※この記事には、Oblivionのネタバレを含みます。
はじめに
その2 では、皇帝ユリエル・セプティム七世が帝都の地下で討たれ、王者のアミュレットを一人の囚人に託すまでを見ました。三人の皇子も同じ日に討たれ、帝都の神殿で燃えていたドラゴンファイアは消えています。ドラゴンファイアは、この世界とデイドラの住む世界オブリビオンを隔ててきた守りの火で、火が消えると、町の外にオブリビオンの門が開くようになります。[1:2]残された望みは、ブレイズの長ジョフリーら、ごくわずかな者しか居場所を知らない隠された皇子でした。名をマーティンといい、シロディールの西の町クヴァッチで、竜の神アカトシュに仕える司祭をしていたのです。ところが囚人がクヴァッチへ着いたとき、町はもう燃え落ちていました。城壁の外にオブリビオンの門が開き、デイドラの王メエルーンズ・デイゴンの軍勢が、一夜で町を呑みこんだのです。[2:26]その3 では、燃えた町クヴァッチで隠された皇子が見つかり、北の山の砦へ迎えられるまでを物語でたどり、敵がなぜこの町を最初に焼いたのかを解説で探ります。
じつはこの問いには、ゲーム内にも完全な答えがありません。物語は、プレイヤーが丘を登る前の夜から始めます。解説では、燃える前のクヴァッチがどんな町だったのかから、答えの手がかりを探ります。
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第三章: クヴァッチ
皇帝が討たれてから間もなく、シロディールの西の丘に建つ町クヴァッチが一夜のうちに焼け落ちました。城壁の外にオブリビオンの門が開き、デイドラの軍勢がなだれこんだのです。
その町の聖堂には、逃げ遅れた人々を集め、一晩じゅう竜の神に祈り続けた一人の司祭がいました。自分が皇帝の血を引く最後の一人であることを、司祭はまだ知りません。
──町ひとつを滅ぼしてまで、わたしを?
丘の上の町
クヴァッチ(Kvatch)は、シロディールの西の丘の上に建つ古い町である。
丘のふもとには、西の港町アンヴィルと東のスキングラードを結ぶゴールドロードが通っている。坂を登って城門をくぐった旅人は、まず大通りの先にそびえる聖堂の尖塔を仰いだ。丘のいちばん上には、遠い昔から町を治めてきた伯爵の城がほとんど姿を変えずに立っていて、町には帝都のほかではただ一つという闘技場まであった。
町でいちばん人の集まる所は、九大神の筆頭に立つ竜の神アカトシュの聖堂である。シロディールのアカトシュ信仰は昔からこの町を中心にしていて、聖堂は信仰の長である首座が率いていた。
その聖堂に、マーティン(Martin)という司祭がいた。悩みを抱えて訪ねてくる人々の話を聞くのが務めで、自分は農夫の子だと信じて育った男である。
この年、町には新しい住人が一人増えていた。かつてヴァーデンフェルの島から空飛ぶ獣クリフレーサーを追い払い、聖者とたたえられたダンマー、聖ジウブ(St. Jiub)である。故郷のモロウウィンドを離れたジウブは、この静かな丘の町で回想録を書きはじめていて、筆はもう二巻目にさしかかっていた。
門の開いた夜
それは、皇帝が討たれてから幾日もたたない夜のことであった。
町じゅうが寝静まった夜ふけ、城壁の外の闇に、光る門がいくつも口を開けた。燃える輪のようなその門の向こうには、デイドラの住む世界オブリビオンが続いている。
門からは、悪夢から抜け出したような巨大なものが現れた。それが火を吐きながら城壁を乗り越えると、まわりに群がったデイドラが、眠っていた町へなだれこんだ。悲鳴と火で目を覚ましたオークの鍛冶は、取るものも取りあえず逃げ出したが、友は誰ひとり逃げきれなかった。
伯爵は、みずから兵を率いて最初の反撃に打って出たと伝えられる。けれど敵はあまりに多く、あまりに速かった。町に詰めていた帝国軍の兵さえ守りを支えきれず、伯爵は兵とともに城へ退いた。何としても、城だけは守り抜くつもりだったのである。
炎は、町を端から呑みこんでいった。聖堂の尖塔は折れて大通りをふさぎ、そのそばの戦士ギルドの館は崩れ落ちた。館にいた者で、丘の下まで逃げのびた者は一人もいない。魔術師ギルドの館も焼け落ち、逃げのびたのはノルドの錬金術師ただ一人であった。その錬金術師は、のちに「戦った者は死んだ。逃げた者には、少なくとも望みがあった」と、あの夜を振り返っている。
二巻目を書いていた聖ジウブの家にも、扉を破ってドレモラの一団が押し入った。かつて島の空から獣を追い払った聖者は、これも手柄が一つ増えるくらいのことだと立ち向かったが、ドレモラの掲げた黒い水晶が光ったとき、その魂は水晶の中に捕らえられていた。
地下室にいたボズマーの男は、ひどい物音と熱に驚いて外へ出た。町は、どこもかしこも燃えていた。男は城門を駆け抜け、燃える町の明かりを背に森の中を走り続けて、そのまま木の下で夜を明かした。
そのころ聖堂の司祭マーティンは、逃げまどう人々を一人でも多く集めようと、炎の中を駆け回っていた。
聖堂の夜
聖堂の扉が閉ざされたとき、中には司祭に導かれた町の人々と、城から追われてきた衛兵のティエラとベリック・イニアンの姿があった。ベリックたちが聖堂へ追いこまれる直前に、城の門はどうにか閉じられていたという。
聖堂の四方の壁はまだ立っていて、火の手も中までは入ってこない。
町の男は「アカトシュの聖堂だぞ。壁は立っているし、火もない。これより安全な所があるものか」と言って床に座りこみ、ベリックは扉の前に立って、隊長の許しが出るまで誰も外へ出さないと言い張った。それでも、とどまるのを嫌って出ていった人々がいた。ティエラが危ないと説いても聞かず、その人々が戻ってくることはなかった。
マーティンは祭壇の前にひざまずき、竜の神に祈った。
壁の向こうでは町が燃え、デイドラの叫びが響いていた。祈りは、夜が明けるまで続いた。
けれど助けは来ず、来たのは、さらに多くのデイドラだけであった。
それでも聖堂の扉は、朝まで破られなかった。
柵の前の男
夜が明けると、城壁の外に開いた門はほとんど消えていた。敵が、自分の手で閉じていったのである。ただ一つ、町の門の真正面に開いた門だけが、燃える口を開けたまま残っていた。
丘の下には、町を逃れた人々の野営地ができていた。坂の途中では、衛兵のサヴリアン・マティウスが、わずかな兵と急ごしらえの柵を守っている。サヴリアンは本当の隊長ではなく、生き残った者の中でいちばん位が高いというだけの男であった。
「わが家が……わが家が燃えているのに、中へ入って何もしてやれないとは」 サヴリアンは歯がみしたが、柵を離れるわけにはいかなかった。門が開いているかぎりデイドラは湧き出し、ここを破られれば、丘の下の野営地まで呑まれてしまう。けれど敵は門を閉じることができ、地面に残った跡がその証しだった。ならばこちらから閉じる手立てもあるはずだと考えて、サヴリアンは部下を門の中へ送りこんだが、誰ひとり戻ってはこなかった。
そこへ丘を登ってきたのが、皇帝が最期に王者のアミュレットを託した、あの囚人である。ウェイノン修道院でブレイズの長ジョフリーから隠された皇子の居場所を聞き、クヴァッチへ駆けつけたのだった。手を貸すと申し出た囚人を、サヴリアンはまじまじと見た。「手を貸すだと? 冗談だろう。……本気なら使い道はあるかもしれんが、おそらく死ぬことになるぞ」
開いた扉
囚人がくぐった門の向こうには、赤い空の下に溶岩の川が流れていた。先に入った衛兵たちは橋の上で倒れていて、ただ一人生き残ったイレンド・ヴォニアスは、仲間が大きな塔へ連れていかれたと告げた。囚人は塔を頂まで登りつめ、門を開けておく石、印石を台座から外した。塔が崩れはじめ、気がつくと囚人は町の門の前に立っていて、赤い門は跡形もなく消えていた。
「門を閉じたのか? やってくれると思っていたぞ!」 サヴリアンはそう叫ぶと衛兵とともに町へなだれこみ、聖堂の前の広場に残っていたデイドラを斬り払って、ついに聖堂の扉を開いた。
扉の内側の人々は、生き残ったのは自分たちだけかと思いはじめていた。囚人がマーティンという司祭を探していると言うと、ティエラは奥にいる一人の司祭を指さした。その司祭は囚人をまっすぐに見て、司祭が要るのなら、わたしでは力になれないと言った。
“いまのわたしには、神々のことが分からない。これがすべて神の計画だというのなら、関わりたいとは思わない”
囚人は、皇帝の最期の言葉を伝えた。皇帝には隠された息子がいて、それが目の前のこの司祭なのだ、と。
“皇帝がわたしの父だと? 人違いだろう。わたしはアカトシュの司祭で、父は農夫だった”
デイドラはあなたを狙ってこの町へ来たのだ、と囚人は告げた。司祭はしばらく黙りこみ、それから問い返した。
“町ひとつを滅ぼしてまで、わたしを? なぜだ?……わたしが、皇帝の子だからか?”
それでもマーティンは、すぐには腰を上げなかった。信じていないわけではない。だが、皆が無事にここを出られると分かるまでは行かない。この人たちとは、もうあまりに多くを一緒にくぐり抜けてきたのだ、とマーティンは言った。
サヴリアンが人々を丘の下の野営地へ連れていくようティエラに命じると、一晩を聖堂で耐えた人々は、司祭とともにようやく外へ出た。焼け落ちた町の上の空は、もう明るかった。
伯爵の指輪
町を取り戻すには、まだ城が残っていた。サヴリアンと囚人は城へ攻めのぼり、大広間のデイドラを斬り払って、奥の部屋へ踏みこんだ。
伯爵オーメリアス・ゴールドワインは、自室の床で血の海に伏して息絶えていた。何としても守り抜こうとした城の、いちばん奥である。なきがらには、伯爵の位の印であるコロヴィアの印環が残されていた。
指輪を受け取ったサヴリアンは、新しい伯爵が立つ日まで必ず守ると誓い、焼けた町を見渡して言った。
“クヴァッチは前にも一度、廃墟から建て直された。もう一度、立ち上がるだろう”
二人の司祭
丘の下の野営地には、夜のうちに町を逃れた人々が身を寄せていた。
避難民たちは一人ずつ、あの夜のことを語った。夜ふけに光る門がいくつも開いたこと、巨大なものが城壁を越えてきたこと。地下室にいて助かった男は、朝になって戻ってきたら、クヴァッチはもう無かったと言った。
その中に、聖堂を率いる老いた首座、イラヴ・ドラルゴナーの姿があった。町を逃れた首座は、誰にともなく同じ嘆きを繰り返していた。
“望みは絶え、皇帝の血も絶えた。契約は破られ、敵が勝ったのだ。聖堂は倒れ、信徒も友も、みな死んだ。神々はなぜ、わたしたちを見捨てたのか”
けれど丘の上の聖堂は、倒れていなかった。四方の壁を保ったまま夜を越え、その中で生き延びた人々がいま同じ野営地に下りてきて、もう一人の司祭のことを口々に語っている。「あの恐ろしい夜、救えるかぎりの人を救ってくださったあの方のことは、忘れません」
皇帝の血は絶えたと嘆く首座のすぐそばに、その血を引く最後の一人がいたのである。
マーティンは野営地で囚人を待っていた。聖堂から生きて出られるとは思わなかった、アカトシュがあなたを導いてくれたのかもしれない。そう礼を言うと、マーティンはウェイノン修道院へ行ってジョフリーの話を聞くことを承知した。
修道院の扉
二人がウェイノン修道院に着いたとき、羊飼いのエロノールが駆け寄ってきた。修道院で皆が殺されている、と言うのである。赤い衣の刺客たちが、修道院を襲っていた。
囚人とマーティンは修道士とともに庭の刺客を斬り払ったが、修道院長マボレルは、すでに殺されていた。礼拝堂で一人戦っていたジョフリーは、刺客を退けるなり、真っ先に隠し部屋へ走った。
王者のアミュレットは、消えていた。
「すべてが裏目に出たわけではない。我らはユリエル陛下の世継ぎを得て、王者のアミュレットを失ったのだ」と、ジョフリーは言った。ドラゴンファイアを灯せる血はようやく見つかったのに、その血が手にすべきアミュレットは、敵の手に渡ってしまったのである。
雲の上の砦
ジョフリーが選んだ行く先は、ブルーマの近くの山の上に建つブレイズの砦、曇王の神殿だった。三人は馬を連ね、雪の積もる山道を北へ向かった。
神殿の門が開くと、中庭にはブレイズが勢ぞろいしていた。
“ドラゴンボーンに栄えあれ! マーティン・セプティムに栄えあれ!”
農夫の子として育った司祭は、少しとまどったように皆を見渡し、短く答えた。皆が自分に皇帝であることを望んでいるのは分かっている。精いっぱいやるつもりだが、何もかもが初めてのことで、演説にも慣れていないのだ、と。
そのころからシロディールの各地で、町の外に赤い門が開きはじめていた。
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解説 ──最初に焼かれた町
この章の解説は、ほとんどがクヴァッチという町の話です。焼ける前のクヴァッチの通りは、遊んでも一度も歩けません。けれどこの町が帝国の中でどんな町だったのかを知ると、あの一夜で何が失われたのかが見えてきます。

- 第三紀433年 収穫の月皇帝が帝都で討たれる皇帝ユリエル・セプティム七世が帝都の地下で討たれ、王者のアミュレットを託された囚人が、コロールの近くのウェイノン修道院へ届ける。
- 第三紀433年クヴァッチが一夜で落ちる西の丘の町クヴァッチの城壁の外にオブリビオンの門がいくつも開き、町は一夜で焼け落ちる。
- 第三紀433年囚人がクヴァッチの門を閉じるジョフリーから皇子の居場所を聞いた囚人がクヴァッチへ駆けつけ、町の門の前の門を閉じて、聖堂のマーティンを助け出す。
- 第三紀433年ウェイノン修道院が襲われるマーティンと修道院へ戻ると、修道院は赤い衣の刺客に襲われていて、王者のアミュレットが奪われる。
- 第三紀433年曇王の神殿へジョフリーはマーティンを、ブルーマの近くの山の上にあるブレイズの砦、曇王の神殿へ連れていく。
- 第三紀433年各地に門が開きはじめる皇子が見つかったころから、シロディールの各地で、町の外にオブリビオンの門が開きはじめる。
- オブリビオンの門・敵の攻め
- 囚人とマーティンの道
- 戦い
ゲームで分かること
・門:皇帝が討たれたあと、シロディールの町の外にオブリビオンの門が開きはじめる。クヴァッチは門に焼かれた最初の町だった
・印石:門は向こう側の大きな塔の頂にある印石を外すと閉じる
・世継ぎ:ドラゴンファイアを灯せる最後の血を引く皇帝の隠し子マーティンは、クヴァッチのアカトシュ聖堂の司祭だった
ここから先の話には、ESO(The Elder Scrolls Online)も使います。ESO は、Oblivion の舞台の第三紀より七百五十年ほど前の、第二紀を舞台にしたオンラインゲームです。ESO ではクヴァッチのアカトシュ聖堂を大聖堂(Cathedral of Akatosh)と呼ぶので、この記事では第二紀の話は大聖堂、第三紀の話は聖堂と書きます。[3]
クヴァッチはどんな町だったのか?
クヴァッチは、シロディールの西の丘に建つ古いコロヴィアの町で、アカトシュ信仰の中心の大聖堂を抱え、第二紀には帝国でも指折りの安全な場所と書かれた町でした。[4:6,9][5:7]コロヴィアは、シロディールの西半分に広がる高地の地方のことです。町の歴史は、王の町だった第一紀、大聖堂の町だった第二紀、簒奪者に荒らされた第三紀の、大きく三つに分けられます。

第一紀のクヴァッチは、王の治める一つの国でした。ゲーム内の本『正当なるリスラヴ』には、第一紀478年、クヴァッチ王の娘婿リスラヴが隣のスキングラードの王になり、攻めてきたアレッシアの帝国の大軍を、クヴァッチ王の軍とともに高地の森で破った話が出てきます。[6:27]クヴァッチの城もこの時代から続く古い城で、ESO の読み込み画面は、この二千年ほとんど姿を変えていないと紹介しています。[7:8]
第二紀のクヴァッチは、アカトシュ信仰の中心でした。町にはアカトシュの大聖堂があり、信仰の長である首座(Primate)が座っていました。[5:7]ESO の日本語版では首座を大司教と訳していますが、この連載では、あとで出てくる唯一神の大司教と分けるために首座と書きます。
大聖堂と首座を守っていたのが、アカトシュの騎士団、時の騎士団です。[8]第二紀566年の旅の案内書は、クヴァッチをこう紹介しています。
“丘の上のクヴァッチは、シロディールで最も古いコロヴィアの町の一つで、豊かな歴史と生き生きとした伝統を持つ。クヴァッチの人々は、よく本を読み人当たりがよく、また保守的で信心深いと評判だ。……由緒ある時の騎士団は、アカトシュの首座と大聖堂を守る者たちで、大聖堂の内外で務めにあたる姿をよく見かける。……この二つがあるおかげで、クヴァッチは帝国じゅうでも指折りの安全な場所であり続けている”
アスティニア・イサウリクス著『ゴールドコーストガイド パート2』より[4:9]
(The hilltop city of Kvatch is one of the oldest Colovian cities in Cyrodiil, with a rich history and vibrant tradition. The inhabitants of Kvatch enjoy a reputation for being well-read and pleasant, as well as conservative and pious. … The venerable Order of the Hour, protectors of the Primate of Akatosh and the Cathedral, can often be seen going about their duties in and around the Cathedral. … Between the two groups, Kvatch remains one of the safest places in all of the Empire.)

第三紀249年、クヴァッチはキャモランの簒奪者の軍に荒らされました。[9]簒奪者の側の者でさえ「あれはひどかった」と振り返る略奪で、本『避難民たち』に、その言葉が残っています。[10:35]
それでも町は建て直されました。焼け落ちたクヴァッチの広場には、勝ち目のない守りを率いて大敗した戦士、アントゥス・ピンダー(Antus Pinder)の像が立っています。[11:309]

Oblivion のコレクターズ・エディションに付いた冊子『帝国のポケットガイド』の第3版は、クヴァッチの伯爵家で跡目争いが起き、伯爵の二人の息子がともに命を落としたと書いています(冊子では伯爵の名がハデラスになっています)。[9:11][12:47]オブリビオンの門が開く前の年、第三紀432年のことで、伯爵家はあの夜より前に、跡を継ぐ者を失っていたのです。年の順に並べると次のとおりです。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 第一紀478年 | クヴァッチ王の軍とリスラヴが、アレッシアの帝国の大軍を破る |
| 第二紀432年 | 大聖堂を守る時の騎士団が、クヴァッチで興し直される |
| 第二紀566年 | 旅の案内書が、クヴァッチを帝国でも指折りの安全な場所と書く |
| 第三紀249年 | キャモランの簒奪者の軍が、クヴァッチを荒らす |
| 第三紀432年 | 伯爵家の跡目争いで、伯爵の二人の息子が死ぬ |
| 第三紀433年 | オブリビオンの門が開き、クヴァッチが一夜で焼け落ちる |
クヴァッチは、一度荒らされても建て直されてきた町でした。帝国でも指折りの安全な場所と書かれたその町が、オブリビオンの門に焼かれた最初の町になったのです。
敵はなぜクヴァッチを最初に選んだのか?
シロディールの町の外に門が開きはじめるのは皇子が見つかったあとで、それより前に開いた門は、クヴァッチの前の一つだけです。[13:3,29]この問いに、ゲーム内の完全な答えはありません。
デイゴンの軍勢も、皇帝を討った教団の深遠の暁も、なぜクヴァッチを最初に焼いたのかをゲーム内で一度も語らないからです。残っているのは、まわりの者の見立てと、あとで分かる事実だけです。
いちばん答えに近いことを言っているのは、ブレイズの長ジョフリーです。クヴァッチが襲われたという知らせは、ウェイノン修道院にも届いていました。隠された皇子の居場所を囚人に明かすとき、ジョフリーはこう言っています。
“名はマーティン。クヴァッチのアカトシュ聖堂の司祭だ。そう、クヴァッチだ。クヴァッチが襲われたのが偶然だとは、わたしには思えぬ。敵は我らの秘密をすべて知っているようだ”
ジョフリーの言葉 より[14:70]
(His name is Martin. He is a priest in the Chapel of Akatosh in Kvatch. Yes, Kvatch. I cannot believe the attack on Kvatch is a coincidence. The enemy seem to know all our secrets.)
ジョフリーの見立てでは、敵の狙いはマーティンでした。敵が皇子の居場所を知っていたのなら、クヴァッチが最初に焼かれた訳は説明がつきます。
敵が帝国の秘密を知っていた跡は、ほかにもあります。皇帝はブレイズしか知らない抜け道で待ち伏せされ、修道院の隠し部屋にあった王者のアミュレットも奪われました。[15]ジョフリーには、隠し部屋を確かめる前に言うはずだった、使われなかった台詞も残っています。
“奴らなら見つけられると、気づくべきだった。デイドラの王から隠しおおせるものなど、ほとんどない。わたしは敵を見くびった。二度と同じ過ちはせぬ”
ジョフリーの言葉(使われなかった台詞) より[14:328]
(I should have known they could find it. Little can remain hid from a Daedra Lord. I underestimated the enemy. It will not happen again.)
ただ、マーティン一人を殺すことが狙いだったとすると、説明のつかないことも残ります。デイドラは伯爵の城も戦士ギルドの館も落としたのに、マーティンのこもった聖堂だけは、朝まで破れませんでした。[16:51][17:36,37]町じゅうを焼きながら、いちばん狙ったはずの一人を討ちもらしたことになります。
答えの読みは、次の四つに割れています。[18]
- 竜の神の町だから
アカトシュの大聖堂のある町を先に焼けば、帝国の信仰をくじける。クヴァッチは竜の神の信仰の中心だった - 世継ぎを殺すため
教団はマーティンの顔までは知らず、クヴァッチにいることだけをつかんでいた。だから町ごと焼いた。ジョフリーの「偶然とは思えぬ」が支えになる - 西の道を断つため
スキングラードを通って帝都へ続く道を断ち、西の港町アンヴィルを孤立させる。クヴァッチは、その道ゴールドロードを見下ろす丘の上にある - いちばん固い町だから
丘の上の高い城壁の町を先に落とせば、ほかの町は震え上がる。案内書は、クヴァッチを指折りの安全な町と書いていた
このうち、ゲーム内の言葉で支えられるのは「世継ぎを殺すため」だけです。ほかの三つは、町の姿や場所から立てた読みです。
どの読みにも決め手は無いので、ここからはわたし個人の読みになります。教団は、マーティンがクヴァッチにいることまではつかんでいたものの、顔の分からない一人を確かに討つために、町を丸ごと消そうとしたのだと思います。ところがその一人は、竜の神の聖堂の中で夜を越えました。
作り手にとってクヴァッチはなぜ焼け跡の町だったのか?
作る時間がなかったからです。ゲーム内では答えの無い問いでも、作った人たちはゲームの外で語っています。Oblivion を作ったベセスダのマーク・ネルソンは、2026年の記録映画で、クヴァッチは本当は丸ごとの町になるはずだったと振り返っています。[19]
“クヴァッチみたいな町は、丸ごと消したんだ。あれは本来、丸ごと一つの町になるはずだった。でも時間がなくて、じゃあオブリビオンの門に壊されたことにしよう、となった。それからは、ゲームから外す物はなんでも「クヴァッチする」と呼ぶようになった”
マーク・ネルソンの言葉(記録映画『Oblivion – An Oral History from the Game Developers』) より[19]
(We killed whole cities like Kvatch. That was supposed to be a full city, and we ran out of time, and like, guess what, that’s going to have been destroyed by an Oblivion gate. And then anything we removed from the game was called Kvatching at that point.)
この言い方はいまも社内に残っていて、Oblivion のクエストを書いたエミール・パリアルーロは、2023年にこう明かしています。[20]
“豆知識をひとつ……Oblivion のころから、社内では「Kvatch’ed(クヴァッチされた)」という言葉がときどき使われる。何かの訳で「爆破する」(取り除く)ことにした、ゲームプレイのひとかたまりや絵、ときにはレベルまるごとを指す言葉だ”
エミール・パリアルーロの投稿 より[20]
(Fun fact… ever since Oblivion, the term “Kvatch’ed” is sometimes used, internally, to describe either a chunk of gameplay or piece of art (or even a level) that we’re going to “blow up” (get rid of for whatever reason).)
焼け跡の町には、もう一つの顔があります。発売前の2005年に、ゲームの見本市 E3 で世界に見せた Oblivion の見本は、この焼け跡のクヴァッチでした。メインクエストを手がけたカート・クールマンは、こう振り返っています。[21]
“E3 が迫っていて、わたしたちは Oblivion の見本を間に合わせようと必死だった。予定では、帝国軍の一隊がオブリビオンの門を攻める場面を見せるはずだった。……そこへトッドに呼ばれて、イシュトヴァン・ペリーが試しに作った物を見せられた。廃墟の町を戦い抜く場面だ。……結局、それが正しかった。それが E3 で見せたクヴァッチの見本になり、もとの帝国軍の戦いは、オブリビオンの門の近くでたまに出会う戦いとしてゲームに入った”
カート・クールマンの言葉(Game Informer「Decrypting the Elder Scrolls」) より[21]
(E3 was coming up and we were scrambling to get the Oblivion demo done in time. The plan was to show a detachment of Imperial soldiers attacking an Oblivion gate. … Then Todd called me over to see something that Istvan Pely had prototyped – a fight through a ruined city. … It turned out to be the right decision – this was the Kvatch demo we showed at E3, and the original Legion fight ended up in the game as a random encounter near an Oblivion gate.)
焼け跡には、削られた物語の名残も一つ埋まっています。Oblivion の製作総指揮のトッド・ハワードは、2007年のファン向けの問答で、城で死んでいた伯爵についてこう答えています。[22:47]
“Oblivion のメインクエストに、元老院とのやりとりがたっぷり入っていた時期もありました。ですが、まだ紙の上の案のうちに削りました。話を読み合わせるたびに、デイドラと戦うというメインクエストの焦点がぼやけたからです。……それは「貴族」の勢力のクエストで、位を上っていって「コロヴィア公」になり、元老院に席を得るというものでした。そのクエストの名残は、クヴァッチ城の死んだ公爵だけです。あれが、そのクエストの入口になるはずでした”
トッド・ハワードの答え(Oblivion のファン向けインタビュー) より[22:47]
(There was a time that the Oblivion main quest featured a ton of that, dealing with the Elder Council, but we did end up cutting it while it was still on paper, in all our story reads, it really defocused the main quest from dealing with the daedra, which we wanted the focus to be. … It was the “nobility” faction line, where you made your way up and became “The Duke of Colovia” and sat on the Elder Council. The only remnant of that questline is the dead Duke in Castle Kvatch, which was to be the beginning of that line.)
城の自室で血の海に伏していた伯爵は、ゲームから外された物語の入口でもあったのです。
あの夜のことはだれが語っているのか?
作り手はクヴァッチを焼け跡にしましたが、町が落ちた夜そのものは、ゲーム内で場面として見せていません。あの夜のことは、町を逃れた人々と聖堂にこもった人々が、一人ずつ少しずつ語っています。
言葉の多くは、丘の下の野営地や門の前の柵、聖堂で、話しかけないと聞けません。語っている人と中身は次のとおりです。
| 人 | その夜いた所 | 語ること | ゲームで聞ける所 |
|---|---|---|---|
| 避難民のハーテル | 町 | 城壁の外に光る門がいくつも開き、巨大なものが城壁を越えて火を吐いた[2:26] | 丘の下の道(クエストの始まり) |
| レッドガードの避難民 | 町の家 | 夜ふけ、みんなが眠っているときに門が開き、デイドラが町に火をつけた[23:27] | 野営地 |
| ボズマーの避難民 | 家の地下室 | 外へ出ると町じゅうが燃えていて、門を抜けて火の明かりで森を走り、朝に戻ると町は無かった[24:25] | 野営地 |
| オークの鍛冶 | 町の家 | 悲鳴と火で目が覚めて逃げた。友は助からなかった[25:30] | 野営地 |
| ノルドの錬金術師 | 魔術師ギルドの館 | 真夜中に門からデイドラが出てきた。戦った者は死に、逃げた者には望みがあった[26:26] | 野営地 |
| 衛兵のティエラ | 聖堂 | 司祭マーティンが、混乱のなかで人々を聖堂へ導いた[27:38] | 聖堂 |
| 衛兵のベリック・イニアン | 城から聖堂へ | 聖堂へ追いこまれる直前に、城の門をなんとか閉じた[28:56] | 聖堂 |
| 衛兵のサヴリアン・マティウス | 町の門の前 | 敵は最初の攻めで開いた門を自分で閉じ、地面に跡が残った[16:71] | 門の前の柵 |

証言をつなぐと、食い違う所も出てきます。野営地の首座イラヴは、聖堂は倒れ、信徒も友もみな死んだと嘆いています。[29:40]ところが UESP の調べでは、聖堂の者はみな生き延びています。[17:37]
避難民のハーテルも、「マーティンという司祭なら知っていた。きっと死んだよ、ほかのみんなと同じに」と言っています。[2:33]丘の下の野営地では、聖堂で夜を越えた人々のことが、まだ知られていなかったのです。
表に入れなかった、出どころの違う話も二つあります。聖ジウブの話は、のちの作品 Skyrim の追加コンテンツ、ドーンガードで本人が語る台詞で、この記事では魂を捕らえられたところまでを使いました。[30:37,78,80]伯爵がみずから最初の反撃を率いたという話は、サヴリアンの使われなかった台詞で、有志の非公式パッチ(Unofficial Oblivion Patch)を入れると聞けるようになります。[12:48]
竜の神の町に竜の神はなぜ来なかったのか?
アカトシュは、アレッシアの血を引く皇帝が王者のアミュレットを身につけてドラゴンファイアを灯すかぎり、オブリビオンの門を閉ざしておくと約束していました。[1:2]竜の神の守りの契約は皇帝の死で働かなくなっていて、ドラゴンファイアを灯し直せる最後の血は祈る側にいたからです。
あの夜、マーティンは聖堂で一晩じゅうアカトシュに祈りましたが、竜の神の町に、竜の神の助けは来ませんでした。[31:64]野営地の首座イラヴも、同じことを問い続けています。
“皇帝の血は絶え、神々はわたしたちを見捨てた。わたしたちの祝福はどこにある? わたしたちの守りはどこにある? わたしたちの神々はどこにいる? 敵は勝ち誇り、わたしたちは独りで死んでいく”
イラヴ・ドラルゴナーの言葉 より[29:37]
(The Imperial line is dead, and the gods have forsaken us. Where is our blessing? Where is our protection? Where are our gods? The Enemy triumphs, and we die alone.)

同じ町の首座は、七百年ほど前にはまるで逆のことを説いていました。ESO の本『竜神の崇拝』には、第二紀のクヴァッチの首座の口ぐせが残っています。[32:5]
“竜神はその日その日の憂いの先を見て、時の広がりのすべてを見渡しておられる。今の有様は出来事の流れの小さな乱れにすぎず、アカトシュはすべてをしっかりと御手に収めておられる”
『竜神の崇拝』 より[32:5]
(The Dragon God sees beyond the concerns of the day and contemplates the entire expanse of time. The current situation is merely a minor disturbance in the flow of events, and Akatosh has everything well in hand.)
第二紀には、アカトシュが祈りに応えたと語られる話もあります。のちにクヴァッチの首座になるアルトリウスという司祭は、矢に射抜かれて死んだ子のために、アカトシュの祠で三日三晩祈り続けました。ESO の伝記『大司教:栄光へ』は、その結末をこう書いています。[33:4]
“三日目の終わりに、司祭は神殿の誰にも分からない言葉を早口で語りはじめた。すると祠から、まばゆい光がほとばしったという。……光が収まると、矢は消え、傷はふさがり、子は息を吹き返していた。アカトシュがアルトリウスの祈りに応えたのだと、誰もが言った”
ミダラ・サルヴィティカス著『大司教:栄光へ』 より[33:4]
(At the end of the third day, the priest began to speak rapidly in a tongue that no one in the temple could understand. Then, it is said, a burst of brilliant light emanated from the shrine. … When the glow subsided, the arrow was gone, the wound was healed, and the child was alive. Everyone said that Akatosh had answered Artorius’s prayers.)
三日の祈りに応えたと語られた神は、第三紀のクヴァッチでは、一晩の祈りに応えませんでした。その訳は、契約にあります。
皇帝と三人の皇子が討たれたとき、ドラゴンファイアは消え、契約はもう働かなくなっていました。野営地のイラヴが「契約は破られた」と嘆いたのは、このことです。[29:34]
そしてドラゴンファイアを灯し直せる最後の血は、そのとき祈る側にいました。竜の神に祈っていた司祭こそが、契約をよみがえらせる鍵だったのです。
『竜神の崇拝』は、アカトシュの性質として、耐え続けること、打ち負かされないこと、永く正統であることの三つを挙げています。[32:6]三つ目の「正統」には、血筋で位を継ぐ決まりを重んじるという意味も含まれます。
打ち負かされないはずの神の町は一夜で落ち、血筋を重んじる神の聖堂には、皇帝の血を引く最後の一人が身を寄せていたことになります。それを神の答えと見るかどうかは、この章のゲーム内では、まだ決まっていません。
皇帝の庶子はマーティンだけだったのか?
マーティンのように、皇帝の正式な妻でない女性から生まれた子を、庶子といいます。皇帝の庶子は、マーティンのほかにもう一人いました。
Morrowind と Oblivion に出てくる本『言葉と哲学』に、その名が出てきます。皇帝の衛兵長ベノクの夫人に話を聞いた本で、書き手は夫人に、こんな噂をぶつけています。[34:22]

“キャラクセスは皇位を継ぐ立場にはなかったが、唯一神の大司教の座を与えられていた。帝都で、そしてこの信仰が敬われるタムリエルのすべての地で、大きな力を持つ地位である。神々はタムリエルの世俗の政府に、とりわけ皇帝に怒っているとキャラクセスは信じている。そんなささやきがたちまち広まった。帝国の上に神の治める国を打ち立てるため、キャラクセスは全面の反乱を説いているとさえ言われた”
『言葉と哲学』 より[34:22]
(Calaxes, though not in line for succession, had been given the Archbishopric of The One: a powerful position in the Imperial City, and indeed over all Tamriel where that religion is honored. Whispering began immediately that Calaxes believed that the Gods were angered with the secular governments of Tamriel and the Emperor specifically. It was even said that Calaxes advocated full-scale rebellion to establish a theocracy over the Empire.)
唯一神の大司教は、ドラゴンファイアの燃える帝都の唯一神の神殿に座る、教会の長です。本によれば、皇帝と大司教の仲はひどく荒れ、教会の力を抑える法も通りました。[34:23]
そしてキャラクセスは、親しい友にも告げずに姿を消します。衛兵長が大司教を手にかけたという噂が立ったとき、ベノク夫人は謎めいた笑みを浮かべ、衛兵は玉座を守る者で暗殺者ではないと答えただけでした。
この出来事は、年もはっきりしません。本には第三紀498年と刷られていますが、第三紀は433年で終わるので、どこかで刷り違えています。UESP は398年と読み、ベノク夫人の経歴と合わせて418年と読む見方もあります。[35]
皇帝の子を並べると、次のとおりです。
| 皇帝の子 | 立場 | どうなったか |
|---|---|---|
| ゲルドール・エンマン・エベル | 皇后カウラ・ヴォリアの皇子 | 第三紀433年に、深遠の暁に討たれる |
| キャラクセス | 公に認められた庶子。唯一神の大司教 | 皇帝とぶつかって姿を消す(暗殺の噂) |
| マーティン | 本人にも隠された庶子。クヴァッチのアカトシュ聖堂の司祭 | 433年に、ただ一人残った世継ぎになる |
二人の庶子は、置かれ方がまるで違います。一人目は公に認められて帝都でいちばん高い聖職に就き、玉座とぶつかって消えました。二人目は名も告げられず、都から遠い町の聖堂で、自分の生まれも知らずに暮らしました。
公にされた庶子は消え、隠された庶子が、最後の世継ぎとして残ったのです。
クヴァッチの英雄の名はどう広まったのか?
クヴァッチの知らせは町々の噂を伝って広まり、門を閉じた囚人は「クヴァッチの英雄」と呼ばれるようになりました。噂の中身は、話の進み具合で、次のように移っていきます。
- 落ちた直後の町の人「クヴァッチのことを聞いたか? オブリビオンからデイドラが出てきて、町を焼き払ったそうだ!」「クヴァッチのようなことが、ここでも起きると思うか?」[36:7,8]
- 門が閉じたあとの町の人「みんなクヴァッチの英雄の話でもちきりだ! オブリビオンの門に入って、壊したそうだ」[36:10]
- 門が閉じたあとの帝国軍の兵「クヴァッチのオブリビオンの門が閉じたぞ! それが何を意味するか分からないのか? 奴らに勝てるんだ!」[36:37]
ところが各地に門が開きはじめると、噂は暗くなります。「クヴァッチ? クヴァッチは始まりにすぎない! あの忌まわしい門は、そこらじゅうに開いた。シェイディンハルにも、コロールにも、レヤウィンにも。安全な町なんて、どこにもない」[36:39]焼けた町の名は、ほかの町が恐れるものの名になり、同時に、門を閉じた囚人の呼び名にもなったのです。
曇王の神殿はどんな砦だったのか?
曇王の神殿は、第二帝国のはじめにブレイズの祖が山の上に築いた砦です。ジョフリーは、マーティンを連れていく前に、こう説明しています。
“曇王の神殿は、遠い昔、レマン・シロディールの時代に、ブレイズを興した者たちが築いた。ブルーマに近い山の高みにある……我らの古い砦であり、聖域であり、最後の逃げ場だ。あそこなら、マーティン様はどこにいるより安全だろう”
ジョフリーの言葉 より[14:114]
(Cloud Ruler Temple was built long ago, by the founders of the Blades, back in the days of Reman Cyrodiil. It is high in the mountains near Bruma… our ancient fortress, sanctuary, refuge of last resort. Martin will be as safe there as anywhere.)
レマン・シロディールは、第一紀の終わりに第二帝国を興した皇帝です。ブレイズのもとは、そのレマンに仕えたアカヴィリ(海の向こうの大陸アカヴィルから来た人々)の竜衛兵で、竜の血を守るための砦が、第二帝国の始まりから山の上にありました。[37]

皇帝を逃がす途中で討たれたレノルト指揮官の刀を、帝都の下水道で拾ってボーラスに渡すと、ボーラスはこう約束します。[38:27]
“ところで、レノルト指揮官の刀を取り戻してくれて、礼を言う。ブレイズの広間で、誉れの場所に飾らせよう”
ボーラスの言葉 より[38:27]
(By the way, thanks for recovering Captain Renault’s sword. I’ll see that it is given a place of honor in the halls of the Blades.)
Oblivion のブレイズにとって、ドラゴンボーンとは、冠を戴いたかどうかにかかわらず、アレッシアの契約の血を受け継ぐセプティムの者のことでした。竜の血を守って死んだ仲間の刀を飾る砦で、ブレイズは最後のセプティムをドラゴンボーンと呼んで迎えたのです。
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さらなる解説
解説で書ききれなかった三つの話を、もう少し掘ります。気になるものだけ開いてお読みください。
ヴァレン・アクィラリオス ──竜の血を求めたクヴァッチ伯
クヴァッチの伯爵が、王者のアミュレットに手をかけたことがあります。ESO の時代の第二紀576年、クヴァッチ伯ヴァレン・アクィラリオスは皇帝レオヴィックに背き、やがて帝都に攻め入ってレオヴィックを斬り、皇帝を名乗りました。けれどヴァレンは竜の血を引いておらず、竜の血の無い者は、本当の皇帝とは見なされませんでした。[39]
ヴァレンは第二紀579年、魔術師マニマルコに勧められて、王者のアミュレットでアカトシュに自分をドラゴンボーンと認めさせる儀式に臨みます。ところがマニマルコはデイドラの王モラグ・バルの手先で、儀式をねじ曲げ、この世界とオブリビオンを隔てる古い守りを壊してしまいました。この出来事は「魂の破裂」(Soulburst)と呼ばれ、ヴァレンは姿を消しました。[39]
竜の血を持たないクヴァッチ伯が、アミュレットで竜の血を得ようとして帝国の守りを壊し、それから七百五十年ほどのち、本物の竜の血を引く最後の一人が、そのクヴァッチの聖堂にいたのです。
時の騎士団 ──大聖堂を守った戦う司祭たち
時の騎士団は、飾りだけの護衛ではありませんでした。ESO の本『時の騎士団』によれば、騎士団は第一紀にアカトシュに身をささげる騎士団として興り、いったん廃れたのち、第二紀432年に戦う司祭たちが仲間を集めて、クヴァッチの大聖堂を守るために興し直しました。[8]第二紀467年、赤麦の病で二年続けて作物を失った人々が、斧と松明を手に大聖堂の階段へ押し寄せたことがあります。
“だが時の騎士団は、その襲撃に備えていた。シスター・セヴェラと戦う司祭たちは、松明が一つも投げられないうちに、群衆の半ばを斬り伏せた”
説教師エクソードー・ヴァシディアス著『時の騎士団』 より[40:5]
(But the Order of the Hour was ready for the assault, and Sister Severa and her warrior-priests slaughtered half the crowd before even a single torch had been thrown.)
本はこれを、騎士団の勇ましさの例として誇らしげに書いています。480年には騎士団が兵を集めて城壁に上がり、盗賊の大軍から町を守りました。騎士団は身を固め、務めにすべてをささげるのです。
第三紀の Oblivion では、騎士団の名はほとんど聞かれません。ところがリマスター(Oblivion Remastered)のデラックス版の追加クエストでは、野営地の老司祭イラヴが、自分はこの騎士団の者だと明かします。[41][29:50]
“あなたは気高い魂を持つ、九大神の信徒だ。わたしはそれよりつつましい司祭で、何百年もアカトシュのために立ってきた騎士団を代表している”
イラヴ・ドラルゴナーの言葉(Oblivion Remastered デラックス版) より[29:50]
(You are a noble soul and a follower of the Nine. I am a more humble priest and represent an Order that stood for Akatosh for centuries.)
神々に見捨てられたと嘆いた野営地の老司祭は、何百年もアカトシュに仕えてきた騎士団を背負っていたのです。
スライズの日記 ──沈みし者の正体
クヴァッチが燃えた夜、町の東のシェトコーム農場では、ダンマーの農夫スライズ・セリンギが、真夜中に近づいても燃え続ける火を見つめていました。スライズはそれを、自分の神「沈みし者」の怒りだと信じました。人の町の嘘と腐敗に業を煮やした神が、もう供物を待たずにクヴァッチを打ち倒したのだ、と考えたのです。
父がしてきたように供物を届けようと、スライズは近くの洞窟へ下りていき、そこで命を落としました。[42]
“わたしは倒れた。あのお方に間に合わない。わたしのせいで、人は滅びる。……クヴァッチは、あのお方のまことの力の、ほんのひとかけらにすぎなかった。望みはすべて絶えた。沈みし者が目覚め、まもなく人はその飢えを思い知るだろう”
スライズ・セリンギ著『スライズの日記』 より[43]
(I have failed. I will not reach Him in time. Because of me, man is doomed. … Kvatch was but a small amount of his true potential. All hope is lost. The Sunken One wakens and soon, man will feel His hunger.)
亡骸のそばに現れる沈みし者の正体は、洞窟に棲む一体の霊でした。スライズが神と信じて供物を届けようとした相手は、町を焼いた火とは何のかかわりもなかったのです。
同じ夜の火を、ジョフリーは皇子を狙った火と読み、一人の農夫は自分の神の怒りと読みました。町を焼いた火の本当の狙いを知らないまま、スライズはその読み違いに命を払ったのです。
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クヴァッチが燃えた日
第三紀433年、クヴァッチはオブリビオンの門に焼かれた最初の町になりました。帝国でも指折りの安全な町と呼ばれた竜の神の町は一夜で落ち、伯爵の家も絶えています。それでも丘の上のアカトシュ聖堂は倒れず、その中で、竜の血を引く最後の一人が夜を越えました。司祭は町を離れ、雲の上の砦でドラゴンボーンと呼ばれます。けれどドラゴンファイアを灯すための王者のアミュレットは、敵の手に渡りました。
次の章では、帝都に残ったブレイズのボーラスとともに、アミュレットを奪った教団を追います。皇帝を討った赤い衣の者たちは、何を信じていたのでしょうか?
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参考文献
物語と解説で引いた書物・台詞と、出来事の記録は、英語圏の TES 事典 UESP で読めます。訳はすべて当サイトによるものです。本文の[番号:行]は、下の出典の番号と、その出典の中で引いた行を指しています。
- UESP「Amulet of Kings」(王者のアミュレット) 行2
- 避難民ハーテルの台詞(UESP「Hirtel」) 行26,33
- UESP「Cathedral of Akatosh」(ESO のアカトシュの大聖堂)
- アスティニア・イサウリクス『ゴールドコーストガイド パート2』(Gold Coast Guide, Part Two。ESO の本) 行6,9
- UESP「Akatosh Chantry」(アカトシュの教会) 行7
- シンジン『正当なるリスラヴ』(Rislav the Righteous。Oblivion の本) 行27
- クヴァッチ城の読み込み画面(ESO。UESP「Castle Kvatch」) 行8
- UESP「Order of the Hour」(時の騎士団)
- UESP「Kvatch」(クヴァッチの歴史) 行11
- ジェロス・アルブリー『避難民たち』(The Refugees。Oblivion の本) 行35
- Oblivion の読み込み画面(UESP「Loading Screens」) 行309
- UESP「Ormellius Goldwine」(使われなかった台詞の注つき) 行47,48
- UESP「Oblivion Gates」(オブリビオンの門) 行3,29
- ジョフリーの台詞(UESP「Jauffre」) 行70,114,328
- 「ウェイノン修道院」(Weynon Priory。Oblivion のクエスト)
- サヴリアン・マティウスの台詞(UESP「Savlian Matius」) 行51,71
- UESP「Kvatch」(Oblivion の町) 行36,37
- r/teslore「Why was Kvatch targeted first anyway?」(2025 年)
- 記録映画『The Elder Scrolls IV: Oblivion – An Oral History from the Game Developers』(2026 年。マーク・ネルソンの言葉)
- エミール・パリアルーロの投稿の写し(UESP「Emil Pagliarulo’s Posts」。2023 年 8 月 30 日の投稿)
- Game Informer「Decrypting the Elder Scrolls」(2010 年。カート・クールマンの言葉)
- Oblivion のファン向けインタビュー 第4回(UESP「Oblivion Fan Interview IV」。2007 年。トッド・ハワードの答え) 行47
- 避難民ボルドンの台詞(UESP「Boldon」) 行27
- 地下室にいたボズマーの台詞(UESP「Athrelor」) 行25
- 避難民の鍛冶バトゥルの台詞(UESP「Batul gra-Sharob」) 行30
- 魔術師ギルドの錬金術師の台詞(UESP「Sigrid」) 行26
- 衛兵ティエラの台詞(UESP「Tierra」) 行38
- 衛兵ベリック・イニアンの台詞(UESP「Berich Inian」) 行56
- イラヴ・ドラルゴナーの台詞(UESP「Ilav Dralgoner」) 行34,37,40,50
- ジウブの台詞(Skyrim の追加コンテンツ ドーンガード。UESP「Jiub」) 行37,78,80
- マーティンの台詞(UESP「Martin」) 行64
- 『竜神の崇拝』(Worship of the Dragon God。ESO の本) 行5,6
- ミダラ・サルヴィティカス『大司教:栄光へ』(The Primate: Rise to Glory。ESO の本) 行4
- 『言葉と哲学』(Words and Philosophy。Morrowind・Oblivion の本) 行22,23
- r/teslore「When was Calaxes Septim Murdered?」(2020 年)
- 町の噂(UESP「Rumors」) 行7,8,10,37,39
- UESP「Cloud Ruler Temple」(曇王の神殿)
- ボーラスの台詞(UESP「Baurus」) 行27
- UESP「Varen Aquilarios」
- 説教師エクソードー・ヴァシディアス『時の騎士団』(Order of the Hour。ESO の本) 行5
- 時の騎士団のクエスト(A Wound In Time。Oblivion Remastered デラックス版)
- 「沈みし者」(The Sunken One。Oblivion のクエスト)
- 『スライズの日記』(Slythe’s Journal。Oblivion)
物語の場面は、次のクエストと台詞からつないでいます。
- 「世継ぎを探せ」(Find the Heir。Oblivion のクエスト)
- 「クヴァッチの包囲を破れ」(Breaking the Siege of Kvatch。Oblivion のクエスト)
- 「クヴァッチ城の戦い」(The Battle for Castle Kvatch。Oblivion のクエスト)























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