています。

“連絡は取っていない。心臓がなければ、我々の神の力は衰えるほかない。彼女は自分の神性をひどく真剣に受け止めていて、それを失うことが重くのしかかっている。ふさぎこみがちで、自分や他の者を傷つけはしないかと案じている”
(We don’t communicate. Without the Heart, our divine powers must diminish. She takes her divinity very seriously, and the loss weighs heavily on her. She tends to brood, and I fear she will do herself and others harm.)

ヴィヴェクのゲーム内対話 より

心配は、そのとおりになりました。ですが神の力を失ったのは、三柱とも同じです。なぜアルマレクシアだけが、ここまで壊れたのでしょうか?答えは、彼女が担っていた徳そのものにあると私は読みます。

見えなければ届かない慈悲

神殿はトリビュナルを、三つの徳で教えてきました。慈悲のアルマレクシア、神秘のソーサ・シル、熟達のヴィヴェクです。このうち慈悲だけは、ほかの二つと性質が違います。

  • 熟達は、言葉や技で示せます。詩を書き戦に勝てば、それが熟達の証しになります。
  • 神秘は、黙っていても保てます。むしろ黙っているほど深まります。
  • 慈悲は、受け取る者がいて初めて成り立ちます。癒やされる病人と、施される貧者が要ります。

つまり慈悲の女神は民の前に出て何かを差し出しているところを見られていなければ、慈悲の女神でいられません。ところが三柱は、長く民の前から姿を消していました。モーンホールドの神殿で病人を診る治療師は、打ち解けた相手にだけこう打ち明けます。

“この五十年、トリビュナルは私たちのあいだを歩かなくなった。私たちの話を聞くことも、私たちと話すこともやめてしまった。それが心配で、悲しかった。神々は私たちを見捨てたのだろうか。弱っているのだろうか”
(For the last 50 years, the Tribunal stopped walking among us, stopped listening and speaking with us. This worried me, and made me sad. Were our gods abandoning us? Were they growing weak?)

モーンホールドの神殿の治療師 ガルサ・アンドラーノの言葉 より

姿を消した時期は五十年前とも十年前とも言われ、民の記憶はそろっていません。王ヘルセスも、女神は礼拝堂からほとんど出てこないと言っています。この不在は、ほかの二柱にとってはただの不在でした。けれどアルマレクシアにとっては、慈悲という神性そのものが民の目から消えることだったのです。

心臓の力を失った慈悲の女神には、民の前で差し出せるものがもう残っていませんでした。

感謝されるまで降る灰

差し出せるものを失った女神が選んだのは、灰嵐でした。教団を黙らせるために灰嵐を起こしたあと、女神は還りし者にこう言っています。

“灰嵐は、この民が私の行いのすべてに感謝するようになったと思えるまで、モーンホールドに吹きつづける”
(The ashstorms will continue in Mournhold until I feel that these people have grown to appreciate all I do for them.)

アルマレクシアの言葉 より

女神が求めていたのは、民が救われることではありませんでした。民が女神に感謝することです。そのために、女神は民を苦しめる嵐を選びました。

しかもその嵐を起こしたのは女神自身の力ではなく、還りし者に動かさせたドゥーマーの天候の機械でした。それでも女神は、「私の力は少し衰えているだけだ。失われてはいない」と言い張っています。かつて三柱は、ドゥーマーの道具で心臓から神性を借りました。心臓を失った女神は、今度はドゥーマーの機械から奇跡を借りたのです。

そのうえ灰嵐はヴァーデンフェルでは珍しくありませんが、レッドマウンテンから遠いモーンホールドには吹いたことがありませんでした。女神自身がそう言っています。つまり慈悲の女神はレッドマウンテンの灰を知らなかった自分の都に、わざわざ灰を降らせたのです。灰の下で、女神は得意げでした。

“わが民は空を仰ぎ、そこにわが主権の証しを読み取っている。天と地をこれほど従えた神が、かつていたであろうか”
(My people look upon the elements, and see there written a divine testament to my lordship. Did ever any other god display such dominion over the earth and sky?)

アルマレクシアの言葉 より

ところが民の側では、逆のことが起きていました。灰嵐を知った教団の頭目は、これで信徒はかえって押し寄せると言っています。力を見せつけるための嵐は、三柱が衰えたという教団の言い分を裏づける徴にしかならなかったのです。

慈悲を差し出せなくなった女神は、代わりに畏れを差し出しました。

救い主になるための災い

クロックワーク・シティで女神が明かした筋書きは、五つの手順でできていました。

  1. 迷宮の指輪でクロックワーク・シティへ渡り、ソーサ・シルを殺す
  2. 機械の兵をモーンホールドへ放ち、都を襲わせる
  3. 襲撃を狂ったソーサ・シルのしわざにする
  4. 還りし者を討伐に送り、そこで死なせる
  5. 英雄は最期に女神への忠誠を叫んだと、民に語る

“私こそが民の救い主となる! 私ひとりが、民の救いとなるのだ!”
(I will be the savior of my people! I alone will be their salvation!)

アルマレクシアの言葉(クロックワーク・シティ)より

つまり女神は、都を救うために都を襲わせました。救われる者がいなければ慈悲を見せられない神が、救われる者を自分で作ったのです。

殉教者の扱いも同じでした。女神は時の終わりの頭目を殺すなと命じ、その理由を「殉教者の言葉は、狂信者の言葉よりも大きく響く」と言いました。そして最後に欲しがったのが、自分のための殉教者です。殉教者の力を誰よりも知っていたからこそ、それを敵に渡さず自分の物語に使おうとしたのでしょう。

アルマレクシアが欲しかったのは、民を救うことよりも民の救い主として語られることでした。

愛した者をすべて裏切った女神

女神の死を告げたアズラは、その生き方を一言でまとめています。

“あの女は、愛した者すべてを裏切ったように、いずれダンマーをも裏切ったであろう。それがあの女の呪いであり、あの女の破滅であった”
(She would have betrayed the Dunmer as surely as she betrayed all those she loved. This was her curse, and this was her undoing.)

アズラの言葉 より

では「愛した者すべて」とは、誰のことでしょうか? この章で女神が愛や親しみを口にした相手を並べると、その全員が女神の筋書きのなかで死ぬ役を負っていました。

  • サラス・ヴァロール:いちばん信頼していた御手
  • ソーサ・シル:「私を本来の座へ引き上げた」古い友
  • ネレヴァリン:還ってきた「私のネレヴァル」
  • ヴィヴェク:ともに神となった兄弟

夫のネレヴァルについても、灰の民は三人が毒を盛ったと伝えています。ただしそれは灰の民の伝えで、神殿は戦いの傷がもとで倒れたと教えています。どちらが真実かは分かりません。

とくにサラス・ヴァロールの一件は、還りし者自身の行く末を先に見せていました。同じ出来事でも、サラスと女神の語ることはまったく違います。

サラスの言い分女神の言い分
女神が変わった。いまは自分の力だけを愛しているサラスは神の輝きを見て、正気を失った
還りし者は、女神の新しいお気に入りだ還りし者は、女神の忠実なしもべだ
どちらが死んでも、女神は喜ぶサラスの死に、胸が張り裂けそうだ

“かつてあの方は、すべての者に愛を注がれた。愛さずにはいられなかった。仕えずにはいられなかった。だがあの方は変わられた。いまあの方が愛しておられるのは、力だけだ。ご自分の力だけだ”
(Once she showered her love on everyone, and it was impossible not to want to love her, to serve her, in turn. But now the only thing she loves is power — her own power.)

アルマレクシアの元御手 サラス・ヴァロールの言葉 より

女神はサラスの死に胸が張り裂けそうだと言い、同じ息で褒美を選べと急かしました。前のお気に入りの死は、次のお気に入りへの褒美に変わったのです。還りし者は、クロックワーク・シティでその次の番になるはずでした。

この独り占めの気質は、神になってから生まれたものではないのかもしれません。アルマレクシアはネレヴァルと出会う前から一つの都を治める女王でした。還ってきた者を「私のネレヴァル」と所有の言葉で呼び、ヴィヴェクを詩人の愚か者と見下し、ソーサ・シルを「自分を我らより上に置いていた」と恨みました。並び立つ者を許せない女王の顔が、神の仮面の下から最後に出てきたのです。

アルマレクシアの呪いとは、愛した者を自分の物語のなかで死ぬ役にしてしまうことでした。

最後まで借りつづけた神

心臓から神性を借りていたのは、三柱とも同じです。けれど心臓を失ったあと、アルマレクシアだけは借りることをやめませんでした。

借りたもの何に使ったか
カグレナックの道具心臓から神の力を引き出し、三柱で神になる
ドゥーマーの天候の機械都に灰嵐を起こし、神の力を見せつける
バリルザルの迷宮の指輪クロックワーク・シティへ渡り、ソーサ・シルを殺す
還りし者の死殉教の物語を語り、民を一つの信仰に束ねる

最初の一つについて、女神自身がこう語っています。

“カグレナックの道具の謎を解き明かし、私を本来の座へ引き上げたのは、ソーサ・シルだ”
(It was Sotha Sil who was able to delve the mysteries of Kagrenac’s tools, and raise me to my rightful station.)

アルマレクシアの言葉 より

女神は神になった日のことを「本来の座」へ引き上げられたと言います。つまり自分が神であることを、借り物ではなく本来の姿だと信じていました。だから心臓を失っても、それを返すものとは思えなかったのでしょう。

神であることを本来の姿だと信じた女神は、力を失ったあとも神であるための道具を借りつづけた。

アルマレクシアが狂ったのは、神の力を失ったからではありません。慈悲の女神であるためには見られることが要り、見られるためには力が要り、その力を最後まで自分の外から借りつづけたからです。

ソーサ・シルは本当に狂っていたのか?

女神はネレヴァリンを送り出すとき、ソーサ・シルは狂ったと言いました。物語の終わりで、狂っていたのは女神のほうだったと分かります。けれどソーサ・シルが正気だったと示す材料も、多くはありません。この時代にソーサ・シルについて語ったのは、ほかの者ばかりだからです。

狂気の証拠とされた言葉

女神はソーサ・シルが狂ったと考えた理由をこう挙げています。

“しばらく前から、ソーサ・シル卿はシェオゴラスの領域に踏み入ったのではないかと疑っていた。訪れは次第に間遠になり、そのたびに激しい怒りを見せた。そして、トリビュナルの終わりと古き神々の帰還を口にしはじめたのだ”
(I have suspected for some time that the Lord Sotha Sil had entered Sheogorath’s realm. His visits have been more and more infrequent, and punctuated by violent fits of anger. He began to speak of the fall of the Tribunal and the return of the Old Gods.)

アルマレクシアの言葉 より

シェオゴラスは、狂気をつかさどるデイドラ公です。その領域に踏み入ったとは、正気を失ったという意味になります。

挙げられた三つは、どれも女神の言葉のほかに確かめる手立てがありません。そしてこの女神は、機械の兵をソーサ・シルのしわざだと偽った当人です。つまりソーサ・シルが本当に狂っていたのかどうかは、この時代の記録からは決められません。

ただ、三つ目の言葉は、嘘だとしても奇妙な選び方でした。トリビュナルの終わりと古き神々の帰還は、ヴィヴェクが神殿に命じたことと同じだったからです。ヴィヴェクは、神殿の行く末をこう決めています。

“心臓の力がなければ、我々の神の力は衰える。神としての日々は数えるほどしか残っていない。(中略)我々はもはや神としてではなく、聖人と英雄として敬われるだろう。そして神殿は父祖の信仰へ、祖霊と三善デイドラ、アズラ、メファーラ、ボエシアへの崇拝へ還る”
(Without the power of the Heart, our divine powers diminish. Our days as gods are numbered. … We may be honored no longer as gods, but as saints and heroes, and the Temple will return to the faith of our forefathers — the worship of our ancestors and the three good daedra, Azura, Mephala, and Boethiah.)

ヴィヴェクのゲーム内対話 より

モーンホールドの治療師も、神殿の司祭の一部が三柱を聖ネレヴァルのような聖人として祀り直す改革を考えているという噂を聞いていました。つまり女神が狂気の徴として挙げた言葉は、神殿の中でも口にされはじめていた見通しでした。

ソーサ・シルが本当にそれを口にしていたのなら、彼はヴィヴェクと同じ見通しに立っていました。口にしていなかったのなら、女神は兄弟を狂人に仕立てるのに、自分がいちばん聞きたくない言葉を選んでいました。どちらにしても、女神にとっての「狂気」とは、神々の時代が終わるという見通しそのものだったのです。

見る者と造る者

女神はソーサ・シルの見通しを退けるとき、自分と兄弟の違いをこう言い表しています。

“だがソーサ・シルは、見る者ではない。造る者だ。あの男が形づくるのは、いまここにあるものだけ。この先に来るものを知らされているのは、私ひとりなのだ”
(But Sotha Sil is not a Seer; he is a Maker. He shapes the Here and the Now, while only I have been privy to what is to come.)

アルマレクシアの言葉 より

女神は未来を見るのは自分だと言います。ところがトリビュナルの神性が終わりへ向かうことは、ヴィヴェクにも時の終わりの教団にも見えていました。ヴィヴェクは神殿を古き神々へ還すと決め、教団は神々の死に備えていたのです。見る者を名乗った女神は、自分の終わりだけは見ていませんでした。

神々を造った者の沈黙

ソーサ・シルは、トリビュナルという神々を造った者でもありました。女神自身も、カグレナックの道具の謎を解いて自分を神の座へ引き上げたのはソーサ・シルだと言っています。神々を造った者は、女神の言葉を信じるなら神々の終わりを口にし、そして何も言わずに死にました。

なぜ沈黙したのかは、分かりません。この時代に彼自身の言葉を伝える者がいないからです。ヴィヴェクでさえレッドマウンテンでの敗北のあとは便りを聞いていないと言います。そしてヴィヴェクは、ソーサ・シルが心臓の力を失ってもその喪失に気づきさえしないだろうと見ていました。アズラの言うとおり、彼はとうの昔に定命を脱ぎ捨てていたのかもしれません。

ただ、沈黙がアルマレクシアに何をしたのかは分かります。女神は最後に「死んでなお、あの男は沈黙で私を嘲った」と叫びました。見られることと応えられることで神であった女神にとって、応えないまま死んだ兄弟は最後まで自分を認めなかった者でした。女神が殺したのは兄弟の命でしたが、兄弟の沈黙までは殺せなかったのです。

狂っていたのは狂人と呼ばれた造り手ではなく、終わりを認められなかった女神のほうでした。

第七の試練の「その慈悲」は誰の慈悲だったのか?

慈悲は、受け取る者がいて初めて慈悲になります。灰の民の預言が還りし者に託した最後の試練は、その慈悲で三つのことをすると書いていました。

  • 呪われた偽りの神々を解き放つ
  • 壊れたものを結ぶ
  • 狂った者を贖う

二つ目の句の「壊れたもの」が何を指すのかは、預言の言葉だけでは決められません。この章でいえば、レッドマウンテンで砕けた夫の剣が、還りし者の手で一振りに鍛え直されています。

最初の句は、アズラの言葉とよく合います。三柱は「定命の者が持つはずのなかった力を背負って」生きてきました。つまり預言の慈悲とは三柱を罰することではなく、その重荷を下ろさせることでした。そして重荷の下ろし方は、三柱で分かれました。

  • ヴィヴェク:自ら受け取った
  • ソーサ・シル:死によって下ろした
  • アルマレクシア:拒んだ

面白いことに、慈悲の女神を終わらせた慈悲は誰にも見られていませんでした。女神は民の前で慈悲を見せることにこだわり、見せる力を失うと灰嵐まで起こしました。ところが還りし者の慈悲は、クロックワーク・シティの円蓋のなかで誰の目にも触れずに果たされています。しかも帰ってきて話しても、ほとんど誰にも信じてもらえませんでした。

見られることでしか慈悲でいられなかった女神は、誰にも見られない慈悲によって贖われたのです。

神殿はネレヴァルの死をどう語ったのか?

クロックワーク・シティで、女神は還りし者を自分の「最大の殉教者」にしようとしました。三千五百年前にも、神殿はネレヴァルを殉教した英雄として祀っています。では神殿は、ネレヴァルの死をどんな話にして民に教えていたのでしょうか?

答えは、ネレヴァルが死ぬ前にトリビュナルを祝福したという話でした。ネレヴァルについて語ってきたのは、いつも生き残った者たちです。連載で引いてきたネレヴァルの言葉も、どれもヴィヴェクの本や灰の民の伝えのように、ほかの者が伝えたものでした。神殿もまた、西方の読者、つまり帝国の人々に向けた小冊子で、ネレヴァルの最期をこう書いています。

“ネレヴァルは裏切り者ダゴス・ウルとの戦いで深手を負い、レッドマウンテンを追われた。ほどなくその傷がもとで死んだが、それまでに神殿の誕生を見届け、ダンマーの結束をアルムシヴィと神殿と、そのすべての聖人の守りに託して祝福した”
(Nerevar, mortally wounded in combat with the traitor Dagoth Ur, was driven from Red Mountain. Nerevar died not long after of his wounds, but he lived to see the birth of the Temple, and to bless the unity of the Dunmer into the safekeeping of Almsivi, the Temple, and all its communion of saints.)

神殿の小冊子 『聖ネレヴァル』 より

つまり神殿の教えでは、ネレヴァルは死ぬ前に神殿の誕生を見届け、民の行く末をトリビュナルに託して祝福したことになっています。三人の神の座は、主君の最後の祝福を受けて始まったというわけです。この話のなかのトリビュナルは、誓いを破った者ではなく、ネレヴァルに後を託された者でした。

ところがこの話は、ヴィヴェク自身の『レッドマウンテンの戦い』と食い違います。ヴィヴェクの本では、三人はネレヴァルとともにアズラに立てた誓いを数年のあいだ守り、そのあとで道具を使って神になりました。トリビュナルを拝むための神殿は、三人が神になる前には生まれようがありません。ほどなく傷で死んだ者が、数年のちに生まれた神殿を見届けることはできないのです。しかも神になったその場で、アズラはネレヴァルがいずれ還ってきて三人を罰すると告げています。還ってくると告げられた者は、そのときもうこの世にいなかったはずです。

ヴィヴェクの本は、ネレヴァルがいつどう死んだかを書いていません。その空白を、神殿は祝福の話で埋め、灰の民は毒の話で埋めました。三人が神になったあと、ソーサ・シルは怯える民に、アズラの呪いを祝福だと説いています。主君の死もまた、神殿のなかでは祝福の話になっていたのです。

そして女神が還りし者の死で語ろうとしたのも、同じ形の話でした。

  • 神殿の小冊子のネレヴァル:深手を負い、死ぬ前に神殿を祝福して民をトリビュナルに託した
  • 女神が語るつもりだった還りし者:最期の息で、唯一の真の神への忠誠を叫んだ

どちらも、死にゆく英雄が最後に神を認める話です。そして語り手は、どちらも生き残った神の側でした。女神が三千五百年前の話を思い浮かべていたのかどうかは分かりません。ですが神々の時代は、死にゆくネレヴァルの祝福で始まり、同じ名で呼ばれた者の死にぎわの忠誠で閉じられるはずでした。

ところが還りし者は死なず、二度目の話は語られないまま、女神のほうが倒れました。神殿の話では、ネレヴァルは神々の時代の始まりを見届けたことになっています。そして神々の時代の終わりを本当に見届けたのは、その名で呼ばれて還ってきた者でした。

トリビュナルとは何者だったのか?

三柱の最期は、この連載のはじめに置いた二つの話に答えを返しています。神々と定命の者のあいだを流れる向きの話と、ただ一つの正史がないという話です。

遡った流れの行き着く先

TESの神々は、もとは完全な存在でした。けれどロルカーンの誘いで世界の創造に加わり、自らの力を世界に注いで不死を手放しました。神々が定命の者に近づくという向きは、神々自身が選んだものです。その流れは、神々から定命の者への一方通行でした。

第一紀の半ばに三人のチャイマーがその流れを逆に遡り、ロルカーンの心臓から神性を奪って神になりました。そして第三紀427年に心臓の縛りが断たれて、流れは元の向きに戻りました。ヴィヴェクの言葉を借りれば、「我々はもう、みな定命の身だ」ということです。

戻っていく流れに対して、三柱の構えは三様でした。

  • 詩人ヴィヴェク:流れに身をまかせた
  • 魔導士ソーサ・シル:流れの外にいた
  • 女王アルマレクシア:流れに逆らった

個人的には、三柱のうち自分の終わりを言葉にして受け入れたのは、ヴィヴェクだけだったと思います。神の座を降りたのは、自ら選んだからではありません。ダゴス・ウルを止める手がほかになく、追い詰められた末のことでした。けれど心臓を失ったあとのヴィヴェクは神であったことを惜しまず、神殿を祖霊と善きデイドラの信仰へ還すと決めました。そして自分にも死が来ることを、悲しみとともに受け入れています。追い詰められて神の座を降りた詩人は、最後にその降り方を自分で選び直したのです。

正史のない神々

トリビュナルの物語には、はじめからただ一つの正史がありません。心臓の間で何が起きたのかを知るのは、その場にいた者だけです。だからネレヴァルの死には、神殿の教えと灰の民の伝えという食い違う二つの物語が残っています。

アルマレクシアが最後にしようとしたのは、その語り手になることでした。「語るのは私だ」。還りし者を死なせ、その最期を生き残った自分が語って、正史にしようとしたのです。ネレヴァルの死も、生き残った者の語りが神殿の教えになり、殉教した英雄の物語として語り継がれてきました。女神は、還りし者の死でも同じことをするつもりでした。

ところが終わった日のことにも正史は生まれませんでした。還りし者の話を信じた数少ない一人、王ヘルセスはこう言っています。

“君の話は信じよう。だが、民が同じように受け入れるとは思わぬことだ。信じる者たちの心の中で神々を殺すのは、容易ではないと知ることになろう。時はかかる。だが、これはモロウウィンドの新しい時代だ。そして、それを率いるのは私だ”
(I believe your tale, but do not expect my people to be so accepting of it. You will find it is not so easy to kill these gods in the hearts and minds of their followers. It will take time, but this will be a new era for Morrowind, and I will lead them into it.)

ヘルセス王の言葉 より

実際、アルマレクシアの最期は聞く者によってまったく違う話になりました。

  • 還りし者:クロックワーク・シティで自分が討った
  • 王と王母:話は信じるが、表には出さない

つまりアルマレクシアの最期にも、ただ一つの正史はありません。真実を知る還りし者の話は、ネレヴァルの死についての灰の民の伝えと同じように、多くの者に作り話として退けられました。

奪った神性で始まった時代は、正史を持たないまま終わりました。

噂のなかを歩く女神

神殿が流した噂には、最後の皮肉がありました。治療師ガルサ・アンドラーノは、その噂をこう伝えています。

“噂では、女神はダゴス・ウルとの戦いで身も心も疲れ果てたそうだ。けれどこれからは身をやつして民のあいだを旅し、定命の者の暮らしを送って、世を愛する心を取り戻すおつもりだという”
(They say she exhausted her body and spirit in the war against Dagoth Ur, but now she plans to travel in disguise among the people, living the life of a mortal, and recovering her love for the world.)

モーンホールドの神殿の治療師 ガルサ・アンドラーノの言葉 より

「身をやつして民のあいだを歩き、世を愛する心を取り戻す」。これは、かつてのアルマレクシアの姿そのものです。自ら通りを歩いて病む者を癒やし、飢えた者に食べさせた、あの慈悲の母です。

本物のアルマレクシアは民の前に出ず、灰を降らせ、殉教者を欲して死にました。けれど民のあいだに残ったのは、神殿の作った物語のなかでもう一度通りを歩きはじめた女神でした。それも神としてではなく、定命の者として歩く女神です。

民がトリビュナルに求めていたのは、心臓の力そのものではなかったのかもしれません。神殿で病人を診るもう一人の治療師は、神殿の神々と西方の神々の違いをこう語っています。

“それが、神殿と西の信仰との違いだ。私たちの神は、かつて定命の者だった。生きること、食べること、眠ること、苦しむこと、悩むこと……そして死を恐れることがどういうものか、分かっている”
(That’s the difference between the Temple and the Western faiths. We have gods who were once mortals. They understand what it is like to live, eat, sleep, suffer, worry… and to fear death.)

モーンホールドの神殿の治療師 メーラ・ヘラスの言葉 より

民が誇りにしていたのは、かつて定命の者だった神でした。そして三柱は最後に、その定命の側へ還っていきました。ヴィヴェクは悲しみとともに還り、ソーサ・シルは沈黙のうちに去りました。そしてアルマレクシアは、神殿の噂のなかで定命の者になったのです。

トリビュナルとは、神々から定命の者へ流れる向きに逆らって神になり、最後にその流れへ還っていった三人の定命の者でした

三柱は心臓から借りた力で三千五百年のあいだ神でありつづけました。そして力を返す日に悲しんだのが一人、黙ったのが一人、最後までしがみついたのが一人でした。悲しんだ詩人と、黙った魔導士と、しがみついた女王。その三つの顔は、第一評議会の頃から彼らが持っていた顔です。

神の仮面を外したとき、そこにいたのは、ネレヴァルのそばにいた頃と同じ、女王と魔導士と詩人でした。

さらなる解説

解説で書ききれなかった四つの話を、もう少し深く掘ります。長くなるので、気になるものだけ開いてください。

ヘルセス王 ──英雄に刺客を送り、神の死を信じた王

ヘルセスは老いた王アシン・ルレサンのあとを継いで、モロウウィンドの王座に就いたばかりの若い王です。母のバレンジアは、かつてモーンホールドの女王の座にありました。先王については、ヘルセスが毒を盛ったという噂が都の刷り物に書き立てられています。ヘルセス自身は、先王は生きる気力を失ったように見えたと語るだけでした。

還りし者との関わりは、暗殺から始まります。闇の一党の頭目が持っていた契約書には「H」とだけ署名があり、近衛隊長デリティアンはそれが王の差し金だったとあっさり認めました。契約書によれば、Hは闇の一党の長である夜母と「永続の契約」を結んだ依頼主でした。

では、王はなぜ還りし者に刺客を送ったのでしょうか? 王自身は、わけをこう説明しています。

“そう……我らはヴァーデンフェルじゅうに、金で雇った情報屋を置いている。あいにく、その知らせが誤っていることもある。情報屋の一人が、君は我らの王座を脅かしうると告げてきたのだ。それは許されぬ。分かってもらえよう”
(Yes…we have various sources throughout Vvardenfell that are paid well to provide us with information. Unfortunately, sometimes it proves to be incorrect. One of our informants had suggested that you could pose a threat to our monarchy. That cannot be allowed, as I’m sure you understand.)

ヘルセス王の言葉 より

つまり王にとって還りし者は、確かめる前に消しておくべき「王座への脅威」でした。王座に就いたばかりの王の足もとは、まだ固まっていません。先王の死には毒の噂がつきまとい、王自身も「騒ぎに乗じて得をしようとする者も、我らの死を望む者さえいる」と認めています。そこへ、三大名家からホーテイターと認められ、四つの部族からネレヴァリンと呼ばれた者が現れました。モロウウィンドを一つに束ねうる英雄は、足もとの定まらない王にとって、いちばん危うい相手だったのです。女神が還りし者に持ちかけたのも、「モロウウィンドをふたたび一つにする」ことでした。

王は刺客の件を「不運な出来事」と片づけました。けれどこの言い訳は、そのままは信じられません。王はそのあとも、還りし者を二度試しているからです。

  1. 闇の一党の刺客:眠っているところを襲わせた
  2. 王母を狙う企み:王母の部屋の前にひとりで隠れさせ、そこへ刺客を送った
  3. 王の闘士:近衛のカロッドと、降参するまで立ち合わせた

二つ目は、王母バレンジアの暗殺が企てられているという話でした。王は、衛兵を増やせば企みに気づかれると言い、還りし者ひとりに衝立の陰で待たせます。ところが約束の夜、明かりが消えて聞こえてきたのは、「王母の部屋の、衝立の陰だと、あの方が言った」という刺客のささやきでした。王母の部屋の扉は魔法で閉ざされ、狙われていたのは還りし者のほうだったのです。王母の書記は、その前にこう忠告していました。

“バレンジア様を狙う企み? ばかげている。あの方を傷つけたい者など思いつかない。気をつけなさい。ヘルセス王は用心深い方で、新しい味方の忠誠を試すのを楽しんでおられる。そのためなら、王は自分の母を危険にさらすこともためらわないだろう”
(A plot against Barenziah? That’s ridiculous! I can’t think of anyone who would want to harm her. Take care with this friend. King Helseth is a wary one, and delights in testing the loyalty of his new friends. I do not believe the King would hesitate to put his own mother in danger in order to do so.)

王母の書記 プリティニウス・メロの言葉 より

生きて戻った還りし者に、王は「持ちこたえたか。ほう。脅威は思ったほどではなかったのかもしれぬ」と言っただけでした。三つ目の立ち合いだけは、命ではなく腕を試すものです。それにも勝つと、王は父シンマカスの短剣を褒美に与え、今度は手を組もうと持ちかけました。都を襲った機械の兵について、女神から話を聞き出してほしいというのです。

消せなかった脅威を、王は味方として使うことにしたのです。還りし者の命を狙ったのは、神殿の女神だけではありませんでした。モーンホールドの王宮と神殿は、どちらも一度は還りし者の死を望んでいたのです。

王と神殿は、もともと張り合う間柄でした。神殿の家令は、王が都の地下で小鬼の軍勢を育てていると疑っていました。そして王は、アルマレクシアにもトリビュナルにも「さほどの愛着はない」とはっきり言っています。女神のほうは最後の独白で王を「操り人形の王」と呼び、いずれ自分の意志にひれ伏すと言いました。

還りし者の話をほとんど誰も信じないなかで、王は数少ない信じた者の一人でした。ただし王が見ていたのは神々の死そのものより、その先に来る新しい時代です。信じる者の心の中で神々を殺すには時がかかるが、それを率いるのは自分だと言いました。かつて女王だった女神が民を一つの神のもとに束ねようとした都で、若い王は神のいない時代を率いると宣言したのです。

時の終わり ──神々の死を先に信じた者たち

時の終わり(End of Times)は、機械の兵の襲撃のあとにモーンホールドで生まれた教団です。頭目のエノ・ロマリは、還りし者に教えをこう語っています。

“我らの教えは簡単だ。祝福されしトリビュナルは、かつて栄光に満ちていたが、もはやかつての神々ではない。潮とタムリエルの月のように、あらゆる宇宙の力は満ちては欠ける。だが神々が死ねば、その波は地の隅々まで広がる。三柱の死は、この時代の終わりと次の時代の始まりの前触れとなるだろう”
(Our beliefs are very simple, dear friend. The blessed Tribunal, though once filled with glory, are no longer the gods they once were. As with the tides and Tamriel’s moons, all cosmic powers will wax and wane. But, when gods die, it creates ripples throughout the lands. The passing of the Three will be a prelude to the end of this era, and the beginning of the next.)

時の終わりの頭目 エノ・ロマリの言葉 より

教団の見立ては、神々の力が衰えたという一点では正しかったのです。ところが教団は、その先を恐れました。時代の終わりにはデイドラが地にあふれ、守りになるのは祖霊だけだと考えたのです。そこで信徒たちは「浄め」と呼ぶ儀式で毒をあおり、ひと足先に祖霊のもとへ行って戦いに備えようとしました。見つかった亡骸は七つにのぼります。

女神は頭目を殺すなと命じましたが、教団の言い分には灰嵐で応えました。ところがエノ・ロマリは嵐を見て、信徒がかえって押し寄せると言っています。力を失った神の力比べは、神々の死を信じる者たちにもう一つの徴を与えただけでした。

三柱の死を誰よりも先に信じたのは、神殿でも王宮でもなく、都の片隅で毒をあおった人々でした。

カルスタングズ=ブカーン ──雨を呼ぶ機械が灰を呼んだ

カルスタングズ=ブカーンは、モーンホールドの地下に眠っていたドゥーマーの遺跡バムズ=アムシェンドの機械です。女神の説明では、名はおおよそ「天候の魔女」と訳せます。

“その盛りに、ドゥーマーの文明は機械を見事に使いこなしていた。日照りのとき、ドゥーマーの学者たちは、その地に雨をもたらす機械を造るよう命じられた。そうして造られたのが、カルスタングズ=ブカーンだ。都の下に遺跡が開くまで、それは伝説にすぎなかった”
(At its height, the Dwemer civilization was masterful in the use of machinery. In a time of drought, Dwemer scholars were commissioned to create a machine that would bring rain to their lands. They created the Karstangz-Bcharn. Its existence was little more than a myth until recently, when the ruins opened beneath my city.)

アルマレクシアの言葉 より

つまりこの機械は、もとは渇いた土地に雨を降らせるための慈悲の機械でした。それを慈悲の女神が、民に灰を浴びせるために使ったのです。

灰嵐が起きると、女神は自分の魔法で機械を封じて誰も手を出せないようにしました。嵐は、民が女神に感謝するようになるまで続くはずでした。ところが女神が死ぬと、機械を縛っていた力も消えます。アズラがモーンホールドの空を晴らし、その後は還りし者が自分の手で都の天気を変えられるようになりました。

女神の奇跡は、女神が死ぬと誰にでも動かせるただの機械に戻りました。借りた奇跡は、借り手がいなくなればもう誰の奇跡でもなかったのです。

大聖人 ──三柱と聖ネレヴァルが並んでいた列

神殿には、大聖人と呼ばれる聖人の列があります。神殿の者に大聖人のことを聞くと、こう答えます。

“神殿の大聖人と、それぞれが守る者を挙げよう。守り手たる祝福されしアルマレクシアは癒し手と教え手を、魔導士たるソーサ・シル卿は工匠と魔術師を、詩人たるヴィヴェク卿は芸術家と無頼の者を守る。将たる聖ネレヴァルは戦士と政治家を、巡礼者たる聖ヴェロスは追放者と求道者を守る”
(The greater saints of the Temple, listed with their proper spheres, are: Blessed Almalexia the Warden — Healers, Teachers, Lord Sotha Sil the Magus — Artificers, Wizards, Lord Vivec the Poet — Artists, Rogues, Saint Nerevar the Captain — Warriors, Statesmen, and Saint Veloth the Pilgrim — Outcasts, Seekers.)

「大聖人」についてのゲーム内対話 より

つまり神殿では、三柱とネレヴァルはもとから同じ大聖人の列に並んでいました。違うのは呼び名です。三柱は「祝福されし」「卿」と呼ばれ、一柱ずつ聞けばモロウウィンドの三人の不死の神王だと答えが返ってきます。ネレヴァルとヴェロスは「聖」と呼ばれるだけです。

しかもソーサ・シルは魔導士、ヴィヴェクは詩人と呼ばれています。神殿は神である二柱を、神になる前の顔の名で呼んでいたのです。アルマレクシアだけは女王ではなく守り手と呼ばれ、女王の顔は民を守る者の名の下に隠れていました。

神殿の改革を考える司祭たちは、三柱をその聖ネレヴァルと同じように、神ではなく聖人として拝むつもりだと噂されていました。ヴィヴェクも、三柱はもはや神ではなく聖人と英雄として敬われるだろうと言っています。同じ列のなかで外れるのは、三柱だけに付いていた「不死の神」という一語です。

三千五百年前、ネレヴァルは死んで神殿の聖人になり、三人は神になりました。三千五百年ののち、神でなくなった三人に残されたのは、はじめから隣にあった聖ネレヴァルと同じ席でした。

神々の時代の、その先へ

八つの章をかけて、三人のチャイマーが神になって神として治め、神でなくなるまでを辿ってきました。

三千五百年前、彼らは心臓の前で神になることを選びました。三千五百年ののち、一人のよそ者が同じ心臓の前で神にならないことを選び、二柱はその年のうちに死にました。残った詩人も、自分の時が長くないことを知っています。ヴィヴェクのその後とモロウウィンドに訪れる赤い年のことは、また別の記事で書きます。

モロウウィンドに暁は来ました。そして神々の黄昏も、ようやく終わりました。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

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