【TES世界観解説】ロルカーンの心臓とレッドマウンテンの戦い|トリビュナルとは何者か その2

当ページのリンクには広告が含まれています。

この記事では、Morrowindにおけるロルカーンの心臓、カグレナックの道具、ドゥーマーの消失、ネレヴァルとダゴス・ウル、そしてレッドマウンテンの戦いを、ゲーム内書籍と複数の伝承をもとに整理します。

神話時代の記事で語った通り、TESの神々(エイドラ)は世界を創造する過程で力を犠牲にしました。アーリエル最強の騎士トリニマックは、ロルカーンの胸から心臓を抉り出し、アーリエルはその心臓を矢に結びつけて、世界の誰も見つけられない遠くの海へと射ました。

しかし、この物語には続きがあります。

矢が落ちた場所では、海が沸騰し、大地が裂け、一つの火山が生まれました。それがヴァーデンフェルのレッドマウンテンです。神話時代の遺物は、神話の中だけにあるのではありません。それは現実の地理として、第一紀のチャイマーとドゥーマーが日々眺める山の地下に、確かに存在していたのです。

神話時代に起きた出来事は寓話ではなく、そのアーティファクトは今もどこかに埋まっている。これがTES世界の、もう一つの根本原理です。

そして第一紀の半ば、一人のドゥーマーが、その遺物を地下深くで発見しました。

──カグレナック。神を信じない民の中で、ただ一人、神になろうとした男。

目次

第二章:心臓の発見、そしてレッドマウンテンの戦い

第二章の物語パートで実際に主要な物語の骨組みとして使われているのは、ヴィヴェクの『レッドマウンテンの戦い』です。

BGM BGM 1

0:00 0:00

レッドマウンテンの地下深く

それは、いつのことであったか、定かではない。

第一評議会の平和の時代──ある日、レッドマウンテンの地下深くで、ドゥーマーの鉱夫たちが奇妙な石を発見した。鉱物としては見覚えのない石だった。光を放ち、触れる者の魂を震わせ、近づく者の思考を変質させる、何か途方もないものであった。

鉱夫たちはこの発見を上に報告した。やがてその報告は、ドゥーマー随一のトーナル・アーキテクト、大祭司にして大工匠、カグレナックの耳にまで届いた。

カグレナックは現地に赴き、自らの手でこの石を調べた。様々な手段を駆使して、彼はその正体を見極めた。

それは、神話時代にアーリエルが射ち落としたもの。神々が定命の世界を作るためにロルカーンの胸から抉り出し、罰として地に投げ落としたもの。

ロルカーンの心臓であった。

カグレナックがどう感じたかは、記録に残らない。確かなのは、彼がその瞬間から、生涯をかけた”ある計画“に取り憑かれたことである。

──この心臓を「演奏」できれば、ドゥーマーは神になれる。

不死、神性、そしてその先のもの。アルドマー時代から続いた「神を超える」という民族の悲願を、ついに実現できる。神を信じない民が、神そのものとなる。それは究極のサイジック・エンデバーであり、それと同時に、ドゥーマーらしい技術的解決でもあった。

カグレナックは作業に取り掛かった。

長い年月、彼は心臓の研究に没頭した。トーナル・アーキテクチャーの粋を集め、心臓と接続するための三つの道具を鍛え上げた。

 サンダー(Sunder) ──心臓に純粋なトーンを引き出すハンマー。

 キーニング(Keening) ──そのトーンを「色相(トーン・シェイド)」に分割する短剣。

 レイスガード(Wraithguard) ──二つの武器を扱う者を心臓の力から守る籠手。

そして彼の最終構想は、ヌミディウム(Numidium) であった。ロルカーンの心臓を動力源とする巨大な真鍮の構造体。ドゥーマー全体の魂を注ぎ込み、不死と神性をもたらす機械の神。後に「歩く星」「真鍮の塔」「真鍮の神」などさまざまな名で呼ばれることになる、TES世界における最も野心的な人造の存在。

しかし、ここに不可解な点がある。

カグレナックがこの計画を、自分の王であり、レスダイン全体の共同統治者でもあるデュマック・ドワーフキングに、どこまで打ち明けていたのか?

ある説では、デュマックはこの計画について何も知らなかった。カグレナックは秘密裏に研究を進め、王にも他の氏族にも、ましてやチャイマーには一切漏らさなかった。

別の説では、デュマックは知っていた、あるいは少なくとも疑っていた。しかし王は止められなかった。カグレナックは大祭司にして大工匠、ドゥーマー社会の精神的支柱の一人であり、その権威は王に匹敵した。

ヴィヴェクは後に、この点について沈黙を守った。彼は知っていたかもしれないが、語らなかった。

確実なのはただ一つ。

カグレナックは作業を続け、年月が過ぎ、心臓の演奏を可能にする日が近づいていた──ということだけである。

ヴォリン・ダゴスの密告

第一紀の半ば、ある日、レッドマウンテンの近くで、一人のチャイマーが何かを見た。

ダゴス家の当主、ヴォリン・ダゴス。ネレヴァルの最も忠実な臣下にして、ドゥーマーとも親しい関係にあった男。彼の家コゴルーンはレッドマウンテンの北側、ドゥーマー領の隣接地にあった。

彼がどうやってドゥーマーの計画を知ったのか、文献は語らない。「歴史に失われた手段により(through means lost to history)」とされている。

しかし、確実なのは、ヴォリン・ダゴスがある日、ネレヴァルと三人の側近──アルマレクシア、ヴィヴェク、ソーサ・シル──の前に立ち、重大な報告をしたことである。

ダゴス家は、ドゥーマーの冒涜的な秘められた力の源を発見していた。デュマックの民は、伝説のロルカーンの心臓を使って自らを不死とし、神々の尺度を超えた存在となっていた。そればかりか、大祭司カグレナックは新たな神を建造しており、ドゥーマーがレスダインを独占するための恐るべき兵器としようとしている、と。

ネレヴァルは、心を乱された。

ヴォリン・ダゴスは忠実な臣下であり、嘘をつく男ではなかった。しかし、もしこの密告が真実であれば──二百五十年続いた平和、血の友デュマックとの絆、すべてが崩壊することになる。

ネレヴァルは三人の側近──アルマレクシア、ヴィヴェク、ソーサ・シル──と、密告について議論した。三柱は口を揃えて戦争を主張した。「ドゥーマーへの素朴な友情に騙されてはならない。チャイマーの信仰と安全を守るのがホーテイターの務めである」。

しかし、ネレヴァルはまだ動かなかった。

デュマックへの問いかけ

ネレヴァルは、まずデュマックに直接尋ねることを選んだ。

血の友としての権利。二百五十年の友情への敬意。一介の臣下の密告を信じて開戦するのではなく、まず友の口から真実を聞く。それがネレヴァルの選んだ道だった。

彼はヴァーデンフェルへ赴き、デュマックに会見を求めた。

“友よ、私は嫌な噂を聞いた。お前の大祭司カグレナックが、レッドマウンテンの地下でロルカーンの心臓を発見し、それを使って新たな神を作ろうとしているという。これは、真実か”

しかし、ここで予想外のことが起きた。

会見の場に居合わせたカグレナック自身が、ネレヴァルの問いに激怒した。

ヴィヴェクが後に書き残した『レッドマウンテンの戦い/The Battle of Red Mountain』の表現によれば、カグレナックは「ネレヴァルが何様だと思って、ドゥーマーの問題を裁こうというのか」と詰め寄ったという。

これは興味深い反応である。もしカグレナックが本当に「そんな計画など存在しない」のであれば、彼は単に否定するだけで済んだはずだ。しかし彼は、計画の存在を認めるでも否定するでもなく、ネレヴァルの問いかけそのものを侮辱として受け取った。「ドゥーマーの問題に他民族の王が口を出す権利はない」と。

これは事実上の自白であった。少なくとも、ネレヴァルの目にはそう映った。

ネレヴァルは、ますます心を乱された。

ホラマヤン、アズラの神殿

確証を得るため、ネレヴァルはホラマヤン(Holamayan) へ向かった。

ホラマヤンは、ヴァーデンフェル島南東の海岸近く、潮の満ち引きによってのみ姿を現す神秘的な島にある、アズラの聖なる神殿である。チャイマーの宗教における最も神聖な場所の一つであり、女神の祝福を直接乞うことができるとされた──ただし、女神が答えるかは別問題だった。

ネレヴァルは祭壇の前で跪き、女神に問うた。

“アズラよ、我が女神よ。ヴォリン・ダゴスの言葉は真実なのか。ドゥーマーは我らの信仰を嘲るための神を造ろうとしているのか”

アズラは応えた。

──”ヴォリン・ダゴスの言葉は、すべて真実である。ドゥーマーの新たな神の創造は、あらゆる手段を以て阻止されねばならぬ”

ネレヴァルは、自分が立たされた場所を悟った。

血の友との戦争か、信仰の崩壊か。

友情の最後の試み

それでもネレヴァルは、即座の開戦を選ばなかった。

彼はもう一度、ヴァーデンフェルへ向かった。最後の交渉、最後の妥協、最後の友情の試み。デュマックを直接説得し、カグレナックに計画の中止を命じさせる。それで何とかなるのではないか。三百年近い友情が、それで救えるのではないか。

しかし、この最後の会見は、惨憺たる結果に終わった。

ヴィヴェクは後にこの場面を、ただ一言で記している──「二人は激しく口論した」と。具体的に何が語られたのか、両者の最後の言葉が何だったのか、ヴィヴェクは書き残さなかった。あるいは、書けなかったのかもしれない。

しかし、結果だけは明確だった。

二人は決裂した。三百年近く続いた血の友としての絆は、その日断たれた。

ネレヴァルはレスダインへ戻り、チャイマー諸名家に開戦を宣言した。デュマックはレッドマウンテンへ戻り、ドゥーマー諸氏族に防衛を命じた。

第一紀668年──「太陽の死(Sun’s Death)」と呼ばれることになる年。レッドマウンテンが最初の噴火を起こし、空が灰で覆われたその年に、第一評議会戦争(War of the First Council)が始まった。

戦争の前半 ──連敗するチャイマー

戦争は、当初、誰の予想とも異なる展開を見せた。

チャイマー諸名家は、ネレヴァルの号令の下、レッドマウンテンへ進軍した。彼らは数で勝り、士気も高く、信仰の戦いとして確信を持って戦った。

しかし、戦争は容易には進まなかった。

ドゥーマーはレッドマウンテンの要塞に堅く守られていた。何世紀にもわたって蓄積された軍事工学、トーナル・アーキテクチャーで動く機械の兵士たち、地下に張り巡らされた防衛線。チャイマーがいかに戦闘と魔法に長けていたとしても、要塞を正面から攻略することはできなかった。

レスダイン北部の戦線は、次々と崩壊した。チャイマーの諸名家は連戦連敗を喫し、後退を強いられた。

そしてこの時、外からの脅威が加わった。

スカイリムから、ノルドの大軍が南下してきたのだ。第一ノルド帝国は第一紀420年の継承戦争終結とともに崩壊していたが、その記憶はまだ生々しく、レスダインを再び支配下に置く野心を持つ者たちは多くいた。継承戦争の英雄、後に「灰の王(Ash King)」「ショールの舌」「北の竜イスミール」と呼ばれることになるノルド王ウルフハース(Wulfharth)は、すでに一度死んで蘇った身であったが、再びレスダインへ進軍した。

ノルドが介入した動機については、二つの相反する伝承がある。

ある版(帝国系の伝承)では、ノルドは単純に旧領回復の好機を見て侵攻した、とされる。チャイマーとドゥーマーが共倒れすればよし、勝者がどちらであろうと弱体化したレスダインは征服しやすい、という計算である。

別の版(ノルドの『五つの歌』)では、ヴォリン・ダゴスがノルドに使者として送られた、とされる。彼はノルドに「ショール(=ロルカーン)の心臓がレッドマウンテンにある」と告げ、ノルドを戦争に引き込んだ。さらにダゴス・ウルはトリビュナルに送られた密偵だったとすら主張される。トリビュナルがチャイマーとドゥーマーの平和を「ヴェロシの道の破滅」と見て、戦争を仕掛けるためにダゴス・ウルを使ったのだ、と。

どちらの版にせよ、結果は同じだった。ウルフハースの率いるノルドの大軍が、オーク氏族と同盟を組み、東のレッドマウンテンへ向けて進軍を始めた。一部の伝承ではカジートの英雄ドロ・ジラもアルコシュの召喚に応じてこの戦いに参加した、とされる。

レッドマウンテンは、三方から包囲される形となった。

そして、各勢力が、それぞれ違う目的でレッドマウンテンを目指していた。

チャイマーは、ドゥーマーの新たな神の創造を阻止するため。
ドゥーマーは、自分たちの神を完成させるため。
ノルドは、ショールの心臓を取り戻すため。

ロルカーンの心臓という、たった一つのものを巡って。

ホーテイター、再び

戦争の長期化と連敗の中で、チャイマー諸名家は再び動揺していた。テルヴァンニ家とドレス家は独自の戦線を主張し、フラール家は中立を考え始めた。第一評議会の解放戦争で示されたチャイマーの統一は、再び瓦解しかけていた。

ネレヴァルは、もう一度諸名家を説得して回らねばならなかった。

月と星の指輪、彼のホーテイターとしての権威、そして三百年近く積み重ねてきた信頼。それらを総動員して、彼は再びチャイマーを一つの軍に纏め上げた。

そして彼は、戦略を変えた。

ドゥーマーの正面戦力に対しては、チャイマーは勝てない。それなら、別の道を取るしかない。

ネレヴァルは、名家の外にいるもう一つのチャイマー──アッシュランダー(Ashlanders / 灰の民)と同盟を結んだ。ヴァーデンフェル島とレスダイン本土の荒野を遊牧する、名家に属さないチャイマーの諸部族である。長年、名家のチャイマーから「野蛮な遊牧民」として軽蔑されてきた人々だったが、彼らは古いヴェロシの伝統と三柱の善きデイドラへの直接的な信仰を守り続けていた。

ネレヴァルは月と星の指輪に誓いを立て、精霊の道と土地の権利を守ると約束した。

帝国の学者が後にまとめたアッシュランダー伝説にはこうある──

“ネレヴァルは名家の民の長であり戦長であったが、古き精霊を敬い部族の掟を守り、われらの一人となった。そしてネレヴァルが大いなる祖先の指輪に誓いを立てたとき、すべての部族が名家の民に合流し、レッドマウンテンの大いなる戦いに臨んだ”

この誓いが後の物語でどれほどの重みを持つことになるか、まだ誰も知らなかった。

第一紀668年の開戦から、およそ三十年余り。長い戦争の末──ネレヴァルは、ついに最終決戦の場をレッドマウンテンに定めた。

レッドマウンテンへ

第一紀700年のことである。

両軍は最後の決戦のために、レッドマウンテンに集結した。

二百五十二年の平和、その後の三十二年の戦争。すべてが、この一日に集約されようとしていた。

ネレヴァルは巧妙な策を用いた。デュマックの主力軍を平地におびき出して釘付けにする一方で、自身は少数の精鋭──ヴォリン・ダゴス、そして数人の同行者──を率いて、レッドマウンテンの地下深く、ロルカーンの心臓が安置された心臓の間(Heart Chamber)へと、秘密の経路を通って侵入した。

地表では、両軍が衝突した。チャイマーの諸名家とアッシュランダーの偵察兵、ドゥーマーのセンチュリオンと氏族戦士たち、そして遠くから攻め寄せたウルフハース率いるノルドとオークの連合軍。三十二年の戦争のすべての因縁が、レッドマウンテンの斜面で激突した。

しかし、戦の真の勝敗は、地表ではなく、地下で決した。

ネレヴァルとヴォリン・ダゴス、そして数人の同行者が、心臓の間に到達した。

──そこには、デュマックがいた。

──カグレナックがいた。

──そしてカグレナックの三つの道具──サンダー、キーニング、レイスガード──と、神話時代から地に眠っていた、ロルカーンの心臓そのものがあった。

そこで、何が起きたのか。

それは、永遠に分からない。

レッドマウンテンの戦いについて書かれた文書は数多く存在する。『レッドマウンテンのネレヴァル』、ヴィヴェク自身の手による『レッドマウンテンの戦い』、ノルドの吟遊詩人が伝えた『ウルフハース王 五つの歌』、アッシュランダーがアランドロ・スルから受け継いだ口承、ダゴス・ウル本人が後世にネレヴァルへ宛てて書き送った手紙、そしてヴィヴェクの『三十六の教訓』 第三十六説話──。

しかし、これら全ての文書は、心臓の間で何が起きたかについて、まったくと言っていいほど一致していない

ある文書は、ネレヴァルがデュマックを斬ったと言う。
ある文書は、デュマックは最後まで友であり、別の誰かに斬られたと言う。
ある文書は、ヴォリン・ダゴスは忠実な味方だったと言う。
ある文書は、ヴォリン・ダゴスはネレヴァルを裏切った敵だったと言う。
ある文書は、心臓に道具を振るったのはカグレナックだったと言う。
ある文書は、それはダゴス・ウルだったと言う。
ある文書は、それはネレヴァル自身だったと言う。
ある文書は、ヌミディウムが実際に作動し、その破壊力で内海そのものが生まれたと言う。

しかし、それらすべての伝承が、ただ一点でだけ完全に一致する。

その日、ドゥーマーは完全に消滅した。

レッドマウンテンの地下、心臓の間にいたカグレナックと側近たちだけではない。ヴァーデンフェル全土の地下都市、レスダイン本土の地下要塞、スカイリムの地下深くブラックリーチに広がる広大な都市群、遠くハンマーフェルへ移住したローケン氏族のヴォレンフェル──タムリエル全土に散らばっていた、すべてのドゥーマーが、同じ瞬間に消えた。

誰が、それをやったのか。 カグレナックなのか、ヴォリン・ダゴスなのか、それともネレヴァル自身なのか。 意図的だったのか、事故だったのか。 彼らは死んだのか、それとも別の領域へ転送されたのか。 あるいは「歩く星」という民族全体の不死化計画の途中で、何かが破綻したのか──。

埃が静まる頃には、その埃の大半が、ドゥーマーの全てであった。

解説 ──物語の細部を読み解く

第一章解説と同じく、物語の中でさらりと触れた要素を、もう一段深く掘り下げていきます。第二章は心臓と道具と人造神に関する、TES世界でも特に専門的な領域に踏み込むため、解説の比重は第一章よりやや重くなります。

ロルカーンの心臓とは何か

第二章の物語の中心にあるのは、ロルカーンの心臓そのものです。神話時代の記事で扱った内容と重なる部分もありますが、この章を理解するためには、心臓の性質をもう少し掘り下げる必要があります。

ロルカーンの心臓は、単に「ロルカーン神の臓器」ではありません。それは「神性の火花(divine spark)」 ──神そのものの本質、神を神たらしめている原理の結晶です。

神話時代、ロルカーンはアーリエルの最強の騎士トリニマックによって胸を抉られました。ここで、興味深い事件が起きました。

抉り出した心臓を、トリニマックとアーリエルは、その場で破壊しようとしたのです。神を作り変える力を持つこの危険なアーティファクトを、神話時代のうちに永久に消し去ろうと。

しかし、心臓は破壊されませんでした。

それどころか、心臓は神々を嘲笑ったといいます。

この心臓は、世界の心臓である。一方は他方を満足させるために作られたのだ
“This Heart is the heart of the world, for one was made to satisfy the other.”

つまり、ロルカーンの心臓を破壊することは、世界そのものを破壊することと同義でした。神々がムンダスを作るとき、彼らはロルカーンを犠牲として用いた──そしてその犠牲の核心が、この心臓だったのです。世界が世界として成立しているのは、心臓がそこにあるからこそ。心臓を消せば、世界も消える。

ただ、これはヴィヴェクの教えに基づく伝承であり、実際に破壊不可なアーティファクトであるかは不明

トリニマックとアーリエルは、断念しました。代わりにアーリエルは、自身の弓に心臓を矢として番え、空高く射ち放ちました。海の底深く、新たな世界のいかなる相も決して見つけられぬ場所へ。

しかし、心臓は完全には隠れませんでした。落ちた地点で、衝撃により火山が形成された──それが、レッドマウンテンです。「東方の星傷(star-wounded East)」という古名は、このとき星のように落ちた心臓が、東の地に消えない傷を残したことに由来します。

また、心臓に二つの性質がありました。

一つには、心臓は神性そのものの器でした。それに触れる、あるいは適切な手段で「演奏」する者は、その神性を引き出して自らに取り込むことができる。これは後にトリビュナルが、そしてダゴス・ウルが、それぞれの方法で実証することになります。

もう一つには、心臓は世界そのものの礎でした。

ロルカーンの心臓は、単にレッドマウンテンの底に埋まっているだけの遺物ではなく、ムンダスという世界が「神々の不在のまま存在し続けられる」ための支柱として機能していました。神々が世界から去った後、定命の世界が崩壊せずにあり続けているのは、心臓がここに留まっているからこそである。

これが、後にロアコミュニティで語られる「塔(Tower)」と「塔石(Stone)」の概念に繋がります(これについては別記事で詳しく扱う予定です)。

カグレナックがこの心臓を発見したとき、彼が見たのは「単なる神の遺物」ではありませんでした。それは世界そのものを書き換えうる機構の中核であり、「神を必要としない神性」の鍵でした。ドゥーマーが何世紀にもわたって追求してきた哲学──神を否定しながら神性に到達する道──の、究極の答えがそこにあったのです。

カグレナックがその瞬間から、生涯をかけた計画に取り憑かれたのも、無理からぬことでした。

カグレナックという男 ──三つの道具とヌミディウム計画

カグレナックは、ドゥーマー社会において他に類を見ない地位を占めていました。

彼に与えられた肩書きの数を並べるだけで、その異常さが分かります。

  • 主席トーナル・アーキテクト(Chief Tonal Architect)
  • 大祭司(High Priest)
  • 大工匠(High Craftlord)
  • 大技師(High Engineer)
  • 魔導工匠(Magecrafter)

ヴィヴェクは別の場所では、彼を「カグレナック・ザ・ブライター(Kagrenac the Blighter / 病をもたらす者)」とまで呼んでいます。

これらの肩書きが一人の人物に集中している事実は、ドゥーマー社会の構造そのものを示しています。

ドゥーマーには、神官と技師の区別がありませんでした。彼らにとって、宇宙の根源的な構造を理解することと、それを応用して何かを作ることは、同じ営みの両側面でした。トーナル・アーキテクチャーは哲学であり、宗教であり、工学であり、魔術だった。これらを分離する発想自体が、ドゥーマー文化には存在しなかったのです。

カグレナックはその頂点に立つ男でした。彼の名は、ドゥーマー社会において、王デュマックに匹敵する権威を持っていました。

彼の理論は、『神性の形而上学(Divine Metaphysics)』 と題された書に記されています。ただしこの書はドゥーマー語(Dwemeris)で書かれており、現代に至るまで完全に解読した者はいません。

生き残った唯一のドゥーマー、ヤグルム・バガーン(カグレナック直属のトーナル・アーキテクトの一人)だけが理論を理解していましたが、彼は「カグレナックの理論は彼と共に死ぬべきである」として、解説を頑なに拒んだとされます。

ドゥーマーの遺跡を探索すれば、カグレナックの教えがいかに深く社会に浸透していたかが見えます。ケラカ(Kherakah) という集落では、「世界で最も博識な人々」が日々カグレナックの言葉を研究し、「自己と心臓との関係」を考察することが最高の修行とされました。トゥレイヌラル(Tureynulal) には彼の図書館がありました。彼の教えは単なる工学理論ではなく、ドゥーマー全体の宗教的・哲学的支柱だったのです。

そんな男が、ロルカーンの心臓を発見した。何が起きるかは、誰の目にも明らかでした。

三つの道具

カグレナックが鍛えた三つの道具は、それぞれが異なる役割を持っていました。

サンダー(Sunder) は、「神性の質量を持つハンマー」と呼ばれる槌です。心臓と共鳴する周波数で打ち下ろされたとき、心臓は応えて単一の純粋なトーンを発する。そのトーンは、ロルカーンの神性そのものの、最も基本的な振動でした。サンダーは、神を「鳴らす」ための道具です。

キーニング(Keening) は、「月影の音から作られた短剣」と呼ばれる刃。「不死を引き裂く力」を秘めており、サンダーが引き出した単一のトーンを、構成要素に分解する役割を持ちました。一説によれば、それを十五の小トーン──十五のデイドラ公(マラキャスを除く)に対応する数──に分割するとされます。引き出された神性を、使用者が望む形に「演奏」する道具。それがキーニングでした。

レイスガード(Wraithguard) は、真鍮色の籠手。両武器を扱う者を、その膨大なエネルギーから守る盾です。レイスガードなしでサンダーやキーニングを握れば、即死は免れない。サンダーは生命を圧倒し、キーニングは生命を吸い尽くす。両者の力を中和し、扱う者を生かしておくことが、レイスガードの役割でした。

ただし、レイスガード自身も無害ではありませんでした。装着時には、まず装着者の魔力的な署名と道具を調和させねばならず、最初の装着は致死的な衝撃を伴います。生き延びた者だけが、以後この籠手を扱えるようになる。武器を握る前に、籠手と契約を結ぶ儀式そのものが、命懸けの試練だったのです。

これら三つを揃えて初めて、ロルカーンの心臓は「演奏」可能な楽器となります。

ヌミディウム ──歩く星、真鍮の塔

しかし、三つの道具は、カグレナックの構想の完成形ではありませんでした。

それらは「楽器の調律装置」に過ぎず、本当の目的は別にありました。

彼の最終構想、それがヌミディウム(Numidium) ──別名アヌミディウム(Anumidium)真鍮の神原初の総体(Prime Gestalt)真鍮の塔歩く真鍮(Walk-Brass)巨いなる歩行者(Big Walker)歩く星(Walking Star)神性の皮(Divine Skin) など、後の時代に無数の異名で呼ばれることになる存在です。

ヌミディウムは、千フィート(約三百メートル)を超える巨大な真鍮の人型構造体でした。その内部には、ロルカーンの心臓そのものが動力源として組み込まれる予定だった。そしてその構造体に、ドゥーマー全民族の魂が集約され、一個の「総体」として注ぎ込まれる──これが「原初の総体(Prime Gestalt)」という異名の由来です。

つまりヌミディウムとは、単なる兵器でも単なる像でもなく、ドゥーマー種族そのものを材料とした、人造の神でした。

真鍮の塔

異名の中でも特に重要なのが「真鍮の塔(Brass Tower)」です。

前節で触れた塔(Tower)概念──現実改変装置の中核──を思い出してください。レッドマウンテンの塔石はロルカーンの心臓でした。ヌミディウムは、その心臓を奪い取り、新たな塔として再構築する計画だったのです。

レッドマウンテンという自然発生した塔から心臓を抜き取り、自分たちが作った人造の塔に移植する。世界の根本的な機構そのものを、ドゥーマーが設計した装置に置き換える。それがカグレナックの構想の全貌でした。

これは単なる「神になる」レベルの計画ではありません。世界の根本的な仕組みそのものを、ドゥーマーの手で書き換える計画でした。神々が神話時代に作った世界の枠組みを否定し、ドゥーマーの理性と技術で再構築する。そうしてドゥーマーは、神々を必要としない神性を、文字通り具現化することになる。

ネレヴァルがホラマヤンでアズラから「あらゆる手段を以て阻止されねばならぬ」と告げられたとき、女神が懸念していたのは、単に「ドゥーマーが神になる」ことではなかったのかもしれません。世界そのものが、ドゥーマーの設計図に書き換えられようとしていた。それは、神々の存在意義そのものへの挑戦でした。

後の歴史で、ヌミディウムはタイバー・セプティムが第二帝国を完成させるために起動し、第三紀の終わりにダガーフォール地方で「西の歪み(Warp in the West)」と呼ばれる時空の歪みを引き起こすことになります。タイバーはヌミディウムを完全に制御することができず、世界に大規模な歪みを残しました。これは、カグレナックの構想がいかに危険なものだったかを、後の世が証明した出来事と言えます。

カグレナックがいつ計画に着手したのか、どこまで完成していたのか、正確なところは分かりません。しかし、第一評議会戦争が勃発した第一紀668年の時点で、ヌミディウムの本体は既にかなり進行していたとされます。あと一歩で、世界そのものが書き換わっていたかもしれない──それが、ヴォリン・ダゴスの密告が間に合った瞬間の重みです。

ヴォリン・ダゴスは何を見たのか?

物語の中で、ヴォリン・ダゴスは突然現れて、ネレヴァルの前に重大な事実を告げます。「ドゥーマーがロルカーンの心臓を発見し、新たな神を造ろうとしている」と。しかし──彼はどうやって、この秘密を知ったのか?

UESPの記述は、この点について驚くほど素っ気ない一言で済ませています。

「歴史に失われた手段により(through means lost to history)」

これは公式の認定です。「資料が散逸した」「文献の解釈が分かれる」のではなく、最初から記録されていない。

ヴォリン・ダゴスの位置

この謎を考えるためには、まずヴォリン・ダゴスという男の立ち位置を理解する必要があります。

彼はダゴス家の当主であり、そのLord High Councillor(大評議員/筆頭評議員) という地位にありました。しかし同時に、彼にはもう一つの肩書きがありました。ネレヴァルの個人的な家臣(retainer)。つまり、家の代表として第一評議会に出席する立場であると同時に、ホーテイターの最も近い助言者の一人でもあった。

この二重の立場が、彼を特異な位置に置きました。第一章で触れた通り、ダゴス家は「世俗派(Secular)」と分類される家でした。インドリル、レドラン、ドレス、フラール、テルヴァンニといった「正統派(Orthodox)」の名家とは異なり、ダゴス家はドゥーマーの世俗的・技術志向の文化に近い側面を持っていました。

本拠地コゴルーン(Kogoruhn / 「揺るがぬ家」) は、ヴァーデンフェル島北部の灰の荒野にあり、ドゥーマー領と地理的に隣接していました。

つまりヴォリン・ダゴスは、ドゥーマー領と地理的に最も近い場所に本拠を構え、ネレヴァルの将軍にして家臣として仕えた、チャイマーの大領主でした。同時に、ホーテイターの最も忠実な臣下の一人でもあった。

チャイマー諸名家の中で、ドゥーマーの思想に最も深く踏み込んでいた家──それがダゴス家であり、その当主がヴォリン・ダゴスでした。

この両立は、平時には何の矛盾も生みません。ダゴス家はドゥーマーとチャイマーの架け橋として機能し、第一評議会の安定に貢献していました。

しかし──秘密が露見したとき、彼の二重の立場こそが、最大の謎を生むのです。

「歴史に失われた」とは何を意味するのか

ヴォリン・ダゴスがどうやってカグレナックの計画を知ったのか。仮説はいくつもあります。

  • ダゴス家が地理的にレッドマウンテンに最も近い名家だったため、たまたま何かを目撃した。コゴルーンとレッドマウンテンの距離を考えれば、地下の活動の徴候が漏れ伝わる可能性は十分にあった。
  • ダゴス家がドゥーマー領内に協力者を抱えていた。世俗派の家として、ドゥーマー氏族との個人的・商業的繋がりは深かったはずである。情報源は一人や二人ではなかったかもしれない。
  • カグレナックの内部にいる誰かが、計画に異を唱えてヴォリン・ダゴスに密告した。ドゥーマー社会も一枚岩ではなく、すでに第一評議会を巡ってローケン氏族が離反していた前例がある。
  • そもそもヴォリン・ダゴスはトリビュナルの密偵だった。アルマレクシア、ヴィヴェク、ソーサ・シルが第一評議会の解体とチャイマーの神格化を画策し、その先兵としてヴォリン・ダゴスをドゥーマー領に潜入させていた。(『五つの歌』の主張)
  • ヴォリン・ダゴス自身が、すでに何らかの形でロルカーンの心臓に接触していた。第三紀末のダゴス・ウルが心臓に依存して生き延びる事実を考えれば、彼は最初から心臓を「見た」者だったのかもしれない。(陰謀論的解釈)

ヴォリン・ダゴスが何を見たのかは、永遠に分かりません。しかし、彼が何かを見たという事実こそが、その後三千年以上にわたるモロウィンドの歴史を決定づけたのです。

ホラマヤンとアズラ ──なぜ女神は介入したのか

物語の中で、ネレヴァルはヴォリン・ダゴスの密告に確証を得るためホラマヤンへ巡礼し、アズラに直接問います。そして女神は応えました。ヴォリン・ダゴスの言葉はすべて真実である。ドゥーマーの新たな神の創造は、あらゆる手段を以て阻止されねばならぬと。

しかし、ここには考えるべき謎が、いくつもあります。

なぜアズラは応えたのか? なぜ他の善きデイドラ(ボエシア、メファーラ)ではなく、アズラだったのか? そして何より、デイドラ公が定命の世界の問題に直接介入することは、それ自体が異例ではなかったのか?

これらの問いに答えるためには、まずホラマヤンという場所の性質と、アズラとチャイマーの特殊な関係を理解する必要があります。

ホラマヤンという場所

ホラマヤン(Holamayan)は、ヴァーデンフェル島東岸沖の小さな孤島──「アズラの海岸(Azura’s Coast)」と呼ばれる地域──に建つ、アズラの聖なる神殿です。

後の世に知られるホラマヤンは、奇妙な造りをしています。

地表に建つ普通の神殿ではなく、島の地下に構築された修道院であり、入口は丘と植生に覆われて隠されている。第三紀末の記録では、入口を覆う魔法の石壁は普段は閉ざされており、開くのは一日に二度──夜明けと黄昏、アズラに捧げられた薄明の刻にのみ、とされています。

女神の領分である「変化と移行」と神殿が物理的に同期しているという性質は、アズラ崇拝の本質に根差したものでしょう。

第一紀の時点で、すでに数千年にわたる巡礼地でした。エボンハートからも船便があり、ヴァーデンフェル全域から、そしてレスダイン本土からも、信徒たちが訪れていました。後の第三紀、トリビュナル神殿が異論派司祭を迫害する時代になると、ホラマヤンは異論派の本拠地となり、トリビュナルが隠蔽した「アポグラファ」の保管庫となります。トリビュナルが神となった後も、この神殿はアズラとダンマー諸聖人(三柱を含めない)を祀り続けたのです。

ネレヴァルがここを巡礼したという事実そのものが、彼の選択の重さを示します。彼は単に「神殿に祈りに行った」のではない。アズラに直接問うために、女神の領分そのものに足を踏み入れたのです。

アズラとは誰か

ホラマヤンを理解したうえで、次に問わねばならないのは──なぜアズラだったのか、です。

第一章で触れた通り、チャイマーには三柱の善きデイドラ(Good Daedra)──アズラ、ボエシア、メファーラ──の信仰がありました。三柱はそれぞれ異なる役割をチャイマー社会で担っていた。ボエシアは哲学と社会秩序、メファーラは陰謀と暗殺の技、アズラは「アルトマーとは違う者になる」秘密。

しかし、この三柱の中でアズラだけが、ダンマー(およびその祖先のチャイマー)にとって特別な位置を占めていました。

ダンマーはアズラを単なる崇拝対象ではなく、「自分たちの祖先神(god-ancestor)」として理解していました。彼女は「個別の祖先」ではなく、「民族そのものの母」「共通の祖(communal progenitor)」「チャイマーのための宇宙的な力(cosmic force)」として位置づけられた。

その異名の数々を並べてみると、

  • The Twilight(薄明)
  • Lady of Twilight(薄明の貴婦人)
  • Goddess of Dusk and Dawn(夜明けと黄昏の女神)

アズラの司る領域は、すべて変化の境目です。夜と昼の境目、暗闇と光の境目、定命と不死の境目──二つの状態の中間にある、不安定で変容する領域。アルトマーからチャイマーへの民族的変容(「アルトマーとは違う者になる」秘密)を授けたのが彼女だったというのも、この領域の専門家としてふさわしい役回りでした。

そしてもう一つ、アズラはネレヴァル個人と特別な関係を持っていました。

ネレヴァルは、いくつかの伝承で「アズラの戦士(Champion of Azura)」と呼ばれます。彼は重要な決断の度にアズラに相談し、彼女もまたネレヴァルを通じて世界に介入しました。月と星の指輪──カグレナックの工房で鍛えられ、アズラが祝福した、あの不思議な由来を持つ遺物──は、ネレヴァルとアズラの関係の物理的な象徴でした。

ネレヴァルがこの指輪に手を載せて誓った内容も、興味深いものです。彼はこの指輪に賭けて、アッシュランダー諸部族に「常にその生き方を尊重する」と誓ったとされる。月と星は、ネレヴァルとアズラとアッシュランダーを結ぶ三角形の頂点だったのです。

この誓いが、後に第七章で扱う「神格化を巡る悲劇」の核心になります。トリビュナルが破った誓いとは、まさにこのアズラへの誓いだったからです。

なぜアズラは応えたのか

ここまで整理すると、ネレヴァルがホラマヤンへ向かい、アズラが応えたという出来事の意味が見えてきます。

  • 第一に、アズラはチャイマーの母性的祖先神とされており、民族全体の運命に責任を持つ存在でした。ロルカーンの心臓を使ってドゥーマーが新たな神を作るという計画は、チャイマーの信仰そのものへの侮辱であり、民族の存続にも関わる問題でした。アズラが介入する根拠は十分にあった。
  • 第二に、ネレヴァルは彼女の戦士であり、個人的な絆がありました。ネレヴァルが直接彼女に問えば、彼女は応える理由があった。少なくとも、彼女自身がそう感じる関係が両者の間にあった。
  • 第三に、アズラの司る領域は「変化と移行」でした。ドゥーマーがロルカーンの心臓を演奏するということは、世界の根源的な秩序を「変容」させようとする試みです。それはまさに、アズラの専門領域への侵犯でした。彼女が他のいかなるデイドラ公よりも先に介入する理由が、ここにあった。

そして、ここから一つの興味深い解釈が生まれます。

アズラは、ドゥーマーが神になることそのものに怒っていたのか? それとも、自分以外の誰かが「変容」の領域を扱うことに怒っていたのか?

この問いには答えが出ません。

他の善きデイドラはどこにいたのか

最後に、ボエシアとメファーラはなぜ介入しなかったのか?

両者は、第一章で見た通り、チャイマー社会の根幹を構成する二柱でした。ボエシアは哲学と社会秩序を、メファーラは陰謀と暗殺の技を授けた。ロルカーンの心臓と新たな神の創造という事態は、両者にとっても無関係ではないはずです。

しかし、文献は両者の介入を記録していません。物語の中でアズラだけが応え、後の世にトリビュナルを呪ったのもアズラでした。

これにはいくつかの可能性があります。

  • ボエシアとメファーラもアズラを支持していた。「あらゆる手段を以て阻止されねばならぬ」というアズラの宣告は、三柱の合意を女神アズラ一人が代表して伝えたものだった。
  • アズラとネレヴァルの個人的な関係が特別すぎたため、他の二柱は介入の場を持たなかった。
  • 「変容」という領域が決定的にアズラの管轄であり、他の二柱は出る幕がなかった。
  • ボエシアとメファーラには、別の思惑があった。後にメファーラがヴィヴェクの「先行者」、ボエシアがアルマレクシアの「先行者」と位置づけられることを思えば、両者にはトリビュナルの神格化を容認した、あるいは望んだ動機があった可能性すらある。(陰謀論的解釈)

トリビュナル神殿が三柱の善きデイドラを「守護者(Anticipations)」(トリビュナルの愛深き庇護の、初期の祖先的な先行者)と再定義するとき、その教義は単なる宗教的辻褄合わせではなかったのかもしれません。

ノルドの介入と『五つの歌』──ウルフハースという存在

物語の中で、第一評議会戦争が勃発したとき、第三の勢力としてノルドが介入してきます。スカイリムから南下した大軍を率いていたのが、灰の王ウルフハースでした。

しかし、なぜノルドが介入したのか? そしてウルフハースとは何者なのか? この問いには、いくつもの答えがあります。

ウルフハースという男

ウルフハース(Wulfharth)は、ノルド史において複雑極まりない存在です。

彼はアトモーラ生まれであり、第一紀500年に族長会議(Pact of Chieftains)によってスカイリム王に選出されました。前任者ホアグ・マーキラー王がグレヌンブラ・ムーアの戦いでアレッシア教団のドキュメンスに討たれた後の選出です(なおこのホアグ・マーキラーは、第一章の物語で触れた、第一紀461年にネレヴァル+デュマックと共にゴーリエス皇帝の戴冠式に出席した将軍その人です)。

ウルフハースの異名は、それぞれが彼の本質の一面を表しています。

  • ショールの舌(Shor’s Tongue)
    ショールはノルド語でロルカーンを指す名。彼はノルドの神ショールの代弁者だった。
  • 北の竜イスミール(Ysmir, Dragon of the North)
    スカイリムにおいて、ハイ・フロスガーに巡礼してドラゴンボーンとなった者に与えられる伝統的称号。第三紀末の人間の英雄タロス(タイバー・セプティム)も同じ称号を持つ。
  • カイネの息(Breath of Kyne)
    ノルドの嵐と空の女神カイネ(九大神のキナレスと同一視される)に対応する存在。
  • 灰の王(Ash King)
    彼が灰として再構成された後の異名。
  • アンダーキング(Underking)
    最も後期の異名。

彼の声は、スゥームが強すぎて口頭で誓いを立てることすらできなかったとされます。彼の誓いは書記が書き起こし、彼自身は声に出さない。これは単なる伝説的修辞ではなく、ノルドのドラゴンボーンが持つスゥームの力の極端な強度を示しています。

そして最も重要なのは、彼が何度も死に、何度も復活したということです。

最初の死

オーキー(=マラキャス)とアルドゥインの幽霊によりスカイリム人全員が六歳児にされた事件で、彼は「竜をちょうどよく揺さぶる方法(How to Shake the Dragon Just So)」という新しいスゥームを学び、それで民を元に戻したが、自分自身からは年月を吸い出し過ぎてしまい、グレイビアードたちより老いて死亡。

二度目の死

レッドマウンテンの戦い(後述)。

三度目の召喚

第二紀572年、カマールの侵攻に対抗するため、エボンハート協定によって再び召喚された。アルマレクシアによる召喚という説と、ヨルン・スカル・キングによる召喚という説がある。 (ここでは解説を省略します)

なぜこれが重要なのか。

ウルフハースがレッドマウンテンに現れた時、戦場にいたのは「一度死んで灰から蘇った、ショールの代理体」でした。これは普通の軍事介入ではありません。ノルドの視点では、レッドマウンテンの戦いに参加したのはウルフハース個人ではなく、彼の身体を借りたショール(=ロルカーン)の意志そのものだったとされます。

ロルカーンの心臓を取り戻すために、ロルカーン自身が死者の将軍を送り込んだ──次の項目で説明する、『五つの歌』が語るのは、そういう物語です。

『五つの歌』が語るもの

ノルドの吟遊詩人が編んだ叙事詩『ウルフハース王 五つの歌(Five Songs of King Wulfharth)』は、第二章のクライマックスで「諸文書」の一つとして名を挙げた書物です。

この書の構成を簡潔に整理すると、

内容
第一の歌ウルフハースの王位継承(第一紀500年頃)とノルド国教再興
第二の歌オーキーとアルドゥインの幽霊事件、最初の死
第三の歌ショールによる復活、ダゴスの悪魔の登場、戦争の準備
第四の歌レッドマウンテンへの行軍、両将軍体制
第五の歌レッドマウンテンの戦い、灰の王の二度目の死

第二章の物語パートで触れた「ノルドが介入した動機」の二つの説のうち、ノルド側の見解を提示するのがこの書です。帝国系の対外的な記述では「ノルドは旧領回復の好機を見て侵攻した」とされますが、『五つの歌』ではまったく違う物語になります。

しかしこの書は、単に「ノルド側の視点」というだけの本ではありません。

TESロアの中で、最も解釈困難な書物の一つとして知られるものでもあります。海外のTESロアコミュニティでは、長年にわたって「第五の歌、何これ?」状態が続いており、議論は今も決着していません。

第五の歌の自己矛盾

『五つの歌』の全体構成は先に表で示した通りです。ここでは、全文を読んでみましょう。みなさんの目で、何が起きているかを確認してください。

ウルフハース王 五つの歌

ショールの舌

ウルフハース王の第一の歌は古く、第一紀500年頃のものである。グレヌンブラ・ムーアでアレッシア軍が敗北し、ホアグ・マーキラー王が討たれた後、アトモーラのウルフハースが族長会議により選出された。彼のスゥームはあまりに強力で、口頭で就任の誓いを立てることができず、書記が彼の誓約を書き起こした。その直後、書記たちは彼の治世における最初の新法を書き記した──伝統的なノルドの神統の、熱烈な復活である。勅令は非合法化され、その司祭たちは火刑に処され、その殿堂は炎に包まれた。ボーガス王の影は、束の間終わりを告げた。その熱狂ゆえに、ウルフハース王は「ショールの舌」、そして「北の竜イスミール」と呼ばれた。

カイネの子

ウルフハース王の第二の歌は、古き神々の目に映る彼の偉業を讃える。彼は東方のオークと戦い、その首長をスゥームで地獄へ叩き落とした。彼はドラゴンに損傷されたハイ・フロスガーの第418段を修復した。軍隊が風邪をひかぬよう雷雲を丸ごと飲み込んだ時、ノルドたちは彼を「カイネの息」と呼んだ。

老いたる打者

ウルフハース王の第三の歌は、彼の死を語る。敵対する神オーキーは、アトモーラにおいてすら彼らの年月を盗み去るなど、常にノルドを害そうとしてきた。ウルフハース王の強さを見て、オーキーは再び時を食うアルドゥインの幽霊を召喚した。ほぼ全てのノルドが六歳児にまで食い減らされた。少年ウルフハースは、神々の死せる首長ショールに民を助けてくれるよう懇願した。ショール自身の幽霊が霊界で時を食う者と戦った、時の始まりにそうしたように、そして勝利し、オーキーの民であるオークは破滅した。少年ウルフハースは空の戦いを見上げながら、新しいスゥーム「竜をちょうどよく揺さぶる方法」を学んだ。彼はこの新しい魔法で民を元に戻した。しかし、あまりに多くの者を急いで救おうとしたために、自分自身からは年月を揺り出し過ぎてしまった。彼はグレイビアードたちよりも老い、そして死んだ。彼の火葬の炎は、カイネの炉床そのものにまで届いたと言われている。

灰の王

ウルフハース王の第四の歌は、彼の再生を語る。東方の王国のドワーフとデヴィルたちが再び争い始め、ノルドはそのどさくさに紛れて古い領地を取り戻せるのではないかと期待した。彼らは攻撃を計画したが、率いるべき強き王がいないと知り、断念した。その時、ダゴスの悪魔が歩み入り、平和を誓って来たと言った。さらに彼はノルドに驚くべきことを告げた──ショールの心臓がどこにあるか知っている、と! 遠い昔、神々の首長はエルフの巨人たちに殺され、彼らはショールの心臓を抉り出してノルドを怯えさせるための軍旗として掲げた。これはイスグラモルが「幾許かの理性を叫び込む」までうまくいき、ノルドは再び戦い返した。やがて負けると悟ったエルフの巨人たちは、ノルドが二度と神を取り戻せぬよう、ショールの心臓を隠した。しかしここにダゴスの悪魔が吉報を持って来たのだ! 東方の王国のドワーフとデヴィルたちがショールの心臓を持っている、彼らの最近の不穏はそのせいだ、と。ノルドはダゴスの悪魔に尋ねた、なぜ同胞を裏切るのか、と。彼は答えた、デヴィルたちは時の始まりから互いを裏切ってきた、これはそういうことに過ぎない、と。ノルドはそれを信じた。舌たちはショールの幽霊を再び世界に歌い込んだ。ショールは昔のように軍を集め、それからウルフハース王の長く散らばっていた灰を吸い込み、彼を作り直した、よき将軍が必要だったから。しかしダゴスの悪魔もまた将軍になることを請願し、この聖戦の祝福された先触れとしての自分の役割を指し示した。そこでショールは二人の将軍を持った、灰の王とダゴスの悪魔を、そしてスカイリムの全ての息子と共に東方の王国へ進軍した。

レッドマウンテン

ウルフハース王の第五の歌は悲しい歌だ。災厄の生存者たちは赤い空の下を帰還した。その年は「太陽の死」と呼ばれる。ダゴスの悪魔はノルドを欺いていた、ショールの心臓は東方の王国にはなかった、最初からなかったのだ。ショールの軍がレッドマウンテンに着くや否や、全てのデヴィルとドワーフが襲いかかった。彼らの妖術師たちは山を持ち上げてショールの上に投げ落とし、時の終わりまでレッドマウンテンの下に閉じ込めた。スカイリムの息子たちは虐殺された、しかしウルフハース王がドゥマラカス・ドワーフ・オーク王を殺し、その民に破滅をもたらした、その前に。それからヴェク・ザ・デヴィルが灰の王を地獄へ吹き飛ばし、それで終わった。後にカイネが灰の中の灰となったイスミールを空へ持ち上げ、彼を地獄から救い、息子たちに裏切りがもたらす血の色を見せた。そしてノルドは二度とデヴィルを信じることはないだろう。

ウルフハース灰の王の秘密の歌 ──レッドマウンテンの真実

ショールの心臓はレスダインにあった、ダゴス・ウルが約束した通りに。ショールの軍が内海の最西岸に近づくと、彼らはレッドマウンテンを見渡した、ドゥーマー軍が集結していたその山を。斥候からの報告では、チャイマー軍はナルシスを出たばかりで、ドゥーマーとの合流を急ぐ気配はなかった。ダゴス・ウルは言った、トリビュナルが王の信頼を裏切ったのだ、と。彼らがダゴス・ウルをロルカーン(レスダインではショールをそう呼ぶ)のもとに送ったのは、神がドゥーマーの傲慢に復讐を下すためであり、ネレヴァルがドゥーマーと結んだ平和は「ヴェロシの道の破滅」をもたらすからだ、と。集結が遅い理由はこれだった、とダゴス・ウルは言った。

軍勢膨れる

そしてロルカーン(レスダインではショールをそう呼ぶ)は言った。「トリビュナルが信じるような理由で、わしがドゥーマーに復讐するのではない。しかし、彼らがわしの手で死ぬことは事実であり、彼らに与する者も皆同じ運命を辿る。このネレヴァルはボエシアの子、最強のパドメイック神の一柱の。トリビュナルにもかかわらず民の英雄であり、十分な兵を集めるだろう、この戦いはさらに厳しいものとなる。今ある以上のものが必要だ。」そこでダゴス・ウルは──トリビュナルと同じくドゥーマーの死を望んでいた──コゴランに行き、自らの家のチャプシル、ニクス・ハウンド、魔法使い、弓兵、盗んだ真鍮の兵を召集した。そして灰の王ウルフハース、白髪のイスミールは、ノルドの血に背いてオークと和を結び、彼らは多くの戦士を連れてきたが魔法使いは一人もいなかった。多くのノルドは、レッドマウンテンを前にしてすら、伝統的な敵との同盟に耐えられなかった。彼らは脱走寸前だった。その時ウルフハースは言った。「お前たちは自分が本当にどこにいるか分かっていないのか? ショールが本当は誰なのか分かっていないのか? この戦争が何なのか分かっていないのか?」そして彼らは王から神へ、デヴィルたちとオークたちへと目を移し、ある者たちは知った、本当に知った、そして残ったのはその者たちだった。

運命の太鼓

ネレヴァルはキーニングを携えていた、月の影の音から作られた短剣を。彼の勇士たちはデュマック・ドワーフ・キング──神性の質量を持つハンマーを携えていた──と、アランドロ・スル──アズラの不死の息子にしてレイス・メイルを纏っていた──であった。彼らはレッドマウンテンの最後の戦いでロルカーンと相まみえた。ロルカーンは心臓を取り戻していたが、長く離れていたため、時間が必要だった。ウルフハースはスルと対峙したが斬ることができず、深手を負って倒れた、しかし倒れる前にスルの目をスゥームで潰した。ダゴス・ウルはデュマックと対峙し彼を殺した、しかしその前にサンダーが主の心臓を打っていた。ネレヴァルはロルカーンから背を向けてダゴス・ウルを怒りで打ち倒した、しかしその間にロルカーンから致命傷を受けた。しかしネレヴァルは早く来る死を装い、不意を突いてロルカーンを斬った。心臓はサンダーの調律の一撃で固体にされており、キーニングでそれを切り出すことができた。そして心臓は切り出され、ロルカーンは敗北し、すべての苦難は終わったと思われた。

この本について思うこと

率直に言って、異常な文書です。いくつかの点で。

  1. 構造の異常
    • 「五つの歌」と銘打っておきながら、実際には六つある。第五の歌の後に「秘密の歌」が接続されている。しかもその秘密の歌は、第五の歌の内容を正面から否定する。これを一つの書物として流通させている時点で、通常の叙事詩ではない。
  2. 第五の歌と秘密の歌の関係
    • 第五の歌:「心臓はなかった。ダゴスの悪魔に騙された」
      秘密の歌:「心臓はあった。ダゴス・ウルの言った通りに」

      同じ書物の中で事実が矛盾しているしかも、秘密の歌の方がはるかに詳細で、具体的な人名・地名・戦術的状況が書かれている。第五の歌が「悲しみの要約」であるのに対し、秘密の歌は「実況中継」に近い。
  3. 「運命の太鼓」の描写の異質さ
    • ここが最も奇妙です。

      ・ネレヴァルがキーニングを持っている(他の全ての伝承ではカグレナックの道具)
      ・デュマックがサンダー(神性の質量を持つハンマー)を持っている(他の伝承ではカグレナックの道具)
      ・アランドロ・スルが「アズラの不死の息子」として登場(他の伝承ではネレヴァルの盾持ち)
      ・ロルカーン本人が戦闘員として参加し、心臓を取り戻して戦っている
      ・ダゴス・ウルがデュマックを殺す(他の伝承ではネレヴァルが殺す)
      ・ネレヴァルがダゴス・ウルを怒りで打ち倒す(ネレヴァルにとってダゴス・ウルは味方のはずなのに)

      つまり秘密の歌の世界では、全員が全員と戦っている

      チャイマー vs ドゥーマー vs ノルドという三つ巴ではなく、

      ネレヴァル vs デュマック vs ダゴス・ウル vs ウルフハース vs ロルカーン vs アランドロ・スルが、それぞれ別の目的で心臓を巡って乱戦している。
  4. 道具の所有者が違う
    • これは改めて見ると極めて重要です。

      他の全ての伝承では、サンダー・キーニング・レイスガードはカグレナックが作った道具です。しかし秘密の歌では、キーニングをネレヴァルが、サンダーをデュマックが携えている。カグレナックの名前は一度も出てこない

      まるでカグレナックという存在自体が、この世界線では消されているかのようです。
  5. ロルカーンの描写
    • 「ロルカーンは心臓を取り戻していたが、長く離れていたため、時間が必要だった」

      これは他のどの伝承にもない描写です。ロルカーンが生きた存在として心臓の間にいて、心臓を自分の胸に戻そうとしている。しかし長い間離れていたから、すぐには完全に繋がらない。その「時間稼ぎ」の間に戦闘が起き、ネレヴァルがキーニングで心臓を切り出した。

      他の伝承では、ロルカーンは死んだ神であり、心臓は遺物です。しかし秘密の歌では、ロルカーンは死んでいない。心臓と再会しようとしている。
  6. 最も不気味な一文
    • 「ネレヴァルはロルカーンから背を向けてダゴス・ウルを怒りで打ち倒した」

      なぜネレヴァルは「怒り」でダゴス・ウルを打ったのか? この版では、ダゴス・ウルはデュマックを殺した直後です。デュマックはネレヴァルの血の友。つまりネレヴァルは、友を殺された怒りでダゴス・ウルを打ったのかもしれない。

      しかしダゴス・ウルはネレヴァルの忠臣のはずです。少なくとも他の伝承では。

      この一文は、ダゴス・ウルとネレヴァルの関係の崩壊が、レッドマウンテンの心臓の間で起きたことを示唆しています。トリビュナルによる裏切りの前に、既にネレヴァルとダゴス・ウルの間で何かが壊れていた。

海外ロアコミュニティの解釈

この自己矛盾について、海外のTESロアコミュニティでは、いくつかの主要な解釈が並立しています。

解釈1:「テキストの破損/編集の混入」説

最も保守的な読み方。第五の歌は元々ノルドの吟遊詩人による単純な英雄譚だったが、後に別の文書(『レッドマウンテンの真実』)が混入・編集され、矛盾した断片が同居することになった、とするもの。誰がいつ編集したのかは不明ですが、ヴィヴェクの存命時代に、彼または彼の影響下にある誰かが介入した可能性が指摘される。

解釈2:「ヴィヴェクが内容を書き換えた」説

解釈1の延長線。ヴィヴェクが自分に都合の悪い記述(「ヴェクがウルフハースを地獄へ吹き飛ばした」)はそのままにしつつ、ダゴス・ウル側に有利な後半部分を意図的に追加して、ノルドの伝承を自分への呪いとして固定した、とするもの。これによりノルドは「永遠にトリビュナルを許さない民族」として位置づけられた。第二紀のエボンハート協定で、ウルフハースが復活してトリビュナルへの復讐者として召喚される構造に繋がる、と解釈される。

解釈3:「カークブライドの意図的な不整合」説

最も人気のある解釈。マイケル・カークブライド──『五つの歌』を含むTES世界の主要神話文書の多くを書いた、Bethesdaの伝説的なライター──は、TES世界の神話を意図的に多層的・自己矛盾的に作っている。読者が「真相」を一つに固定できないように設計している。第五の歌の自己矛盾はバグではなく、仕様これは『三十六の教訓』第三十六説話の異常さや、ヴィヴェクが自分自身の物語を書きながら自分を否定していくスタイル全般と一貫している、というもの。

解釈4:「神話的真実」説

TES世界では、相互に矛盾する複数の伝承が、全て同時に「真実」として扱われる、という形而上学的な解釈。これは後にロアコミュニティが「ドラゴンブレイク」と呼ぶ現象の前駆的な事例とも関連する。特にロルカーン/ショールが関わる出来事は、定命の論理を超えた領域で起きる。第五の歌の語り手にとって、「心臓はそこにあった/なかった」は、矛盾ではなく、神話的時間における二重の真実。物語の聞き手が「ノルドの誇りを保ちたい」のか「ノルドの裏切られた怒りを保ちたい」のか、その時々の必要によって異なる結末が同時に存在する。

解釈5:「ロルカーンの意志」説

最も陰謀論的な解釈。「ショールの心臓は、その時々の語り手の都合に合わせて、ある場所にあったりなかったりする」というのは、心臓そのものが意識を持っていて、観測者の願いに応じて自身の位置を変えている、という読み方。ロルカーンは死んだ神ではなく、心臓を通じて世界の物語そのものを書き換え続けている存在である、という解釈。

これらの要素は、他の諸文書とは、もはや別の世界線の出来事と言うほかありません。神々が文字通り戦場に降りてきて、山が物理的に武器として用いられ、定命の助言者が神同然の存在を地獄へ送るなどと…。 この本については、別の場所で語るべきでしょうね。

しかしここで覚えておくべきことが、三つあります。

  • 第一に、ノルドの伝承は、単なる「ノルド側の視点」ではないということ。第五の歌は、自分自身の中に複数の真実を抱え込んだ、極めて特殊な書物です。これを「ノルド版」として一括りにするのは、内容を平板化することになる。
  • 第二に、ヴォリン・ダゴス像が極限まで複雑化するということ。第五の歌の前半では「ノルドを罠にかけた裏切り者」として現れ、後半(『レッドマウンテンの真実』)では「トリビュナルに送り込まれた密偵だが、語った内容そのものは真実」と描かれる。彼は嘘をついた英雄なのか、真実を語った密偵なのか、両方なのか──同じ書物の中ですら、答えは出ていない。
  • 第三に、そして最も重要なのは──諸文書の食い違いは、「視点の違い」だけでは説明がつかないということ。その他の伝承と第五の歌の食い違いは、もはや「同じ事件を別の角度から見た」レベルではない。事件そのものが、どの世界線で起きたかから食い違っている。誰がデュマックを殺したか、誰が誰を倒したか、サンダーは誰の武器か、心臓はそこにあったかなかったか──全てがゴチャゴチャとしていて、定まっていない。

アッシュランダー ──忘れられた同胞

物語の中で、ネレヴァルが戦況を覆すために手を結んだアッシュランダー(Ashlanders / 灰の民)は、名家に属さない遊牧チャイマーの部族です。

彼らはノルド侵攻以降、チャイマー社会が名家制度に再編されていく過程で、その統合に加わらないまま古い遊牧的な生き方を続けた人々でした。名家のチャイマーからは「野蛮な遊牧民」と軽蔑されていましたが、逆にアッシュランダーの側から見れば、名家のチャイマーこそ「ヴェロスの教えを捨てた堕落者」でした。

ネレヴァルがアッシュランダーと同盟を結んだ判断は、軍事的にも政治的にも画期的でした。

軍事的には、アッシュランダーはレッドマウンテン周辺の地形を最も熟知していた唯一の存在でした。街道のない灰の荒野を移動できる彼らを偵察部隊に組み込んだことで、ドゥーマーの要塞群を迂回して補給線を断ち、主力を野戦に引きずり出す戦術が初めて可能になりました。

政治的には、ネレヴァルはこの同盟を結ぶにあたり、月と星の指輪に誓いを立てました。『ネレヴァルの月と星』は、その場面をこう伝えています。

ネレヴァルは名家の民の長であり戦長であったが、古き精霊を敬い部族の掟を守り、われらの一人となった。そしてネレヴァルが大いなる祖先の指輪、月と星の下のひとつの氏族に誓いを立て、精霊の道と土地の権利を守ると誓ったとき、すべての部族が名家の民に合流し、レッドマウンテンの大いなる戦いに臨んだ。

この誓いは、後の物語で極めて重要な意味を持ちます。

ここで重要なのは、ネレヴァルが「名家のチャイマーだけがチャイマーである」という前提を否定し、ヴェロシ民族全体を一つの政治体として再定義したという事実です。月と星の指輪が掲げた理念──「月と星の下、ひとつの氏族」──は、この誓約によって完成されました。

ドゥーマーの消失 ──世界から消えた民

物語の中で、「埃が静まる頃には、その埃の大半が、ドゥーマーの全てであった」と書きました。

この一文が指す出来事について、まず確実に分かっていることだけを並べます。多くはありません。

ヴィヴェクは、心臓の間で起きたことを、自らの言葉でこう記しています。

“デュマックが倒れ、ダゴス・ウルらに脅かされたカグレナックは、道具を心臓に振るった。するとネレヴァルは、カグレナックとすべてのドゥーマーの仲間が、一瞬にして世界から消えるのを見た。その瞬間、あらゆる場所のドゥーマーが、跡形もなく消滅した”

あらゆる場所、というのは文字通りの意味です。

レッドマウンテンの心臓の間にいたカグレナックと側近たちだけではない。ヴァーデンフェル全土の地下都市。レスダイン本土の地下要塞。スカイリムの地下深く、ブラックリーチに広がる広大な都市群。そして二百五十年前に第一評議会への反発からレスダインを去り、遠くハンマーフェルに移住していたローケン氏族。彼らはもうレスダインとは何の関わりも持たない、独立した氏族だったはずです。

にもかかわらず、彼らも消えました。

カグレナックの道具が振るわれた瞬間、タムリエル大陸の東端から西端まで、地上にいた者も地下にいた者も、戦っていた者も眠っていた者も、すべてのドゥーマーが、同時に、この世界からいなくなりました。

──ただ一人を除いて。

最後のドゥーマー、ヤグルム・バガーン

ヤグルム・バガーン(Yagrum Bagarn)。カグレナック直属のマスター・クラフター(Master Crafter)。

カグレナックの工房で、ヌミディウム計画には直接関わらなかったものの、彼の理論体系を理解できる数少ない技師の一人。

第一紀700年、レッドマウンテンでカグレナックが道具を発動した瞬間──タムリエル全土のすべてのドゥーマーが同時に消滅したその瞬間──ヤグルム・バガーンは、タムリエルにいませんでした

彼はその時、「外なる領域(Outer Realm)」と呼ばれる別次元に滞在していました。なぜ彼がそこにいたのかは不明です。

しかし結果として、ムンダスの外側にいた彼だけが、消滅の対象から外れた。

“何が起きたかは、言えない。私はその場にいなかった。外界にいたのだ。戻ってきたとき、我が民はもういなかった。私はレッドマウンテンを離れ、何年もタムリエルを放浪した。打ち捨てられた植民地を巡り、生き残りを、あるいは説明を探した。そしてずっと昔、答えを探してレッドマウンテンに戻った。代わりに見つけたのは、コープラス病だった。以来、ずっとここにいる”

彼の旅は、少なくとも千年以上に及んだとされます。やがてレッドマウンテンに戻った時、コープラス病に罹患し、テルヴァンニ家の約四千歳の魔導士ディヴァイス・ファーに保護されます。彼の肉体はコープラスで変形し、改造されたドゥーマーのセンチュリオン・スパイダーの下半身に組み込まれなければ移動すらできない状態でした。

私は自分を最後のドゥーマー」と称している。自分が最後であるという事実を知っているわけではない。しかし、数千年前の旅の中で、他のドゥーマーに一度も出会わなかった。そしてここにいるようになってから、ファー卿にたびたび尋ねているが、彼は、タムリエルでも、いかなる外なる領域でも、他のドゥーマーについての信頼できる噂を聞いたことがない、と言う

四千歳の魔導士の数千年の情報網をもってしても、もう一人のドゥーマーは見つからない。

「私には何が起きたか分からない」

ここに、レッドマウンテンの戦いを巡るすべての伝承の中で、最も奇妙な事実があります。

最後のドゥーマー本人が、自分の民族に何が起きたかを知らない。

うーむ……私には何が起きたか分からない。私はそこで観察してはいなかったのだ。私はその時、外なる領域にいた。戻ってきたとき、我が民は消えていた

そして彼は、カグレナック直属の技師として持つ知識に基づいて、二つの仮説を提示します。

“我が時代の最高の秘学の哲学者にして魔導工匠であるカグレナック卿は、神話創成の力を形作る道具を発案した。ドゥーマーの死すべき定命を超えることを意図して。しかし、彼の公式を検証した際、一部の論理学者たちは、副作用は予測不能であり、誤りがあれば破滅的な結果を招くと主張した。”

“私は思う──カグレナックは我が民族に永遠の命を与えることに成功したのかもしれない、ただし予見されなかった帰結を伴って──たとえば、外なる領域への一括置換のような形で。あるいは彼は誤りを犯し、我が民族を完全に消滅させてしまったのかもしれない”

ヤグルムの証言の中で見逃してはならないのは、「一部の論理学者たちが事前に警告していた」という一文です。

副作用は予測不能であり、誤りがあれば破滅的な結果を招く」── これはカグレナックの計画を検証したドゥーマー内部の専門家による、正式な異議申し立てでした。しかし、トーナル・アーキテクトの大多数、つまりカグレナック本人と、心臓を弄るリスクを過小評価した『時の卵(The Egg of Time)』の著者ブスアンド・ムザーンチを含む者たちが、計画を進めることを選びました。

ドゥーマーの滅亡は、「予見不能な事故」だったのかもしれません。しかし同時に、それは「予見されていた破滅を、多数決で無視した」結果でもありました。

ここに、ドゥーマー文明の構造的な悲劇があります。彼らは「神を信じない、理性と論理の民」でした。その彼らが、理性的に算出された警告を政治的に無視した。論理の民が論理を退けたのは、論理の欠陥ではなく、信仰の代わりに据えた「技術への確信」が、結局のところ信仰と同じ盲目をもたらしたからです。

神を信じなかったドゥーマーは、最終的に、自分たちの技術を信じた──それは、ある種の信仰とも言えます。

封印された理論

ヤグルムは、カグレナックの著書『神性の形而上学(Divine Metaphysics)』を読み解ける唯一の生存者でした。ネレヴァリンがこの書を持参した時、彼はこう答えています。

“この書はカグレナックの理論の一部を説明したものに過ぎない。私なら何時間もかけてそれを説明できる。しかしカグレナックは死んだ。彼の理論は、彼と共に死ぬべきだと私は信じている”

ドゥーマーは「知識は蓄積されるべきもの」という価値観を持つ民族でした。しかしその民族の最後の一人が、最高の知識を意図的に墓場に持っていくと宣言した。

これは、ヤグルムが到達した一つの倫理的結論です。カグレナックの理論は、自分の民族を消滅させた(かもしれない)。その理論を他の民族に伝えれば、同じ悲劇が繰り返される。だから封印する。

知識を蓄積した民族の最後の一人が、知識を封じた。ドゥーマー文明が最後に行った判断が、ドゥーマーらしくない判断だった──ヤグルムが数千年の孤独の中で得た、彼自身の答えだったのかもしれません。

(ただし皮肉なことに、ヤグルムはカグレナックの設計書と日記を使って、ネレヴァリンのレイスガードに神話創成の付呪を再構築する手助けをします。理論は封印したが、道具を扱う技術は授けた。最後のドゥーマーが最後のホーテイターの転生体に、民族最大の遺物を扱う方法を教える──これは、後に語るべき、もう一つの物語です。)

諸文書の食い違いについて ──「正史」が存在しないことの意味

第二章のクライマックスで、「心臓の間で何が起きたかについて、これら全ての文書はまったくと言っていいほど一致していない」と書きました。

埃が静まる頃には、その埃の大半が、ドゥーマーの全てであった

これが、すべての伝承が一致する唯一の事実でした。

この「食い違い」をどう理解するか。それは単なる「諸説あり」では済まされない、TES世界の構造そのものに関わる問題です。

まず、神殿の「二つの教義」を理解する

レッドマウンテンの諸文書を整理する前に、トリビュナル神殿そのものが二つの異なる教義の体系を持っていたことを理解しなければなりません。

教義体系名称性格公開状況
正統教義ヘイログラファ(Heirographa)一般信徒向けの公式教義。「ネレヴァルは戦闘で英雄として死に、トリビュナルはアズラの祝福によって神となった」というクリーンな英雄譚公開・流布
秘伝の書アポグラファ(Apographa)神殿の上層部のみが知る秘密文書群。批判的な内容、神格化の疑わしい経緯、ネレヴァル殺害の疑惑なども含む隠匿・秘伝

これは、トリビュナル神殿の最も根本的な構造です。神殿は自分たちに不利な伝承を「無知なアッシュランダーの迷信」として公式には否定する。しかし同時に、それらの伝承を完全に消し去ることはできないため、秘伝の書(アポグラファ)として神殿内部で保管していた。

第三紀の終わり、異論派司祭たちはこのアポグラファの内容を世に出そうとします。彼らが「異論派(Dissident)」と呼ばれるのは、まさに神殿の表向きの教義(ヘイログラファ)に異を唱え、隠された秘伝(アポグラファ)を公開しようとしたからです。

この構造を理解しないと、レッドマウンテンの諸文書は読み解けません。

主要な文書の一覧

これを踏まえて、第二章の物語に登場した諸文書を整理します。

文書出典立場
(神殿公式教義)トリビュナル神殿の対外的な公式教義。ヘイログラファ。ネレヴァルは戦闘の英雄として死んだ。トリビュナルはアズラの祝福で神となった。ダゴス・ウルは裏切り者。
『レッドマウンテンのネレヴァル』神殿のアポグラファ(秘伝の書) ── 神殿の学者がアッシュランダー伝承を学術的に書き直したものトリビュナルに批判的。アッシュランダー寄り。神殿が「これは秘伝」として隠している
『レッドマウンテンの戦い』ヴィヴェク本人(数千年後)
※ヴィヴェク版と記載してるもの
自身の物語。神殿公式版より正直、ただし諸説併記の形をとる
『ウルフハース王 五つの歌』ノルドの吟遊詩人ノルド民族の英雄譚
『レッドマウンテンの真実』不明(『五つの歌』に混入した秘密の歌)第五の歌前半を否定する自己矛盾的な書
アッシュランダーの口承アランドロ・スル → 賢女たち『レッドマウンテンのネレヴァル』の元となった伝承そのもの
『真実への歩み』異論派司祭アポグラファの内容を世に出そうとする立場。神殿の神性に疑問を呈する
ダゴス・ウルからの手紙ダゴス・ウル本人(第三紀末)自己弁明、ネレヴァリンへの呼びかけ
『ヴィヴェクの三十六の教訓』第三十六説話ヴィヴェク(神聖文書)宗教的・神秘主義的真理。事実関係そのものが他文書と異なる
『カグレナックの道具』ギルヴァス・バレロ(異論派司祭)三つの道具の技術的解説
『ネレヴァル 月と星』帝国の学者帝国学術視点

ここで興味深いのは、「神殿公式版」と呼べるものが、実は二重構造になっていることです。表向きの教義(ヘイログラファ)と、内部で密かに保管されているアッシュランダー伝承(『レッドマウンテンのネレヴァル』)。神殿の上層部は両方を知っていながら、後者を「迷信」として一般信徒には伝えなかった。

主要論点別の食い違い

これらの文書が、レッドマウンテンの主要な論点について、どう食い違うか。

論点神殿公式教義アポグラファヴィヴェク版『五つの歌』アッシュランダー口承ダゴス・ウルの手紙三十六説話
デュマックを殺したのは誰かドゥーマー全体が裏切り者として滅びたネレヴァルとデュマックが互いに致命傷で倒れた(相討ち)。ダゴス・ウルがカグレナックを殺害ネレヴァル(致命傷を相互に)ウルフハースダゴス・ウルがカグレナックを殺害言及なし異なる文脈
ヴォリン・ダゴスの位置言及なし、または忠臣忠実な味方(後にトリビュナルに殺される)忠実な味方ノルドを罠にかけた裏切り者 / トリビュナルの密偵忠実な味方(裏切られた側)忠実な番人反乱者の側
トリビュナルは心臓の間にいたか心臓の間で英雄的に戦った山の外、野戦場にいた戦場の他の場所にいた戦場の他の場所にいた山の外にいた言及なし異なる文脈
ロルカーンの心臓はそこにあったかあったあったあったあった
なかった
(自己矛盾)
あったあったあった
ドゥーマー消滅の方法カグレナックの邪悪な企てが自滅を招いた瀕死のネレヴァルがアズラを召喚し、共にドゥーマーを消した / ドゥーマーが自滅したカグレナックが道具を使用エルフの妖術師たちが山を投げたネレヴァルとアズラ / 自滅言及なしヌミディウムが作動し内海が生まれた
トリビュナルの神性の起源アズラの神聖な祝福冒涜道具を使った(冒涜)言及なし冒涜冒涜既に神だった

この表を見れば、いくつかのことが明確になります。

  • 第一に、神殿の対外教義(ヘイログラファ)とアポグラファの間に、根本的な乖離があること。神殿は対外的には英雄譚を語りながら、内部ではアッシュランダー伝承の批判的な物語を保管していた。
  • 第二に、『レッドマウンテンのネレヴァル(アポグラファ)』とアッシュランダー口承は、ほぼ同じ内容を語ること。これは当然で、前者は後者を学術的に書き直したものだからです。
  • 第三に、ヴィヴェク版は神殿公式教義よりはアッシュランダー伝承に近いこと。彼は自分自身が神になった経緯について、対外教義よりは正直に書いている。
  • 第四に、『五つの歌』だけが、根本的に違う物語の骨組みを持っていること。ロルカーンの心臓の有無すら自己矛盾している。
  • 第五に、第三十六説話はもはや別世界の物語であること。事件の前提条件そのものが他のすべての文書と違う。

食い違いの三つの層

これらの食い違いは、すべて同じレベルにあるわけではありません。少なくとも三つの層に分けて考えるべきです。

食い違いの層性質主な例
第一の層視点・立場の違いヴォリン・ダゴスの善悪、神性の正当性をどう評価するか
第二の層事実関係の違いサンダーの所有者、デュマックの殺害者、ネレヴァルの死因
第三の層世界観の違いヌミディウムが作動した世界、心臓の有無の同時並立、トリビュナルが戦争前から既に統治者だった世界

第一の層は理解できる。第二の層は不可解。第三の層は──そもそも全部の伝承が同じ世界の中で起きたのか?という問いを生む。

Bethesda開発者自身が認めた「公式回答の不在」

ここに、極めて重要な証言があります。

2005年のインタビューで、Morrowind開発者の一人ダグラス・グッドール(Douglas Goodall)は、こう語りました。

“Morrowind開発当時、レッドマウンテンの戦いで何が起きたかについて『公式の』回答はなかった。Bethesdaにいた頃、公式には答えはなかった。誰も実際に何が起きたか知らなかった”

UESPより

通常、ゲームの設定資料には「裏設定」「真の物語」が存在します。プレイヤーには複数の伝承を見せながら、開発者の手元には「実際にはこうだった」という正解の文書がある、というのが普通です。

ところがレッドマウンテンの戦いについては、それすらなかったBethesda内部にも、誰一人として「真相」を知る者はいなかった。複数の食い違う伝承を意図的に作っておいて、その奥にある「真実」を意図的に作らなかった。

結論 ──諸文書の食い違いを、どう読むべきか

レッドマウンテンの戦いは、TES世界の中で正史が存在しない事件です。これは資料が散逸したのでも、事件が遠すぎて記録が曖昧になったのでもありません。最初から正史が書かれなかったのです。Bethesda開発者自身が、内部にも答えはなかったと証言している。

そして、これは欠陥ではなく設計です。

歴史というものは、勝者によって書かれる、と言われます。しかしレッドマウンテンの戦いには、完全な勝者がいない。ドゥーマーは消滅した。ノルドは敗走した。ネレヴァルは死んだ。ダゴス・ウルは封印された。生き残ったのは ──ある種の方法で「神になってしまった」三人だけ。彼らは勝者ではなく、変質した者たちでした。

定命のままで歴史を書く資格がある勝者がいなかった。だから、正史が書かれなかった。代わりに残されたのは、神殿が公式に流布する英雄譚(ヘイログラファ)、神殿が秘密に保管していた批判的記録(アポグラファ)、ヴィヴェク自身の告白ノルドの英雄譚アッシュランダーの記憶ダゴス・ウルの怨み第三十六説話の神話── そのすべてが互いに矛盾し、誰一人として自分の物語を「これが真実だ」と決定的には主張できない。

そして三千五百年後、ネレヴァリンが現れた時、彼/彼女が向き合うのは、互いに矛盾する五つも六つもの物語の塊でした。どれが「真実」かを判定する基準は、もう誰も持っていない。

ネレヴァリンは、すべての物語を読み、すべての伝承者と話し、最後に ──自分自身の判断で、何が真実だったかを決めねばならなかった。それが、神を倒すために必要な、最後の試練だったのです。

ぜひ記事をシェアしてください!今後の励みになります!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントを投稿する

1件でも複数でも自動でZIPにまとめて添付します。画像: jpg, png, gif, webp (5MB/件) / その他: txt, log, csv, md, xml, json, ini, cfg, conf, yaml, yml, zip (1MB/件)

目次