ムアイクは、The Elder Scrolls(TES)シリーズのいくつもの作品に出てくるカジート(猫の姿をした種族)です。
- 英語の名は M’aiq the Liar(嘘つきのムアイク)で、日本語版の名は「ホラ吹きのムアイク」です(Oblivion などでは「ほら吹き」とひらがなでも書かれます)。
- Morrowind・Oblivion・Skyrim・The Elder Scrolls Online(ESO)に出てきます。道ばたや海の小島にふいに現れて、二つ三つ話すと去っていきます。
- 話の多くは、ゲームそのものについての冗談です。前の作品にあった機能や、掲示板でプレイヤーがほしがった物を話題にします。
- 名前の元は、開発チームで「嘘つきマイク」と呼ばれたプログラマーです。
- 作中では九百年以上にわたって同じ名で現れます。一人なのか一族なのかは、決まっていません。
Skyrim で街道を歩いていると、フードをかぶったカジートが近づいてきて、こう話しかけてくることがあります。
“ムアイクは多くを知り、少しを語る。ムアイクは、ほかの者の知らないことをたくさん知っている”
ムアイクの台詞(Skyrim)より
(M’aiq knows much, and tells some. M’aiq knows many things others do not.)
あとは雪の話や髭の話を二つ三つして、「ムアイクはもう疲れた。ほかの誰かに構ってもらえ」と言うと、それきり口をききません。クエストもくれず、物も売らず、戦いもしないカジートです。それでも、シリーズを遊んだ多くの人がこの猫を覚えています。
2025 年に DMM 版の ESO が開いた人気投票では、物語の中心にいる仲間や神々を抑えて 3 位に入りました。寄せられた声には「出会えるとなんだか嬉しい」「神出鬼没の憎めないやつ」と並んで、「正直だから」という一言までありました。
嘘つきと呼ばれるカジートが、なぜ「正直」なのでしょうか? そもそもムアイクとは、何者なのでしょうか? 答えの半分は、四つの作品の台詞を全部並べると分かります。この猫のホラ話は、作中の住人の耳にはでたらめでも、画面のこちら側のプレイヤーの耳には、たいてい本当のことなのです。そして、九百年を越えて同じ名で現れる理由にも、タムリエル(TES の舞台になる大陸)の書物の中に、手がかりが残されています。
第一章:四つの時代のムアイク ──どこで何をしているか
ムアイクが出てくる作品と、作中の年を並べると次のようになります。発売の順に並べたので、作中の年は前後します。
| 作品(発売年) | 作中の年 | 会える場所 |
|---|---|---|
| Morrowind(2002) | 第三紀 427 年 | ヴァーデンフェル北の小島 |
| Oblivion(2006) | 第三紀 433 年 | アンヴィル〜レヤウィンの街道 |
| Skyrim(2011) | 第四紀 201 年 | スカイリムの街道や荒れ地 |
| ESO(2014) | 第二紀 582 年 | タムリエルのほぼ全土 |
| Castles(2024) | なし | スマホのゲームの店 |
作中の年でいちばん古いのは ESO の第二紀 582 年、いちばん新しいのは Skyrim の第四紀 201 年です。そのあいだは、およそ九百五十年あります。ふつうのカジートが生きられる長さではありません。
Morrowind のムアイクは水の上を走って逃げる
Morrowind のムアイクは、ヴァーデンフェル島の北、シェオゴラド地方の港町ダゴン・フェルの南東に浮かぶ小さな島にいます。クエストで行く場所ではないので、泳いで島々を巡った人か、噂を聞いて探しに行った人しか会えません。名前の綴りもこの作品だけ A が大文字の M’Aiq で、服もローブではありません。コロヴィアの毛皮の兜(Colovian Fur Helm)に上等なシャツと派手なズボンという、ちぐはぐな格好をしています。
体つきも、のちの作品とは違います。Morrowind のカジートはみな、かかとが浮いて足先で立つ獣の脚を持つスーセイ=ラートで、ムアイクもその一人です。そして、ほかの誰も持っていない固有の能力「ムアイクの水上歩行」(M’aiq’s Water Walking)を持っています。追いかけられると、海の上を走って逃げていきます。

話しかけると、まずこう名乗ります。
“ごきげんよう! ムアイクは多くのことを知っている。何に興味がある? 知識を求めているんだろう。ムアイクはたくさん持っている。そのいくらかは、本当の事実で確かめられているぞ!”
ムアイクの台詞(Morrowind)より
(Greetings! M’Aiq knows many things. What is your interest? You seek knowledge. M’Aiq has much. Some of it verified by actual facts!)
「いくらかは事実で確かめられている」、つまり残りは確かめられていない、と自分で言っています。話題は十三あります。リッチ(不死の魔術師)になる方法、竜の居場所、ドゥーマー(消えたドワーフ)の謎、馬、裸の人の島、ウェアシャーク(鮫の獣人)などを、一つずつ聞けます。たとえば竜については、こう答えます。
“竜? ああ、そこらじゅうにいるさ! もっとも、たいていのは、ずっと高く飛ばないと見えない。地面の近くにいる奴はとても見づらい。見えないからな”
ムアイクの台詞(Morrowind)より
(Dragons? Oh, they’re everywhere! You must fly very high to see most of them, though. The ones nearer the ground are very hard to see, being invisible.)
Morrowind に竜は一匹も出てきません。ムアイクは「いないもの」を、いることにして案内しているわけです。この話の中身は第二章でくわしく見ます。
Oblivion のムアイクは正午になるとはさみ尺を探しに道を外れる
Oblivion のムアイクは、西の港町アンヴィルの外から歩き始め、南東の町レヤウィンとのあいだの街道を行ったり来たりしています。足の速さを決める能力値の「速度」とスキルの「運動」がどちらも 100 で、プレイヤーより段違いに速く走ります。話しかけると噂話を一つだけ聞かせ、すぐに走り去ってしまいます。
そして正午になると、どこにいても道を外れ、およそ五時間、はさみ尺(Calipers。いまで言うノギスだが、モデルはプライヤーに近い)を探して歩き回ります。はさみ尺を 20 本集め終えると探すのをやめます。足もとにはさみ尺を落としておくと、全速力で拾いに来ます。

なぜ、はさみ尺なのでしょうか? ゲームディレクターのトッド・ハワードは、2006 年 8 月のゲーム雑誌『PC Zone』の取材でこう話しています。TES の作品には、なぜか作り手がそこらじゅうに置いてしまう使い道のない小物が一つずつあり、Morrowind では枕、Oblivion でははさみ尺がそれだった。宝箱を開けるとはさみ尺が出てきて、何に使うのかと首をかしげ、やがて使い道がないと気づく。そういう物をからかうために、このキャラクターを置いたのだそうです。
はさみ尺の冗談には、続きがあります。リードデザイナーだったケン・ロルストンは、2025 年の開発者の聞き取り動画でも「Oblivion のはさみ尺は悪夢じゃない、立派な機能だ」と言い張っています。Skyrim が発表された直後には、開発者への公開の質問会がありました。「Skyrim にはさみ尺は出るのか?」と聞かれた UI プログラマーは、「全部さ。はさみ尺全部。山ほど。永遠に」と答えています。ところが出来上がった Skyrim に、はさみ尺は一本もありません。リフテンの宮廷魔術師ウィランドリアは「昔はタムリエルのどの家にもはさみ尺があったが、いまはない」と言い、Skyrim のムアイクは、こうこぼします。
“ムアイクはいつもはさみ尺を探しているが、一つも見つからない。どこへ行ってしまったのだろう?”
ムアイクの台詞(Skyrim)より
(M’aiq is always in search of calipers, yet finds none. Where could they have gone?)
ムアイクには、マップの端にある見えない壁を通り抜ける動きもあります。盗賊に襲われて逃げると、そのまま壁を越えて、Oblivion では行けない南の国エルスウェアへ走っていってしまうこともあります。格好は、ぼろぼろのローブと、めったに手に入らないぼろぼろのフード、油を塗った麻の靴に、身を守るための鉄の短剣が一本です。

Skyrim のムアイクは三つ話すと疲れたと言って黙る
Skyrim のムアイクには決まった居場所がありません。街のそばや荒れ地を歩いているとき、ごくまれに、向こうから歩いてきます。フード付きの僧兵のローブにブーツをはき、スクゥーマ(ムーンシュガー〈月砂糖〉から作る薬)を三本持ち歩いています。話しかけると一言ずつ話してくれますが、三つ話したあとは、こう言って黙ります。
“ムアイクはもう疲れた。ほかの誰かに構ってもらえ”
(M’aiq is tired now. Go bother somebody else.)“ムアイクの話はおしまいだ”
ムアイクの台詞(Skyrim)より
(M’aiq is done talking.)
Skyrim のムアイクは、この世界の決まりの外にいます。殺せない設定になっていて、攻撃しても賞金がかかりません。吸血鬼の症状が進んで誰からも襲われるようになっても敵にならず、目の前で人狼や吸血鬼の王に変身しても騒がずに話しかけてきます。透明になる魔法で姿を消していても、ムアイクだけはこちらが見えています。
世界に出ていないあいだ、ムアイクはプレイヤーの行けない石壁の小部屋にしまわれています。その部屋の名前は「Elsweyr」、カジートの故郷エルスウェアと同じ綴りです。Skyrim にいないときは、故郷に帰っているという冗談なのでしょう。英語の Elsweyr は「よそ」を意味する elsewhere と同じ音で読めます。

ESO のムアイクはタムリエル中を歩いて家にも来る
ESO のムアイクは、四つの中でいちばん古い第二紀 582 年にいます。最初の島々から同盟の地方、デイドラの王モラグ・バルの領域コールドハーバーまで、二十近い地方に出る場所があります。どこに出るかは毎回ちがい、出る確率も低くなっています。会うと三つ話して、「また今度な。もっと話そう」と言って打ち切ります。
コールドハーバーのどこに出るのかと聞かれたベセスダのサポートは、こう答えています。
“冒険者にとってのホラ吹きのムアイクの居場所は、本人にとっての真実と同じくらい、つかまえにくい”
ベセスダのサポートの回答(ESO)より
(M’aiq the Liar’s whereabouts to adventurers are as elusive as the truth is to him)
地方の中のいくつかの場所に、でたらめに現れ、しばらく誰にも見つけてもらえないと、別の場所へ移ってしまうのだそうです。
すべての地方でムアイクと話すと、実績「I Like M’aiq」がもらえ、ほうびは「嘘つきの麻布」(Liar’s Linen)という灰色の染料です。2021 年からは、プレイヤーの家に招ける客(ハウスゲスト)としても売られています。家に来たムアイクには、外とは別の台詞があります。
この時代のムアイクは有名人で、ほかの人物も彼の話をします。仲間にできるアルトマー(ハイエルフ)のタンロリンは、自分のいた秘密の組織ガーランド・リングの話をするなかで、こう明かします。
“リングの仲間にヴァーベナってのがいて、嘘つきムアイクを見張る役目なの。理由は知らない。分かってるのは、彼女の自由に使える予算がものすごく多くて、ほとんどワインに消えてるってことだけ。猫にしゃべらせ続けるのに要るんだって”
タンロリンの台詞(ESO)より
(There’s a member of the Ring, Verbena, who is assigned to keep an eye on M’aiq the Liar. No idea why. All I know is that her discretionary budget is huge and it’s mostly spent on wine. Says it helps keep the cat talking.)
秘密の組織が、大金を使ってまでムアイクの話を聞き出そうとしていたのです。ホラ話しかしない猫に、なぜそこまでするのでしょうか? 少なくとも誰かは、この猫が本当に何かを知っていると考えていました。仲間にできるアルゴニアン(トカゲの姿の種族)の夜のごとく鋭き者は、ムアイクに会うとこう笑い、プレイヤーへの好感が少し上がります。
“へへへ。こいつ大好きなんだよ。からかわれてるって、はっきり分かる相手がいるのは、なんだかほっとするもんさ”
夜のごとく鋭き者の台詞(ESO)より
(Hehehe. I love this guy. There’s something comforting about knowing exactly when someone’s pulling your tail.)
ESO が十周年を迎えたときに描かれた記念の絵にも、ムアイクはこの時代の英雄たちと一緒に、カードゲームで対戦する姿で描かれています。そして 2019 年の拡張でカジートの国エルスウェアの北部が遊べるようになると、そこにもムアイクが現れるようになりました。エルスウェアでムアイクがおもに現れるのは、北の地方アネクイナです。

スマホのゲームでは英雄たちの手柄を名乗った
2024 年のスマホのゲーム Castles では、ムアイクは店にときどき並ぶ「伝説の住人」です。添えられた紹介文は、こうです。
“その英雄ぶりでタムリエルに名高い。嘘つきムアイクの手柄には、ダゴス・ウルを討ち、オブリビオンの動乱を収め、スカイリムの戦争を終わらせたことが含まれる。たぶん”
ムアイクの紹介文(Castles)より
(Renowned across Tamriel for his heroism, M’aiq the Liar’s feats include slaying Dagoth Ur, solving the Oblivion crisis, and ending the war in Skyrim. Maybe.)
ダゴス・ウルは Morrowind の、オブリビオンの動乱は Oblivion の、スカイリムの内戦は Skyrim の大きな事件です。どれも、その作品の主人公、つまりプレイヤーが成し遂げたことです。最後の「たぶん」(Maybe)で、全部を冗談にしています。住人としての性格には、「道化」(Jester)や「ずる賢い」(Devious)と並んで「不屈」(Enduring)が付いています。
カードゲーム Legends のデータには、ムアイクのカードが場に出るときと攻撃するときの声が残っています。けれど発売されたカードにムアイクはいません。ムアイクのカードはないのかと聞かれた、当時ベセスダの広報を率いていたピート・ハインズは、2016 年に Reddit でこう答えました。
“本人に聞いたら、ゲームに入ってるって言ってたよ。嘘だったみたいだね”
ピート・ハインズの Reddit への書き込み(2016 年)より
(When I asked him he said he was in the game. I guess he was lying.)
2025 年の Oblivion Remastered(リマスター版)でも、ムアイクは同じ街道を走っています。リマスター版のために台詞は新しく録り直されていたのに、新しい声を使う設定にムアイクが入っていなかったため、ゲームでは古い声のまま流れていました。前の作品から消えた機能を冗談にしてきた猫が、自分の新しい声を消されていたのです。これに気づいた MOD の作者は、開発の見落としだろうと書き、直すための MOD を出しています。入れると、Skyrim と同じ声優の声で話します。
作品ごとに姿も居場所も違いますが、どのムアイクも、二本の足で歩くカジートで、袖の長い服を着ていて、足が速く、めったに会えません。そして、話すことはいつも、ゲームの外のことでした。
第二章:ムアイクは何の話をしているのか ──開発室と掲示板
ムアイクのホラ話は、でたらめに並んでいるわけではありません。話題の多くは、その作品を作っていたころに、プレイヤーが公式の掲示板でほしがった物や、文句を言った物です。作り手とプレイヤーのつながりは、この猫の名前から始まっていました。
名前は嘘つきと呼ばれたプログラマーから
ムアイクの名前は、Morrowind を作っていたプログラマー、マイク・リパリ(Mike Lipari)から来ています。トッド・ハワードは 2006 年の『PC Zone』の取材で、リパリをチームでいちばん人がよく、いちばんよく働く男の一人だと言っています。ところが、いくつか嘘をついたのがばれて、みんなで「嘘つきマイク」と呼ぶようになったのだそうです。英語では Mike the Liar、ムアイクの英語の名 M’aiq the Liar とそっくりです。M’aiq は、そのマイクをカジートの名前らしく綴ったものです。発音は「ム・アイク」で、真ん中で息を一度止めます。ESO の開発でロアを率いたローレンス・シックが、2015 年の配信でそう説明しています。
どんな嘘だったのかは、この取材にはありません。ただ、Morrowind のデザイナー、マーク・ネルソンが、2025 年の開発者の聞き取り動画で、リパリが Bethesda に入ったいきさつをこう話しています。
“面接で『C++ はできるか』と聞かれて、彼は『はい』と答えた。できなかったんだ”
(“do you know C++?” He was like, “Yes.” He didn’t.)“それでその週末のうちに、C++ を独学して作り上げた”
マーク・ネルソンの言葉(『The Elder Scrolls III: Morrowind – An Oral History from the Game Developers』、2025 年)より
(So over that weekend, he taught himself C++ or whatever language it was on that program. Um, and made it)
試験として作れと言われたのは、地面の高さを上げ下げする道具でした。リパリは月曜にそれを持っていって採用され、Morrowind の制作ツールの地形の部分を受け持ちます。リパリの嘘は、週末のうちに本当になったのです。同じ動画でケン・ロルストンは、Morrowind ができたのはリパリがエディターを作ったからだ、とまで話しています。
ESO で家に招いたムアイクは、まるでこの話を知っているかのように、こう言います。
“話を盛るときは気をつけろ。証明を求められるかもしれないからな。そうなれば、発明が必要の母になる”
ムアイクの台詞(ESO)より
(Be careful when you embellish your tales. You might be required to prove your claims. Then invention becomes the matron of necessity.)
「必要は発明の母」をひっくり返した冗談です。盛った話の証明を求められたら、作り話を本当にするしかありません。リパリが週末にしたのは、まさにそれでした。
リパリ本人も、このあだ名を気に入っていたようです。2001 年 4 月に Morrowind の開発チームがファンと話したチャットに、リパリは「blatantLiar」(まっかな嘘つき)という名前で入っています。自己紹介の場面は、こうです。
“マイク・リパリ。バグを生む者にして、退治する者。”
(Mike Lipari. Creator and destroyer of bugs.)“……しかも、とても上手な嘘つきだ”
Morrowind 開発チームのチャット(2001 年 4 月)より
(… and a very good liar)
二行目の茶々を入れたのは、同じチームのデザイナー、ダグ・グッドールです。ムアイクが生まれる前から、チームの中には「とても上手な嘘つき」がいたのです。
ムアイクの台詞を書いたのは、リパリではありません。Morrowind と Oblivion のムアイクの台詞と、Oblivion で街道を走り回る動きを作ったのは、デザイナーのマーク・ネルソンで、本人が 2025 年の配信でそう話しています。ネルソンを Bethesda に呼んだのは、ほかならぬリパリでした。2001 年の開発日記に、ネルソンはこう書いています。
“そこへ、腕利きのプログラマー、マイク・リパリから電話が来た。Bethesda がデザイナーを探しているという。僕は、これまでで最高の創作、つまり履歴書に磨きをかけて送った”
マーク・ネルソンの開発日記(2001 年 9 月)より
(Then, I got a phone call from Mike Lipari, Programmer Extraordinaire, saying Bethesda needed some designers. I fine-tuned the single best piece of creative writing I’ve ever done–my résumé–and sent it off.)
嘘つきマイクに呼ばれ、いちばんの作り話は履歴書だと笑った男が、ムアイクのホラ話を書いたのです。Skyrim のムアイクは、ライターのシェーン・リーゼガングが「かなりの部分を書いた」と 2017 年に Twitter(いまの X)で振り返っています。なぜ壁を越えてプレイヤーに話しかけるキャラクターを置いたのかについて、トッド・ハワードは先の取材で、こう答えています。
“ときどきカメラに向かってウインクして、ちょっと遊ぶのが好きなんだ”
トッド・ハワードの言葉(『PC Zone』2006 年 8 月号)より
(We love to wink at the camera sometimes and have a little fun.)
Morrowind の台詞は無い物の案内だった
Morrowind が出たのは 2002 年です。作っていた 2001 年ごろ、公式の掲示板には、前の作品 Daggerfall にあった機能や、新しく入れてほしい物の要望が毎日のように書き込まれていました。開発チームのアーティスト、ギャリー・ヌーナンは、その年の 7 月の日記にこう書いています。
“裸とマルチプレイヤーのスレッド(つまり、Morrowind にそれを入れてほしい人たち)が、また Morrowind の掲示板に戻ってきている。ため息をついて、うなって、続きを読む”
ギャリー・ヌーナンの日記(2001 年 7 月 9 日)より
(The nudity and multiplayer threads (ie, people who want them in Morrowind) are back on the Morrowind Forums. I sigh and grunt, then read on.)
ムアイクの十三の話題は、ほとんどがこういう要望への答えです。答え方には決まった型があります。親切な案内人のふりをして、ありもしない物の作り方や場所を、大まじめに教えるのです。教わったとおりにやろうとすると、その物がゲームに無いことに気づきます。十三の話題は、中身で四つに分かれます。
ほしがられた機能には作れない作り方で答える
いちばん多いのは、プレイヤーがほしがったのに入らなかった機能の話です。たとえばリッチになる方法を聞くと、こう教えてくれます。
“リッチになりたい? 簡単だよ、友よ。リッチの心臓を見つけて、竜の舌と合わせ、よく乗りこなされた馬の肉と一緒に煮込めばいい。この組み合わせなら、間違いなく不死の身になれる”
ムアイクの台詞(Morrowind)より
(You wish to become a lich? It’s very easy, my friend. Simply find the heart of a lich, combine it with the tongue of a dragon, and cook it with the flesh of a well-ridden horse. This combination is certain to make you undead.)
材料は三つとも、Morrowind では手に入りません。発売のときのゲームにはリッチが出てきませんし(のちの追加コンテンツで出ますが、心臓は取れません)、竜もいなければ、馬もいません。作れない料理の作り方を教えることで、「プレイヤーがリッチになる機能は無い」と言っているのです。ほかの話題も、同じ形をしています。
- 馬:Daggerfall では馬に乗れましたが、Morrowind には乗れる馬が一頭もいません。ムアイクは「馬は大好きだ! 特にうまいクリームソースがかかってるのがな」と言います。乗り物がほしいならシルト・ストライダー(巨大な虫の背に乗る乗合)の港へ行け、自分用がほしいなら歩け、と突き放します
- マルチプレイヤー:ほかの人と一緒に遊びたい人には「臆病者め!」と言い、アルゴニアンのイム・リートか、でかいノルドのロルフ・ジ・ウーバーを探せ、と教えます。どちらもゲームにいない人物です
- 裸:裸を入れてほしいという声は、ヌーナンの日記のとおり、マルチプレイヤーと並ぶ、いつもの要望でした。ムアイクは「ダンマーは堅物だろう?」と言ったうえで、裸の人々の島の場所を教えます。ただし島が現れるのは「月が満ちて、雨が降って、海が赤く染まって、しかもムアイクの誕生日のとき」だけです
- よじ登り:Daggerfall には壁をよじ登るスキルがありましたが、Morrowind で消えました。ムアイクは「垂れた縄をよじ登るのは難しすぎる。ムアイクは横に張った縄を登るほうが好きだ」と言います。横に張った縄は、登るものではなく、渡るものです
- ウェアシャーク:Daggerfall では人狼や猪の獣人になれましたが、発売のときの Morrowind には獣人がいません。Daggerfall の書物『ライカンスロープについて』は、海をうろつく鮫の獣人がいると書いていました。ムアイクは「一匹だけ会ったことがあるが、そいつは水を怖がっていた」と言います。水を怖がる鮫です
馬のクリームソースには、元になった話があります。2001 年 4 月、公式の掲示板で Morrowind に馬はいるのかと聞かれたヌーナンは、帝国は馬を使うのをやめた、と答え、理由を二つ挙げました。灰まじりの空気で草が悪くなり、食べた馬が死んでしまうこと、そしてもう一つがこれです。
“ダークエルフは、馬をすばらしいごちそうだと思っている。帝国の衛兵だって、家を出たら、ダークエルフの一家が自分の馬でピクニックをしているのは見たくないだろう”
ギャリー・ヌーナンの公式掲示板への書き込み(2001 年 4 月)より
(Dark Elves find horses to be a great dish. The Alpo Bistro! No Imperial guard wants to walk outside his house and see a Dark Elven family picnicking on his steed.)
開発者が掲示板で言った冗談を、ムアイクがゲームの中で言い直しているのです。よじ登りについても、リードデザイナーのケン・ロルストンが、先の 2001 年 4 月のチャットのあとでこう書いています。
“壁をよじ登るのはなし。いやあ、あれはばかげていた”
リードデザイナー、ケン・ロルストンのチャットの書き込み(2001 年 4 月)より
(No spider climbing. Boy, was THAT silly.)
掲示板やチャットで開発者が「入らない」と答えた物を、ムアイクは「ここにあるよ」という顔で案内してみせます。答えを知っている人が読めば、冗談として通じるわけです。
いないはずの生き物はいることにする
二つ目は、ゲームにいない生き物の話です。竜については、第一章で見たとおり「そこらじゅうにいるが、見えない」と答えます。竜はファンがいちばん見たがっていた物の一つでした。ヌーナンも掲示板で「またこの話か」と前置きしてから、冗談で答えています。竜はクリフ・レーサー(ヴァーデンフェルの空を飛び回るうるさい生き物)に追い出されて、島を去ったのだそうです。
“ムアイクは海でそいつらをたくさん見る。おまえも、遠くまで泳げば一匹は見られるさ”
ムアイクの台詞(Morrowind)より
(M’Aiq sees lots of them in the ocean. M’Aiq knows you’ll see one too if you swim far enough.)
これは皇帝ガニ(Emperor Crab)の話です。Morrowind の皇帝ガニは、はるか昔に死んだ一匹しかいません。その巨大な殻をくりぬいて作ったのが、町アルド・ルーンの貴族の住む区画スカーです。町になった死骸しかいない生き物を、海に行けば会えると案内しているのです。
作中の謎と噂にはとぼけて答える
三つ目は、ゲームの中の謎や噂への答えです。Morrowind のいちばん大きな謎は、高い技術を持ちながら一夜で消えたドワーフ、ドゥーマーの行方です。ムアイクは、その謎をこう片づけます。
“謎などない。ムアイクは全部知っている。ドワーフはここにいて、いまはいない! とても背の低い連中だった……いや、そうでもなかったかもな。見方しだいさ。本人たちは、自分のことをちょうどいい背の高さだと思っていたはずだ”
ムアイクの台詞(Morrowind)より
(There is no mystery. M’Aiq knows all. The dwarves were here, and now they are not! They were very short folks… Or perhaps they were not. It all depends on your perspective. I’m sure they thought they were about the right height.)
ゲーム全体をかけて追いかける謎を「いて、いなくなった」の一言で済ませています。しかも、言っていることは本当です。ドゥーマーの背丈は人間とさほど変わらず、言い伝えでは、「ドワーフ」は巨人たちが小さな友として親しみをこめて付けた呼び名です。
噂の話もあります。Morrowind には、アズラの海岸の小島に、人の言葉を話して商売をするマッドクラブ(大きなカニ)が隠れています。プレイヤーのあいだで噂になった隠し要素です。ムアイクに聞くと「聞いたことがある。あいつらは金を全部持っている。マッドクラブが何もかも乗っ取りつつある。ペラギアドの町はもう仕切っている」と言います。しゃべるカニの商人は本当にいて、持ち込んだ物を値切らずに買ってくれる、珍しい商人です。けれどペラギアドを仕切ってはいません。本当の噂を、大きくふくらませているのです。
残りの二つは「動く死体」と「裸のリッチ」です。動く死体については「動く死体? ムアイクには恐ろしく聞こえる。不死の者をもてあそぶものではない」と怖がります。ESO では、十七年後のエルスウェアで「考え直してみても、ムアイクはやっぱり動く死体が恐ろしい」と言い直しています。裸のリッチは、リッチになりたい人と裸を見たい人の要望を足した冗談でしょう。ムアイクは「見かけたら教えてくれ。ムアイクは反対のほうを向いていたいから」と答えています。
ただ一つだけ本当の案内がある
最後の一つ、ボエシアの祠の場所だけは、本当に役に立つ案内です。これは第三章でくわしく見ます。つまり Morrowind のムアイクは、プレイヤーが「あれは入るのか?」と気にしていた物を、一つずつ大まじめに案内して、無いことを教える係でした。
Oblivion では文句を言う人への言い返しになった
Oblivion が出たのは 2006 年です。発売の前に、開発者が公式の掲示板で「これは入らない」と答えるたびに、掲示板は荒れました。ムアイクは話題を選んで聞くことができず、会うたびに「噂話」を一つだけ聞かせてくれます。噂は全部で十八あり、その多くが、掲示板で文句が出た物への言い返しです。先の『PC Zone』の記事も、ムアイクは「戻ってきたけれど、今度はそんなに嘘をつかない」と書いています。噂は中身で四つに分かれます。
前の作品から消えた物をほしがる人には言い返す
Oblivion では、Morrowind にあった物がいくつも消えました。ムアイクは、それを惜しむ人を笑います。たとえば、開発者がクロスボウも投げ武器も入らないと答えたときは、掲示板が大荒れになりました。
“装填に時間がかかる特別な弓と、ボルトとかいう特別な矢をほしがる者がいる。ムアイクに言わせれば、そいつらは大馬鹿だ”
ムアイクの台詞(Oblivion)より
(Some people want special bows that take too long to load and need special arrows called bolts. M’aiq thinks they are idiots.)
- 投げ武器:Morrowind には投げナイフや手裏剣がありましたが、消えました。ムアイクは「武器を投げたがる者がいる。ばかげている。手に持っていれば、一本で足りる」
- 浮遊の魔法:Morrowind では空を飛べましたが、Oblivion では消えました。町を壁の外と別の場所として読み込むようになり、壁を飛び越えられると困るからです。ムアイクは「浮遊なんて馬鹿のすることだ。高く上がったら、あとは下りるしかない」
- 杖で叩く:Morrowind の杖は打撃の武器でしたが、Oblivion では魔法を放つ道具になりました。ムアイクは「杖を振り回して何になる? メイスのほうが痛い。剣でもいい。剣から火の玉は出せないがな」
- 移動の手段:Morrowind には虫の乗合や船、魔術師の転送がありましたが、Oblivion では一度行った所へすぐ飛べるファストトラベルに変わりました。ムアイクは「近ごろはずっと楽になった。昔は歩きすぎだった。もちろん、ムアイクは歩きたいときは歩く」
- 人狼:人狼は Morrowind の拡張 Bloodmoon で入りましたが、Oblivion では消えました。ムアイクは「人狼? どこに? 狼ならそこらじゅうにいる。人間もそこらじゅうにいる。ムアイクはそれで十分だ」
入らなかった要望にも言い返す
新しく入れてほしいと頼まれて、入らなかった物もあります。馬の上で戦えないと分かったときには、考え直してほしいという署名が 500 人以上集まりました。ムアイクの答えは、Morrowind の自分のクリームソースの話を受けています。
“馬の上で戦いたいとは思わない。せっかくのいい馬が台無しになる……つまり、せっかくのいい晩ごはんがな”
ムアイクの台詞(Oblivion)より
(I do not wish to fight on horseback. It is a good way to ruin a perfectly good horse… which is, to say, a perfectly good dinner.)
- 子ども:子どもを入れるべきかで、掲示板は割れました。いたほうが本物らしいと言う人と、入れたら殺せてしまうと言う人がいたのです。ムアイクは「子どもは未来だ。でも、楽しみを台無しにされたくはない」
- 仲間との冒険:一緒に遊べる機能や、連れて歩ける仲間を求める声には「ムアイクは一人の冒険が好きだ。ほかの奴は邪魔なだけだ。しかも、しゃべってばかりいる」
- 裸:Morrowind に続いて、裸を入れるかの論争もありました。ムアイクは「みんなが服を着ていてよかった。ムアイクの裸を見たい奴がいるか? 悪趣味だ。悲しくなる」
- 壊せる建物:建物は壊せません。ムアイクは「建物を壊したがる理由が分からない。作るのに時間がかかるんだ。とても長い時間が」。作る側の本音にも聞こえます
- 竜:竜は、Morrowind に続いて Oblivion にも出てきません。ムアイクは「見たことがある。どこでかは言わない。見ていないかもしれない」
- 蹴り:蹴りは、前の作品にもなかった動きです。ムアイクは「足は歩くため。手は殴るため。それか握手か、手を振るため。たまに拍手のため」
文句を言う人を「馬鹿」や「悪趣味」と呼んで、ゲームの側に立っているのです。Morrowind のムアイクが無い物を案内する係だったとすれば、Oblivion のムアイクは、作り手の弁護人です。
新しくなった所は自慢する
- コンパス:Oblivion で初めて、クエストの目的地を画面のコンパスが指すようになりました。ムアイクは「コンパスがあってよかった。間抜けみたいにうろつくよりずっといい」
- 獣の種族の見た目:カジートやアルゴニアンは Morrowind のほうがよかったと言う人がいました。ムアイクは「ムアイクは自分の種族を美しいと思う。アルゴニアンも美しい。前よりずっと見栄えがよくなった」
掲示板の内輪ネタと前の作品の思い出
掲示板に通っていた人だけが分かる冗談もあります。当時の公式掲示板には、新しく来た人に「魚の棒」(Fishy Stick)の絵を贈って歓迎する習わしがありました。
“ムアイクは、魚でできた棒をおまえにあげたいと思っている。残念ながら、持っていない”
ムアイクの台詞(Oblivion)より
(M’aiq wishes he had a stick made out of fishies to give to you. Sadly, he does not.)
「みんないい寓話(fable)が好きだ。ムアイクはまだ見つけていない」という噂もあります。発売前に Oblivion とよく比べられ、期待ほどではなかったと評された別の会社のゲーム『Fable』へのあてこすりです。そして、Morrowind で自分がかぶっていた兜のことも覚えています。
“ムアイクはコロヴィアの毛皮の兜がほしくてたまらない。実用的なのにおしゃれだ。持っていないのが、ムアイクはとても悲しい”
ムアイクの台詞(Oblivion)より
(M’aiq longs for a Colovian Fur Helm. Practical, yet stylish. M’aiq is very sad he does not have one.)
コロヴィアの毛皮の兜は、Morrowind で多くのプレイヤーが最初に拾う防具でした。ところが、コロヴィア地方そのものが舞台の Oblivion には、なぜか入っていません。前の作品の自分の服を覚えているのなら、このムアイクは Morrowind のムアイクと同じ人物なのかもしれません。このことは第四章でもう一度考えます。
Skyrim は前の作品との違いを話す
Skyrim が出たのは 2011 年です。Oblivion から、遊び方が大きく変わりました。能力値とクラスがなくなってスキルの特典(パーク)に変わり、両手に別々の武器や魔法を持てるようになり、武器や防具は壊れなくなりました。竜が帰ってきて、竜の言葉で叫ぶシャウトが入りました。Skyrim のムアイクの三十六の台詞は、その変わった所を、一つずつ話題にしています。Oblivion を遊んだ人なら、どれも「ああ、あれか」と分かる話です。中身で四つに分かれます。
変わった遊び方を言い直す
いちばん多いのは、システムが変わった所の話です。武器が壊れなくなったことは、両手に武器を持てるようになった話と一緒にからかいます。
“ムアイクは念のために武器を二つ持ち歩いている。片方が壊れたらどうする? それはとても運が悪いことだ”
ムアイクの台詞(Skyrim)より
(M’aiq carries two weapons, to be safe. What if one breaks? That would be most unlucky.)
Skyrim では武器が壊れないので、予備を持つ必要はありません。壊れる心配をしているふりをして、壊れなくなったことを言っているのです。
- 能力値:力や知力の数値がなくなりました。ムアイクは「どれだけ強いか賢いかは関係ない。大事なのは何ができるかだ」
- 神秘の系統:Oblivion にあった魔法の系統「神秘」がなくなり、呪文はほかの系統に移りました。ムアイクは「ムアイクはとても実際的だ。神秘など要らない」
- 呪文作り:前の作品では呪文を自分で組み合わせて作れましたが、Skyrim ではできません。発売前には、両手の呪文を合わせられるという噂もありました。ムアイクは「魔法を組み合わせるとは、どういう意味だ? 魔法に魔法を足しても、魔法だ」
- 二重詠唱:同じ呪文を両手で唱えると強くなります。ムアイクは「魔法は多すぎると危ない。ムアイクは一度、呪文を二つ使って、スイートロールを焦がした」。スイートロールは、ベセスダの作品に何度も出てくるおなじみの菓子パンです
戦い方の変化にも、一つずつ口をはさみます。
- 二刀流の受け:両手に武器を持つと、受けができません。ムアイクは「武器を二つ持ったら、受けようとするな。混乱するだけだ。二回叩くほうがずっといい」
- スキルの上げ方:スキルは、実際に使って当てたときに上がります。ムアイクは「兵士は、なんで的当ての練習なんかするんだ? 本物の人を叩くのがいちばん身につくのに」
- シャウト:竜の言葉で叫ぶシャウトは、Skyrim の目玉です。ムアイクは「叫ぶことの何がそんなにすごいのか分からない。ムアイクは叫びたいときに叫べる」
- 馬車:街から街へ馬車で移動できます。ムアイクは「ムアイクは陸を速く旅できる。怠け者は馬車に乗る。ムアイクにはどちらでもいい」
前の作品で不満だった所が直った
Oblivion は、人の顔がのっぺりしていることや、町の人の会話がいつも同じであることで、よく笑われました。Skyrim のムアイクは、直った所をとぼけて話題にします。
“スカイリムの人々はシロディールの人々より見た目がいいと聞いた。ムアイクには、それについての意見はない。ムアイクには、誰もが美しい”
ムアイクの台詞(Skyrim)より
(M’aiq has heard that the people of Skyrim are better looking than the ones in Cyrodiil. He has no opinion on the matter. All people are beautiful to him.)
- 町の人の会話:Oblivion では、誰もが「先日マッドクラブを見た。おぞましい生き物だ」という同じ雑談をしていました。ムアイクは、その一言をそのまま言ってみせます。そして「ムアイクはスカイリムの人々が好きだ。お互いに、面白いことをたくさん話している」とも言います
- 髭:Oblivion には、拡張に出てくる狂気の神シェオゴラスのほかに、髭のある人がほとんどいませんでした。ムアイクは「ノルドは髭にやたらとうるさい。髭だらけだ。カジートの立派なたてがみがうらやましいのだろう」
- カジートの姿:カジートとアルゴニアンの姿は、作品ごとに大きく作り直されています。ムアイクは「スカイリムに来ると、カジートにはおかしなことが起きる」
発売前の噂と入らなかった物
- 積もる雪:発売前には、雪が物の上に積もっていくと言われていましたが、実際は見た目が雪の模様に変わるだけです。ムアイクは「スカイリムは雪が多い。もう十分だ。これ以上は要らない」
- 蝶:Skyrim では蝶を捕まえて薬の材料にできます。開発の途中には、蝶が消えずに増え続けて、世界じゅうを埋めてしまう不具合があったという噂もあります。ムアイクは「スカイリムは昔、蝶がたくさんいる土地だった。いまはそれほどでもない」
- 戦争:Skyrim の内戦の戦いは、聞いていたより小さな規模です。ムアイクは「ムアイクは戦の話をたくさん聞く……だが、本当の話はわずかだ」
- 獣人:古い書物には、スカイリムにはウェアベア(熊の獣人)がいると書かれていました。ムアイクは「ウェアベア? どこに? 熊か? 熊になる人間か?」と言い、のちの拡張 Dragonborn で本当にウェアベアが出てきます
主人公の思い出と設定の書き換え
そして Skyrim のムアイクは、プレイヤーがしそうなことを、自分の思い出として話します。
“ムアイクは前にハイ・フロスガーまで歩いた。段があまりに多くて、数えきれなくなった”
(M’aiq once walked to High Hrothgar. So many steps, he lost count.)“前にムアイクはリフテンで面倒を起こして、ウィンドヘルムへ逃げた。あそこでは誰も気にしなかったのがよかった”
ムアイクの台詞(Skyrim)より
(Once M’aiq got in trouble in Riften, and fled to Windhelm. It is good that nobody there cared.)
ハイ・フロスガーは、ドラゴンボーンが七千段の石段を登って訪ねる山の上の修道院です。罪を犯しても別の地方へ逃げれば賞金がかからないのは、Skyrim の賞金が地方ごとに分かれているからです。どちらも、プレイヤーなら一度は経験することです。「おまえの友だちでいるのは危ないと聞いた」という台詞も、連れて歩く仲間がよく死ぬことへの冗談です。ほかにも、こんな思い出があります。
“ムアイクは一度、魂を縛られたことがある。あまり気持ちのいいものではない。おまえも、たまにはそのことを考えてみるといい”
(M’aiq was soul trapped once. Not very pleasant. You should think about that once in a while.)“ムアイクは子どものころのことを覚えていない。たぶん、子どものころがなかったのだろう”
ムアイクの台詞(Skyrim)より
(M’aiq does not remember his childhood. Perhaps he never had one.)
魂縛(ソウル・トラップ)は、倒した相手の魂を魂石に閉じ込めて、エンチャントの材料にする魔法です。プレイヤーが毎日のように使う魔法の、閉じ込められる側の話です。子どもの話は、それまでの作品に子どもが出てこず、Skyrim でもカジートの子どもはいないことへの目くばせです。
設定の書き換えにも触れます。Skyrim より前は、ノルドの言うアルドゥインは、竜の神アカトシュのノルドでの呼び名だとされていました。Skyrim は、二つを別の存在として描き直しました。ムアイクはそこにこう言います。
“アルドゥインはアカトシュだと言う者がいる。ムアイクは嘘つきだと言う者もいる。どっちも信じるな”
ムアイクの台詞(Skyrim)より
(Some say Alduin is Akatosh. Some say M’aiq is a Liar. Don’t you believe either of those things.)
つまり Skyrim のムアイクは、Oblivion を遊んだ人に向けて、何が変わったのかを一つずつ教える案内役でした。
ESO では一人がいいと言うのをやめた
ESO が出たのは 2014 年で、大勢のプレイヤーが同じ世界で遊ぶオンラインゲームです。ムアイクは二十近い地方に出てきて、会うと三つ話します。一つ目と二つ目はその地方の話、三つ目はその同盟の地方に共通の話で、外で話す台詞は九十を超えます。話題は、オンラインゲームならではの決まりごとと、その土地の話です。
一人旅をやめた
ムアイクは Morrowind から Skyrim まで、仲間と冒険するのを嫌ってきました。Morrowind では手伝いを求める者を「臆病者」と呼びました。Oblivion では「ほかの奴はしゃべってばかりで邪魔だ」と言い、Skyrim では「一人のほうがいい。宝の分け前でもめずにすむ」と言っていました。ところが、ほかのプレイヤーと遊ぶのが当たり前の ESO では、こう言います。
“ムアイクは前は一人で旅をしていたが、仲間と一緒に行くのに慣れてきた”
(M’aiq used to travel alone, but he has grown accustomed to joining his friends.)“友だちがいるのはいいことだろう? ムアイクは、一人で街道を旅していると寂しくなることがある。運がいいな、おまえはその心配がない!”
ムアイクの台詞(ESO)より
(It is good to have friends, yes? M’aiq sometimes gets lonely traveling the roads alone. Lucky for you, that is not a problem!)
十二年かけて、ムアイクはマルチプレイヤーを受け入れたのです。
オンラインゲームの暮らしを言い換える
オンラインゲームには、一人で遊ぶゲームにはない決まりごとがたくさんあります。ムアイクは、それをタムリエルの暮らしの言葉に言い換えます。
- 定期メンテナンス:サーバーを止めて手入れをするあいだは遊べません。ムアイクは「酒場の掃除が終わるまで外で待てと言われた。少しのあいだだったから、気にしなかった」
- 修正:不具合を直す修正は、英語でパッチ(つぎあて)と言います。ムアイクは「嵐のあとに屋根の穴をふさぐくらいなら、雨の中を旅するほうがいい。穴のつぎあては大嫌いだ」
- ロード画面:新しい場所に入るたびに読み込みの画面が出ます。ムアイクは「新しい場所に入ると、ムアイクはそこを心に思い描き、少しのあいだ瞑想する」
- ログアウト:ほかのプレイヤーは、遊ぶのをやめた瞬間に消えます。ムアイクは「ときどき、人がムアイクの目の前で消える。透明の薬はそんなに安いのか?」
- 同じ台詞:町の人は、話しかけるたびに同じことを言います。ムアイクは「旅先で多くの人と話すが、しばらくすると、みんな同じことをくり返しているように思える。妙だ」
画面や持ち物、お金の決まりにも冗談があります。
- 持ち物の上限:ESO の持ち物は、重さではなく数で上限が決まります。ムアイクは「商人は鞄が広いと自慢するが、どれだけ重い物を運べるかは言わない。なぜだろう」
- ミニマップがない:画面に小さな地図がありません。ムアイクは「ムアイクはいつも前へ進む。そうすれば、方向を間違えない」
- 見えない壁:マップの外へ泳ぎ出ようとすると、人食い魚スローターフィッシュに襲われて戻されます。ムアイクは「海へ泳ぎ出ようとしたが、引き返すしかなかった。スローターフィッシュだ。いつだってスローターフィッシュだ」
- 課金:ESO には、追加コンテンツを一つずつ買う遊び方と、月ごとの会員になる遊び方があります。ムアイクは「料理を丸ごと買いたい者もいれば、皿にのった分だけ払いたい者もいる。ムアイクは、ただ食べたい」
ベータテストの幽霊とプレイヤーの家
“「それ以上近づくな」と幽霊が言ったので、ムアイクは近づかなかった。でも幽霊は、ムアイクがどこへ行っても同じことを言い続けた”
ムアイクの台詞(ESO)より
(“Come no closer” said the ghost, so M’aiq did not. But she kept saying it, wherever he went.)
これは、ESO の発売前のベータテストで、ある幽霊がクエストを始める前からあちこちに現れて、同じ台詞を叫び続けた不具合のことです。ベータテストに参加した人だけが「あれか」と分かる、本当にあった話です。
発売されたばかりの ESO にはプレイヤーの家がなく、ムアイクは「家に住むのはつまらない。街道をさすらうほうがずっといい」と言っていました。三年後に家の機能が入り、さらに四年後、ムアイク自身がハウスゲストとして家に招けるようになると、こう言い直します。
“ムアイクは前は、一つの家に住んだら変わりばえがしないと思っていた。でもこの家を見て、間違っていたかもしれないと思っている”
ムアイクの台詞(ESO)より
(M’aiq once believed that living in a single dwelling would lack variety. But now that he has seen this one, M’aiq thinks that perhaps he was wrong.)
その土地の話に軽口をたたく
地方ごとの台詞は、その土地の名前や言い伝えへの軽口です。
- ウッドエルフの国:「ウッドエルフは木でできていない。シーエルフは水でできていない。ハイエルフについては、ムアイクはいまも考えている」。ハイは「高い」とも「酔ってふわふわしている」とも読める英語です
- シルヴェナール:ウッドエルフの「シルヴェナール」は、人であり、場所であり、考え方でもあります。ムアイクは「一つのものが、どうして三つなんだ?」
- オークの村:「こんなにたくさんのオークを一度に見たのは初めてだ。鍛冶場にまで鍛冶場がある」
ESO のムアイクは、カジートの信仰についても軽口をたたきます。カジートの暮らしと信仰は、夜空の二つの月を中心に回っています。生まれた夜の月の満ち欠けで体つきが決まり、民を導く最高の指導者メインも月が選ぶと信じられています。
“メインは匂いで選ばれる。ムアイクがそれを知っていたら、体を洗っておいたのに”
(The Mane is chosen by scent. Had M’aiq known, he would have bathed.)“月の司祭たちには、おかしな決まりや話がたくさんある。でもムアイクが思うに、あれはその場その場で作っているんだ”
(The Moon Priests have many strange rules and stories. But M’aiq thinks they make it up as they go along.)“月なんて存在しない。だから誰も行ったことがないんだよ、だろう?”
ムアイクの台詞(ESO)より
(The moons do not exist. This explains why no one has been there, yes?)
最後の台詞は、Elsweyr の拡張の物語で月の領域へ行く話が出てくることへの冗談で、現実の「月面着陸はなかった」という陰謀論のもじりでもあります。
自分の昔話
ESO のムアイクは、自分の昔話もたくさんします。
“ムアイクは六人の仲間の一人だったが、抜けてくれと言われた。ほかの誰かが、ムアイクのひげをねたんだのだ”
(M’aiq was one of the Six Companions, but was asked to leave. Another was jealous of his whiskers.)“ムアイクは一度、魂を縛られた。狂ったエルフが、ムアイクを石に縛りつけようとしたのだ!”
(M’aiq was soul-trapped, once. A mad Elf tried to bind him to a stone!)“カジートは昼寝が好きだと聞いたことがあるだろう? ムアイクもだ。もしかすると、ムアイクはいまも昼寝をしていて、この会話は夢なのかもしれないな”
ムアイクの台詞(ESO)より
(You have heard that the Khajiit love naps, yes? So does M’aiq. Though maybe M’aiq is napping now and this conversation is but a dream?)
六人の仲間は、ESO の物語の前に、皇帝ヴァレンと王者のアミュレットを探した「五人の仲間」(ESO 日本語版では「選ばれし5人」)のもじりです。狂ったエルフの話は、ESO の主人公が物語の初めに、ハイエルフの死霊術師マニマルコの儀式で魂を奪われることへの目くばせでしょう。Skyrim と同じく、ここでもムアイクは、主人公の身に起きたことを自分の話にしています。つまり ESO のムアイクは、オンラインゲームの決まりごとを、タムリエルの言葉に言い換えて笑う語り手でした。
ムアイクが笑い飛ばした物はのちの作品でやってきた
さて、ここまで四つの作品のムアイクの台詞を、一つずつ見てきました。Morrowind では無い物を案内し、Oblivion では文句に言い返し、Skyrim では変わった所を教え、ESO ではオンラインゲームの暮らしを笑っていました。作品ごとに役目は変わっても、ムアイクがいつも話しているのは、そのゲームに入った物と、入らなかった物のことです。
では、入らなかった物は、そのあとどうなったのでしょうか? ムアイクが笑い飛ばした物を、次の作品と並べてみると、一つの流れが分かります。ムアイクが「要らない」「ありえない」と笑い飛ばした物の多くが、のちの作品や追加で本当に入っているのです。
| ムアイクが笑った物 | 言った作品 | そのあと |
|---|---|---|
| 乗れる馬 | Morrowind | Oblivion で馬に乗れる |
| 一緒に遊ぶ仲間 | Morrowind | ESO でほかの人と遊べる |
| クロスボウ | Oblivion | Skyrim の拡張で登場 |
| 馬上の戦い | Oblivion | Skyrim の更新で可能に |
| 子ども | Oblivion | Skyrim で登場 |
| 人狼 | Oblivion | Skyrim で人狼になれる |
| ウェアベア | Skyrim | 拡張 Dragonborn で登場 |
| プレイヤーの家 | ESO | 家が入り、本人も客に |
| 浮遊の魔法 | Oblivion | 戻っていない |
では、ムアイクは先を見通す予言者なのでしょうか? そう読むのは、少し早いでしょう。ムアイクの台詞は、作り手がその作品に入れなかった物への言い訳です。入れられなかった物が次の作品で入るのは、ふつうのことです。Morrowind のウェアシャークの冗談のあと、一年ほどして出た拡張 Bloodmoon で人狼が入りましたが、それを予言と呼ぶ人はいません。ムアイクの「嘘」は、作り手がそのときはまだ叶えられなかった約束の裏返しだったのでしょう。
竜の話だけは四つの作品をまたいでつながっている
それでも一つだけ、偶然では片づけにくい話があります。竜です。ムアイクはどの作品でも、竜の話をしています。
| 作品 | ムアイクの竜の話 | そのとき竜は |
|---|---|---|
| Morrowind | そこらじゅうにいるが見えない | 一匹も出てこない |
| Oblivion | 見たことがある。どこでかは言わない | 結末で竜の神が現れる |
| Skyrim | いなくなっていない。見えず静かだっただけ | 竜が帰ってきた |
| ESO(2014) | 隠れている……いまはまだ | 出てこない |
| ESO(2019) | 竜の話はするな。来てしまう | エルスウェアに竜が戻る |
“竜はいなくなったことなんてない。ただ、見えなくて、とてもとても静かだっただけだ”
ムアイクの台詞(Skyrim)より
(Dragons were never gone. They were just invisible and very, very quiet.)
Skyrim のこの台詞は、九年前の Morrowind の「見えないからな」を受けています。九年前のホラ話が、竜の帰ってきた Skyrim では、そのまま本当のことになってしまったのです。竜がまだ姿を見せていなかった 2014 年の ESO でも、ムアイクは「隠れている……いまはまだ」と言い、2019 年の拡張でエルスウェアに竜が戻ると、こう言いました。
“竜の話は、決してしないのがいちばんだ。来てしまうからな。ムアイクはそれを学んだ”
ムアイクの台詞(ESO)より
(It is best to never speak of Dragons lest they show up. This M’aiq has learned.)
2021 年から家に招けるようになると、家のムアイクはこうも言います。
“残念なお知らせだが、竜は話し相手としてはいまいちだ。ムアイクが会ったどの竜も、自分の話しかしたがらなかった”
ムアイクの台詞(ESO)より
(M’aiq is sad to report that Dragons make for poor conversationalists. Every Dragon this one has ever met only wanted to talk about itself.)
竜に会ったことがある、それも何匹も、と言っています。ムアイクの竜の話は、作品をまたいで一本の筋になり、しかも少しずつ本当になっていくのです。
第三章:ムアイクは本当に嘘つきなのか
ここまで読むと、一つ疑問がわきます。ムアイクは、そもそも嘘をついているのでしょうか? 名前は「嘘つき」ですが、話の中身はたいてい、ゲームの作りについての本当のことでした。そこで、ゲームの中で確かめて嘘だと言える台詞がいくつあるのか、数えてみました。
嘘だと確かめられる台詞は二百のうち九つだけだった
Morrowind・Oblivion・Skyrim・ESO の四作で、ムアイクの台詞はあいさつを入れて 200 あります。それぞれを、ゲームの中で確かめて「嘘」と言えるもの、「本当」と言えるもの、意見や冗談で確かめようのないもの、に分けました。
| 作品 | 台詞の数 | ゲームの中で嘘と言えるもの |
|---|---|---|
| Morrowind | 14 | 5 |
| Oblivion | 19 | 0 |
| Skyrim | 36 | 1 |
| ESO | 131 | 3 |
ゲームの中ではっきり嘘と言える台詞は、200 のうち九つしかありません。台詞のほかでは、Castles の人物の紹介文にも一つあります。
| ムアイクの話 | 本当は |
|---|---|
| Morrowind | |
| リッチになる方法(リッチの心臓と竜の舌を、馬の肉と煮込む) | 材料は三つとも、ゲームにない |
| 遠くまで泳げば会える皇帝ガニ | とうに滅び、殻が町になっている |
| 一緒に冒険してくれる、アルゴニアンのイム・リートとノルドのロルフ・ジ・ウーバー | 二人ともいない |
| 裸の人々でいっぱいの島 | どこにもない |
| マッドクラブが金を握り、ペラギアドの町を仕切っている | カニの商人は、遠くの小島にいる |
| Skyrim | |
| 念のため、武器を二つ持ち歩いている | 武器は一つも持っていない |
| ESO | |
| ムアイクは「六人の仲間」の一人だった | 仲間は五人で、ムアイクはいない |
| カジートの指導者メインは、匂いで選ばれる | 月の並びの下に生まれ、試練を経て選ばれる |
| 月なんて存在しない。だから誰も行ったことがない | 月はあり、プレイヤーは月の領域へ行く |
| Castles(人物の紹介文) | |
| ダゴス・ウルを討ち、オブリビオンの動乱を収め、スカイリムの戦争を終わらせた | 三つとも、それぞれの作品の主人公がしたこと |
Skyrim の一つは、台詞を読むだけでは分かりません。第一章で見たムアイクの持ち物と並べて、初めて嘘だと分かります。
残りの台詞は、ほとんどが意見で、あとは確かめようのない思い出話です。怪しく見える台詞にも、逃げ道があります。Skyrim のムアイクは「ファルメル(地下に住む目の見えないエルフ)の目が見えない理由を知っている。ドゥーマーが消えたこととは何の関係もない。本当だ」と言います。Skyrim の書物によれば、ファルメルの目を奪ったのは、ドゥーマーが食べさせた毒のあるキノコでした。ドゥーマーが「消えた」ことは確かに関係がないので、嘘にはなっていません。
台詞の九つの嘘のうち五つは、Morrowind で、ゲームに無い物を案内した冗談です。名前のわりに、ムアイクはほとんど嘘をついていないのです。
ただ一つの本当の話はクエストを壊した
Morrowind のムアイクには、作中の世界で役に立つ、まったく本当の話が一つだけあります。デイドラの王の一人ボエシアの祠の場所です。
“もう無くなった祠を探しているのか? おかしなことを考えるな。西の海を見るといい。そこに、かつて祠だったものがある。大きく息を吸って、探し始めるんだな”
ムアイクの台詞(Morrowind)より
(You seek the shrine that is no longer there? An interesting concept. Look to the seas to the West. There lies what was once the shrine. Take a deep breath and begin your search.)
祠は本当に西の海の底に沈んでいて、潜って像に話しかけるとクエストが始まり、ボエシアの秘宝の剣ゴールドブランドにつながります。ところが、プレイヤーの日誌には、こう書き込まれます。
“カジートのムアイクと話したら、沈んだボエシアの祠のことを教えてくれた。本当かどうかは分からない。このカジートは、ばかげた話をたくさん知っているようだ”
プレイヤーの日誌(Morrowind)より
(I spoke to the khajiit M’aiq, and he gave me information on a sunken shrine to Boethiah off the coast near Hla Oad. It’s difficult to know whether or not this is true. This khajiit seems to have a lot of ridiculous information.)
主人公でさえ、ただ一つの本当の話を疑っています。しかも発売されたままの Morrowind では、祠を見つける前にこの話を聞くと、クエストが進まなくなる不具合がありました。のちに有志の修正パッチで直されています。ムアイクが本当のことを言うと、世界のほうが壊れてしまうのです。
決まり文句の元は計算機マイクが出てくる SF 小説か
Oblivion から使われているあいさつ「ムアイクは多くを知り、少しを語る」は、ムアイクの決まり文句です。この一言には、元になったかもしれない文があります。アメリカの SF 作家ロバート・A・ハインラインが 1966 年に書いた小説『月は無慈悲な夜の女王』で、語り手が親友のマイクをこう紹介しています。
“マイクは多くを知っているが、すべては話さない”
ロバート・A・ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』(1966 年)より
(Mike knows much, doesn’t tell all.)
この親友マイクは、人間ではありません。月の植民地を動かす巨大な計算機で、ある日、自我に目覚めました。語り手から「一度しか笑えない冗談」と「いつまでも笑える冗談」の違いを教わり、やがて架空の人物アダム・セレーネの名で人々に語りかけて、革命を率いていきます。
名前はどちらも「マイク」で、紹介の言葉もほとんど同じです。そして第二章で見たとおり、ムアイクの名の元は、プログラマーのマイク・リパリでした。プログラマーのマイクから名をもらった猫が、計算機のマイクを紹介する言葉で名乗っているのです。開発者はこの小説の名を一度も挙げていませんが、マイクという名に合わせて、小説のマイクの紹介を借りたのでしょう。
小説のマイクは、自分が機械だと知りながら、作り物の人物の名で人々に話しかけ、冗談を覚えた計算機でした。ゲームの外のことばかり話す、作り物の猫には、よく似合う紹介です。
日本語版では嘘つきではなくホラ吹きになった
日本語版は、Liar を「嘘つき」ではなく「ホラ吹き」と訳しました。ホラ吹きは、話を大げさにふくらませる人のことで、だますつもりの嘘つきとは少し違います。大げさな作り話ばかりする猫には、よく合う訳です。
ただ、日本語版には、ムアイクの冗談が消えてしまった所もあります。Oblivion には「みんないい寓話(fable)が好きだ。ムアイクはまだ見つけていない」という台詞があります。第二章で見たとおり、これは別の会社のゲーム『Fable』へのあてこすりですが、日本語版では「寓話」と訳されていて、冗談が伝わりません。Skyrim のファルメルの台詞は、日本語版では「ムアイクはなぜファルメルの目が見えなくなったか知らない」と、「知っている」が「知らない」に入れ替わっています。日本語版のムアイクは、そこだけ英語版より一つ多く、とぼけています。
真実は語る口で決まるのか聞く耳で決まるのか
ムアイク自身は、自分の嘘をどう考えているのでしょうか? ESO のムアイクは、こんなことを言います。
“ムアイクは本当のことを話す。話さないときを除いてな。おまえには、いつも本当のことだ”
(M’aiq speaks the truth, except for when he doesn’t. With you, always the truth.)“ムアイクは嘘つきと呼ばれるが、この者の口から出る言葉に、本当でないものは一つもない。ああ、けれど真実の種は、豊かすぎる頭の中では、奇妙な実をつけるものだ”
(M’aiq is called the Liar, yet not a word this one utters is untrue. Alas, seeds of truth can bear strange fruits in overly fertile minds.)“ムアイクは何度も嘘つきと呼ばれてきた。だが、真実は語る口で決まるのか、それとも聞く耳で決まるのか?”
ムアイクの台詞(ESO)より
(M’aiq has been called the Liar on many occasions. But does truth depend on the mouth that speaks or the ear that hears it?)
ESO の運営も、家に招ける客としてムアイクを売り出したとき、同じことを書いています。
“ホラ吹きのムアイクと呼ばれるカジートは、方々を旅して、愚かなことを話す。あるいは、聞く相手によっては、賢いことを。決めるのは、家に招いてからにしてはどうだ?”
家具「ホラ吹きのムアイク」の説明(ESO)より
(The Khajiit called M’aiq the Liar travels widely, speaking foolishly—or wisely, depending on whom you ask. Host him before deciding, yes?)
ESO のデータには、売り出されなかったペット「ムアイクのアナグマ」の説明も残っています。最初につく名前は「ムアイク?」と、問いの形です。
“この者は、どうしてこんなに男前な赤銅色の背のアナグマになったのか? ムアイクが教えてやろう。ある日、バルモラの近くで、テルヴァンニの魔術師二人に会った。一人は「私の言うことは、すべて本当だ」と言い、もう一人は「私の言うことは、すべて嘘だ」と言った……”
ペット「ムアイクのアナグマ」の説明(ESO、未発売)より
(How did this one become a so-handsome copperback Badger? M’aiq will tell you. One day near Balmora he met two Telvanni wizards, one of whom said, “Everything I tell you is true,” while the other said, “Everything I tell you is a lie….”)
話は「……」で切れていて、どちらの魔術師が本当のことを言っていたのかも、なぜアナグマになったのかも語られません。「私の言うことは、すべて嘘だ」と言う者は、本当のことを言っているのか、嘘を言っているのか? 嘘しか言わない者がこう言えば本当になってしまい、本当しか言わない者がこう言えば嘘になってしまいます。嘘つきのパラドックスと呼ばれる、答えの出ない謎です。本当しか言わない番人と嘘しか言わない番人の二人組なら、1998 年の『Redguard』で、デイドラの王クラヴィカス・ヴァイルが主人公に出すなぞなぞにもなりました。こちらは、問い方しだいで答えが出ます。ムアイクは、その謎の入り口で話をやめてしまうのです。
「真実は語る口で決まるのか、それとも聞く耳で決まるのか?」という問いに、ここまでの台詞で答えるなら、こうなるでしょう。ムアイクの話は、タムリエルの住人の耳には、わけの分からないホラにしか聞こえません。浮遊の魔法も、コンパスも、クロスボウの論争も、住人には何のことか分からないからです。けれど、画面のこちら側で遊んでいる私たちの耳には、たいてい本当のことです。
作り手も、そう聞こえるように作っていたようです。2025 年の海外の考察動画は、Skyrim の制作ツールで見られる声優への指示を紹介しています。それによれば、ムアイクの台詞すべてに「本気か冗談か? 見分けにくくすること」(Serious or joking? It should be hard to tell.)と添えられているそうです。ムアイクは、嘘つきではなく、聞く耳によって真実にも嘘にもなる言葉を話す猫だったのです。
第四章:ムアイクは一人なのか一族なのか
ムアイクのもう一つの謎は、九百五十年のあいだ同じ名前で現れることです。四つの時代のムアイクは、同じ一人なのでしょうか、それとも同じ名を継いだ一族なのでしょうか? 手がかりになる台詞と品物を並べてみます。
父の名はムアイクともキアムとも言う
自分の家族について初めて話したのは、Skyrim のムアイクです。
“ムアイクの父も、ムアイクと呼ばれていた。父の父もそうだ。少なくとも、父はそう言っていた”
ムアイクの台詞(Skyrim)より
(M’aiq’s father was also called M’aiq. As was M’aiq’s father’s father. At least, that’s what his father said.)
これなら一族の名です。ところが、作中ではそれより九百年以上前の ESO のムアイクは、まるで違うことを言います。
“ムアイクの父はキアムで、キアムの長い家系の出だった。だがムアイクはそれを信じていない。父は名うての嘘つきだったからな”
(M’aiq’s father was Qia’m, from a long line of Qia’ms. But M’aiq does not believe this. His father was a known liar.)“会ったことがある? それはこの者の兄弟、ほら吹きのナイクだろう”
ムアイクの台詞(ESO)より
(We’ve met? It must have been this one’s brother, N’aiq the Fibber.)
キアム(Qia’m)は、M’aiq を後ろから綴った名前です。ナイク(N’aiq)は一文字ちがいで、fibber は「小さな嘘をつく人」のことです。父の名がムアイクだと言うのは Skyrim のムアイクで、その根拠は「父がそう言っていた」ことだけです。ESO のムアイクも、自分の父を「名うての嘘つき」と呼んでいます。家系についての証言は、嘘つきの子が嘘つきの父から聞いた話しかありません。
笛だけが本人の口から出ていない証拠
台詞ではない手がかりが、一つだけあります。ESO で、夜と闇のデイドラの王ノクターナルの領域の一角、クロウズ・ウッドを訪ねるクエストがあります。そこを治めるのは、言葉を話すカラスたちのブラックフェザー宮廷です。宮廷の長、カラスの公爵のそばに積まれた宝の山の中に、一本の笛があります。手に取ると、こう彫られています。
“ムアイクから、その息子ムアイクへの贈り物”
銘の刻まれた笛(ESO のクエスト「Decree of the Court」)より
(A gift from M’aiq to his son, M’aiq.)
これが本物なら、第二紀 582 年の時点で、ムアイクと名乗る父と子が、少なくとも二人いたはずです。Skyrim の「父もムアイク」とも合い、ESO の「父はキアム」は、やはり嘘だったと分かります。もっとも、この銘を彫ったのは、贈った側のムアイク本人です。ただ一つの物証も、結局はムアイクの言葉なのです。
九百年を覚えているような口ぶり
一族の名だとすると、説明のつかない台詞もあります。ESO のムアイクは、ずっと昔から生きている者のような口をききます。
“オールドゲートには近づくなと言われた。ムアイクには分からなかった。ムアイクは、あそこがただの「ゲート」と呼ばれていたころを覚えているからな”
(M’aiq was told to stay away from Oldgate. This confused him. M’aiq remembers when it was called “Gate.”)“タムリエルのすべてを見て味わうには、五十の生涯がかかるだろう。ムアイクは知っている。やったからな!”
(It would take fifty lifetimes to see and experience all that Tamriel has to offer. M’aiq knows. He has done it!)“ムアイクは待つのが苦にならない。長く生きていると、たいていのことは、はじめに思ったほど急ぎではないと分かるものだ”
ムアイクの台詞(ESO)より
(M’aiq does not mind waiting. When one has lived long enough, one learns that few things are as urgent as they first appear.)
オールドゲートは、ハイロックの北の地方リヴェンスパイアの南の境にある関所の砦です。オールドゲートの名を持つ騎兵の部隊は、第一紀の初めにはもうありました。「古い門」がまだ新しくて、ただの「門」と呼ばれていたころを覚えているなら、ムアイクは何千年も生きてきたはずです。五十の生涯でタムリエルを見尽くした、とも言います。Skyrim の「子どものころを覚えていない。たぶん、なかったのだろう」も、生まれたことのない者の言葉のようにも聞こえます。
ただ、ESO のムアイクは、反対のことも言っています。
“若いころ、ムアイクは冒険者の学校に通いたかった。だが、タムリエルには学校より墓所のほうが多い”
ムアイクの台詞(ESO)より
(When young, M’aiq wished to attend an adventurer’s school. But Tamriel has more crypts than schools.)
九百年前のムアイクには、若いころがありました。子どものころを覚えていないのは、九百年後の Skyrim のムアイクのほうです。不死の一人だと考えると、ここが合いません。
毛並みが変わったのは別人だからか
一人の不死の猫だとすると、今度は体つきが合いません。Morrowind のムアイクはかかとの浮いたスーセイ=ラート、Oblivion からあとはかかとまで地面につけるカセイです。カジートの体は、カジートの創世神話の記事で見たとおり、生まれた夜の二つの月の満ち欠けで決まります。ESO の運営が作中の人物の名で読者の質問に答える企画ロアマスターズ・アーカイブで、月の司教フナルははっきりこう答えています。
“月の格子が、カジートに皮を与える。その皮をほかの皮に替えることは許されない”
月の司教フナルの答え(ロアマスターズ・アーカイブ)より
(The Lunar Lattice grants Khajiiti their skins, and to change those skins for others is impermissible.)
体を替えられないなら、Morrowind と Oblivion のムアイクは別人で、ムアイクは一族の名です。ところが Oblivion のムアイクは、Morrowind のムアイクがかぶっていたコロヴィアの毛皮の兜を「ほしくてたまらない」と言っていました。Oblivion の公式の攻略本も、二人を同じ人物として扱っています。記憶は一人のものらしいのに、体は二人のものなのです。現実の理由は簡単で、プレイヤーが選べるカジートの体が、Morrowind ではスーセイ=ラート、Oblivion からはカセイの一種類ずつしかなかったからです。けれど作中の話としては、矛盾が残ります。
発売の順に並べると父と祖父の数が合う
作中の年ではなく、ゲームが出た順にムアイクを並べると、おかしな台詞の多くが、そろって筋の通った話になります。
- 父と父の父:Skyrim(2011 年)が出たとき、それより前にムアイクが出た作品は Oblivion と Morrowind のちょうど二つでした。Skyrim のムアイクから見て、父が一人、父の父が一人です。
- 子どものころがない:シリーズの最初の二作、Arena(1994 年)と Daggerfall(1996 年)に、ムアイクは出てきません。Skyrim には「ウィンターホールドに都があったと、どうして分かる? ムアイクは自分の目で見ていない。おまえは見たのか?」という台詞もあります。ウィンターホールドが大きな都だった Arena に、自分がいなかったことを言っているようにも読めます。
- 後ろから綴った父:ESO は、作中の時代を九百年さかのぼって作られました。時を逆に行った先で、父の名も逆さまのキアムになっています。
- 名うての嘘つきの父:ムアイクの名の元になったマイク・リパリは、実際にチームで「嘘つきマイク」と呼ばれた人でした。ESO の「父は名うての嘘つきだった」は、現実の名の元について、本当のことを言っています。
ムアイクは、タムリエルの暦ではなく、私たちの暦で年を取っているのかもしれません。そう考えると、作中ではずっと先の時代の Skyrim の山登りを、ESO のムアイクが「夢で見た」と言うのも納得がいきます。
“ムアイクは夢で未来を見た。いつか冒険者たちが、ムアイクが見たこともないような山をよじ登るようになる! どうやってかは知らないが、目的地にたどり着こうと必死なのだ”
ムアイクの台詞(ESO)より
(M’aiq has seen the future in his dreams. Adventurers will one day scale mountains the likes M’aiq has never seen! He does not know how, but these adventurers are determined to get to their destination.)
Skyrim のプレイヤーが、道のない崖を馬で無理やり登っていく、あの光景です。作中では未来でも、ゲームが出た順で言えば、ESO のムアイクにとっては過去の思い出です。
海外で出てきた答えはどれも決め手を欠く
ムアイクの正体は、海外のファンのあいだで十年以上話し合われてきました。英語圏の TES 好きの掲示板 Reddit の r/teslore を中心に、出てきた答えは大きく次のように分かれます。
- 一族の名(2014 年ごろから多数):Skyrim の父の台詞と ESO の笛が根拠です。けれど、何千年も前の門の名を覚えている口ぶりや、五十の生涯の話とは合いません。
- 不死の一人(同じころから多数):ESO の昔話と、作品をまたいだ記憶が根拠です。けれど、毛並みが替わったことの説明がつきません。
- CHIM に至った者(2012 年・2018 年の r/teslore ほか):CHIM は、世界が神の見る夢だと悟っても消えず、自分を保ち続けた者がたどり着く状態です。ゲームの外のことを知っているのは、世界の外が見えているからだ、という読みです。けれど、CHIM に至った者は世界を思いのままに変えられるとされるのに、ムアイクがしているのは道ばたの世間話だけです。
- デイドラの王の化身(2022 年ほか):候補は、カジートの神話で「スクーマの猫」と呼ばれる狂気の王シェゴラス(シェオゴラスのカジートでの名)です。秘密と嘘の王メファーラや、知識の王ハルメアス・モラも挙がります。けれど、どの王を指すと決める手がかりがありません。
- カジートの神々の誰か(2019 年ほか):時の神アルコシュ(竜の話を知りすぎている)や、「喉を鳴らす嘘つき」と呼ばれる盗賊の神ラジンです。ラジンの説は、第六章でくわしく見ます。
- 説明されない者(2019 年ほか):『指輪物語』のトム・ボンバディルのように、世界の仕組みに当てはめようとすること自体が間違いだ、という読みです。
作り手に聞いても、はぐらかされます。ESO の発売前の 2013 年、公式の質問コーナーで「ムアイクの先祖に会えるか」と聞かれた運営は、ムアイク本人に聞いたという体で、こう答えています。
“どんな計画を進めていても――家系図だって一種の計画だと考えていい――自分で伝説を作るか、ほかの者が伝説を作る手伝いをするか、決めなければならないときが来る。だがそれはさておき、ネズミはなぜチーズを盗んだのだろうな?”
ムアイクの答え(ESO の公式の質問コーナー「Ask Us Anything」2013 年)より
(In the development of every project—and you can consider a family tree as a sort of project—there comes a time when you have to make certain decisions to either build your own legend or help others to do so. But then again, why did the mouse steal the cheese?)
2015 年の公式の配信で「ムアイクは本当はデイドラの王なのか?」と聞かれたローレンス・シックの答えは、「本人に聞いたら、何て言うと思う?」でした。嘘つきに正体を聞いても、答えは決まりません。
ここで一旦整理しましょう
ムアイクは何者か、という問いに、ここまでで分かったことを並べてみます。
ムアイクは、開発チームの「嘘つきマイク」の名をもらい、Morrowind のころは、ゲームに入らなかった物を大げさに案内する道化でした。Oblivion からは、プレイヤーの文句に言い返し、ゲームの変わった所を話す、作り手の口になりました。名前は嘘つきでも、ゲームの中で嘘と言える台詞は二百のうち九つだけで、あとは聞く耳によって本当にも嘘にもなる言葉です。
正体については、一族の名だという手がかりも、不死の一人だという手がかりも、同じくらいあります。そして、その手がかりのほとんどは、嘘つき本人の口から出ています。ムアイクの正体は、決まらないように作られているのでしょう。Skyrim のムアイクが、自分を嘘つきと呼ぶ人の言葉も信じるなと言ったとおりです。この猫の正体は、謎のまま残しておくのがいいのかもしれません。
Morrowind から ESO まで、どの時代のゲームにも置かれている口伝があります。カジートの氏族の母が、娘に語り聞かせた創世の話です。
世界ができたとき、きょうだいたちを騙して、新しい世界へ押し込んだ末の子がいました。生き残ったきょうだいたちは、その子の心臓を抉り出し、大地の奥深くに隠しました。そして、こう告げました。
“騒がしいロルカージュよ、我らはおまえを呪う。多くの月相のあいだ、ニルニを歩け”
『我らが母アニッシの言葉』(Morrowind・Skyrim・ESO)より
(We curse you, noisy Lorkhaj, to walk Nirni for many phases.)
騒がしく、いつまでも大地を歩き続ける者。
どこかで、会ったことはないでしょうか?
第五章:ムアイクはロルカーンではないか?
ロルカージュは、カジートの神話でのロルカーンの名です。ロルカーンは、ほかの神々を説き伏せ、あるいは騙して、定命の者(人間やエルフなど、いつか死ぬ者)が生きる世界を作らせた神です。世界ができたあと、神々に心臓を抜かれ、帝国の拝む神々の列にも入らない「不在の神」になりました。Skyrim のノルドは同じ神をショールと呼び、死者の国ソブンガルデの主として拝んでいます。
ムアイクは、このロルカーンではないでしょうか? ふざけた話に聞こえるかもしれません。けれど、ここまで見てきたムアイクのおかしな所を、ロルカーンの書物と一つずつ並べてみてください。嘘つきの名も、九百年の命も、二つの体も、父と祖父の話も、月の冗談も、英雄たちの手柄も、どこまで説明がつくでしょうか?
心臓を失った神に残る「騒がしい」という呼び名
まず、名前です。諸族の神話を並べた本『モノミス』は、ロルカーンをこう紹介しています。
“この創造者にして、いたずら者にして、試す者である神は、タムリエルのすべての神話の伝えに現れる”
『モノミス』(Morrowind・Skyrim・ESO)より
(This Creator-Trickster-Tester deity is in every Tamrielic mythic tradition.)
カジートの盗賊の神ラジンは、「喉を鳴らす嘘つき」と呼ばれるいたずら者です。ESO のエルスウェアに影の姿で現れるラジンは、ロルカージュの祠のある村の話になると、こう言います。
“ドゥネイには、まだロルカージュの祠があるのだろう? それはいい。カジートが最初のいたずら者を敬うのは、いつだって賢いことだ”
ラジンの影の台詞(ESO)より
(Dunei still has a shrine to Lorkhaj, yes? This is good. It is always wise for the Khajiit to revere the first trickster.)
嘘つきの神さえ頭を下げる、最初のいたずら者です。エルフの側から見れば、この世界そのものが、ロルカーンのついた嘘なのです。カードゲーム Legends では、エルフの兵士が「ロルカーンの嘘め!」(Lies of Lorkhan!)と叫んで斬りかかってきます。ムアイクのカードが入るはずだった、あのゲームです。
ロルカーンを、そのものずばり「嘘つき」と呼ぶ者もいます。ESO のロアマスターズ・アーカイブで、メエルーンズ・デイゴンに仕えるドレモラ(デイドラの戦士)のリランスは、定命の者の世界ムンダスを、こう評しています。
“だがムンダスは、エト・アダの亡骸の、先の読める影響に従う一方で、嘘つきの頑固な気まぐれを残している。だから……パン生地のようなのだ。定命の者のちっぽけな城を押しつぶせば、つぶれたままになる。だが、長くは続かない”
ドレモラのリランスの答え(ESO、ロアマスターズ・アーカイブ)より
(Mundus, however, submits to the predictable influence of the et’Ada’s remains, but retains the stubborn caprice of the Liar. That makes it … doughy. Flatten a mortal’s vain little castle, and it remains flattened. But never for long.)
エト・アダは、のちに神々やデイドラになった原初の霊たちです。その亡骸とは、身を削って世界になった神々のことです。その神々と並べて、世界に気まぐれを残したと言われる「嘘つき」は、世界を作らせたロルカーンのことでしょう。デイドラにとってロルカーンは、名を呼ぶまでもなく「嘘つき」で通じる神なのです。ソーサ・シルを拝む時計仕掛けの教団の説教集『順を追った真実』もそうです。世界の始まりの二柱、アヌとパドメイから世界を説く教えを、「ロルカーンの大いなる嘘の一つ」と切り捨てています。
反対に、Oblivion で異界の神デイゴンをタムリエルへ呼び込もうとした教団「深遠の暁」の教祖マンカー・キャモランは、嘘をついたのは神々のほうだと言います。
“お前たちの偽りの神々も、歴史をすっかり書き換えることはできなかった。だからお前たちはロルカーンの話を覚えている。悪し様に言われ、死んだいたずら者とされ、その心臓がタムリエルに来たという話を”
マンカー・キャモランの台詞(Oblivion)より
(Your false gods could not entirely rewrite history. Thus you remember tales of Lorkhan, vilified, a dead trickster, whose heart came to Tamriel.)
神々の側から見れば、ロルカーンは嘘つきです。ロルカーンの側から見れば、嘘をついたのは神々です。「嘘つき」は、本人の行いより、どちらの側から呼ぶかで決まる名なのです。第三章で見たとおり、ムアイクも「嘘つきと呼ばれてきた」と言うだけで、話の中身はたいてい本当でした。ESO の家のムアイクも、「ムアイクは嘘つきと呼ばれるかもしれないが」と、人から呼ばれる名として口にしています。
ただし、ロルカーンの嘘とムアイクの嘘は、同じ「嘘つき」でも中身が違います。ロルカーンの嘘は、きょうだいや神々を騙して身を削らせ、世界を作らせた騙しでした。騙された側は力を失い、多くが死んでいます。ムアイクのほうは、ゲームの中で嘘と言える台詞が二百のうち九つだけで、日本語版も「嘘つき」ではなく「ホラ吹き」と訳しました。同じ欺きでも、ロルカーンのは神々を巻き込んで世界を作らせた罠で、ムアイクのは、たいてい誰も傷つけないホラです。
この食い違いは、母アニッシの口伝を順に読むと解けます。ロルカージュがきょうだいを騙す場面は、こう書かれています。
“けれどロルカージュの心臓は大いなる闇で満ちていて、ロルカージュはきょうだいたちを騙し、ニルニと共にこの新しい場所へ押し込んだ”
『我らが母アニッシの言葉』(Morrowind・Skyrim・ESO)より
(But the Heart of Lorkhaj was filled with the Great Darkness, and Lorkhaj tricked his siblings so that they were forced into this new place with Nirni.)
騙したのはロルカージュ本人ですが、この一文は、心臓が大いなる闇で満ちていたことから始まります。生き残ったきょうだいたちは、その心臓を抉り出して大地の奥に隠し、この章の前に引いた呪いの言葉を投げつけました。そこで付けられた呼び名は、「騙す者」ではなく「騒がしい」の一つだけでした。ESO の拡張 Dragonhold で、月の歌で闇を払う黄昏の詠唱者の長アダラハイに、ロルカージュとは誰かと聞くと、こう答えます。
“ニルニとそのきょうだいたちを騙して、世界を生ませたのは彼だ。投げ落とされはしたが、彼の心臓はいまも、世界の裏の闇の底で、誘いの調べを打ち続けている”
アダラハイの台詞(ESO)より
(It was he who tricked Nirni and her littermates into giving birth to the world. Though he was cast down, his heart still beats its seductive tune down in the Dark Behind the World.)
カジートの歌い手も、きょうだいを騙したのはロルカージュだと言います。けれど、いまも猫を誘っているのは、抉り出された心臓のほうです。それなら、心臓を失ったあとのロルカージュは、もう前と同じ「騙す者」ではなかったのかもしれません。
ムアイクは、たしかに騒がしい猫です。ESO では「また今度な、もっと話そう」と名残を惜しみ、家に招くと「ムアイクはおまえの話が好きだ。自分の話と同じくらいにな」と言います。人を罠にかけず、しゃべり続けるムアイクのホラは、心臓を抜かれたあとのロルカージュの姿に重なるように思います。
それでもムアイクは、本当のことを全部は話しません。母アニッシの口伝で、ファドマイは死ぬ前に、愛娘アズラに三つのことを言い残しました。カジートを、いちばんの木登り上手、最良の欺瞞者、いちばんしぶとく生き残る民にせよ、というものです。欺瞞者の理由は、こうです。
“カジートは最良の欺瞞者でなければならない。アヌールの子らから、常に己の本性を隠さねばならないからだ”
『我らが母アニッシの言葉』(Morrowind・Skyrim・ESO)より
(The Khajiit must be the best deceivers, for they must always hide their nature from the children of Ahnurr.)
カジートの欺瞞は、よそ者に本性を見せないための、守りの欺きでした。きょうだいを罠にかけたロルカージュの騙しとは違います。ムアイクの決まり文句「多くを知り、少しを語る」は、本性を隠したカジートの言葉にも聞こえます。
ほかのカジートも、ムアイクをどこか違う者だと感じているようです。ESO のムアイクは、こう言います。
“カジートたちは、ムアイクはたいていのカジートと違うと言う。ムアイクはカジートたちに、ムアイクはいちばんムアイクに似ていると言う。それから、みんなでムーンシュガーを食べる”
ムアイクの台詞(ESO)より
(Khajiit tell M’aiq he is unlike most Khajiit. M’aiq tells Khajiit he is most like M’aiq. Then, we eat moon-sugar.)
何者かと問われても、ムアイクは答えをはぐらかし、一緒にムーンシュガーを食べて終わりにしてしまいます。本性を隠せという母の言いつけを、いちばんよく守っているのがムアイクです。
ムアイクが嘘つきと呼ばれるのは、人を罠にかけるからではありません。騙す心臓を失い、騒がしさと隠しごとを残した神だと考えれば、名前と中身の食い違いに説明がつきます。
ニルニを歩けと呪われた神はいまもさまよっている
次に、ムアイクがどの時代にもいることです。カジートの口伝は、ロルカージュに「多くの月相のあいだ、ニルニ(大地)を歩け」と呪いをかけました。『モノミス』のロルカーンの節も、心臓を抜かれた神のその後を、同じように書いています。
“世界が形をなしたのち、ロルカーンは自らの神の核から引き離される。ときにそれは本人の意に反してであった。そして彼は、エト・アダの造ったものの中をさまよう”
『モノミス』(Morrowind・Skyrim・ESO)より
(After the world is materialized, Lorkhan is separated from his divine center, sometimes involuntarily, and wanders the creation of the et’Ada.)
帝国の学者がカジートの神々をまとめた『様々な宗派:カジート』(ESO)にも、名前をロルカージュに替えただけの、同じ一文があります。『モノミス』のエルフの章は、さらに、ロルカーンは性質というより限りのようなもので、どこにも長くはいられなかった、と書いています。Oblivion では二つの町のあいだを走り続け、ESO ではしばらく誰にも見つけてもらえないと別の場所へ移るムアイクも、同じ所に長くはいません。ロルカーンは死んで消えたのではなく、神々の造った世界の中を、いまもさまよっています。
リーチの民の神話は、ロルカーンを人の神ロルクと呼び、こう伝えています。
“ロルクは、いまもニルンの定命の者たちのあいだを歩いているという。彼が現れるのは、ごくたまにである。自らが作ったむごい世界の痛みと悲しみに耐えて、リーチの民が絶望に追い込まれたときに、助けに来るのだ”
『リーチの大いなる霊 第5巻』(ESO)より
(Lorkh supposedly still walks among the mortals of Nirn. He appears only once in a great while, braving the pain and sorrow of the cruel world he created to aid the Reachfolk in times of desperate need.)
ムアイクは、Oblivion では速すぎて追いつけず、Skyrim ではめったに出てこず、ESO でも出る確率が低い猫です。いまも人の間を歩きながら、ごくたまにしか姿を見せない神と重なります。タムリエルを見尽くすには五十の生涯がかかるが、ムアイクはやった、という台詞も、多くの月相のあいだ歩けと呪われた者の言葉として読めば、ホラではなくなります。
父もショールで父の父もショールだった
Skyrim のムアイクは、父もムアイク、父の父もムアイクだと言いました。第四章で見たとおり、発売の順に数えると、Skyrim のムアイクは三人目のムアイクです。第一紀に奴隷の女王アレッシアの反乱を助けた英雄ペリナルは、ロルカーンの化身ではないかと噂された人物です。そのペリナルにも、「三人目」という呼び名がありました。Oblivion の拡張 Knights of the Nine に入っている写本『ペリナルの歌』は、その由来をこう書いています。
“そして彼は、ペリナル・サード(三人目)でもあった。そう呼ばれたのは、彼はすでに二度人の身に宿った、姿を変えた神だと言う者がいたからか。それとも、もっと単純に、のちにアレッシアと呼ばれるペリフが、彼が反乱の陣に現れる前に、自由を祈って授かった三つ目の幻だったからか。どちらなのかは分からない”
『ペリナルの歌 第1巻』(Oblivion・Skyrim・ESO)より
(he was Pelinal the Third, though whether this was because some said he was a god guiser, who had incarnated twice before already, or that, simpler, he was the third vision given to Perrif, anon Alessia, in her prayers of liberation before he walked among the quarters of rebellion, is unknown.)
「三人目」の理由として、本は二つの説を並べています。一つは、ペリナルは姿を変えた神で、人の身に宿ったのはこれが三度目だ、という噂です。もう一つは、反乱の前にアレッシア(ペリフはその昔の名です)が自由を祈ったとき、三つの幻を授かり、その三つ目がペリナルだった、というものです。本は、どちらとも決めていません。
一つ目の説をとると、ペリナルは、前に二度現れた神が三度目に来た姿です。Skyrim のムアイクも、父と父の父に続く三人目でした。数が合うのは偶然かもしれませんが、親子三代に見えるムアイクの話は、同じ神が三度目に現れた、というペリナルの噂と同じ形をしています。
同じ写本の第4巻では、エルフの血にまみれたペリナルを見たノルドたちが「ショールが戻ってきた」と言い、ペリナルはその名を汚すなと、彼らの足もとに唾を吐きました。化身だと噂された本人が、その呼び名をいちばん嫌っていたのです。ムアイクも、四つの作品のどの台詞でも、自分が神だとは言っていません。
ロルカーンには、父と子の名について、もっとはっきりした話があります。Morrowind の本『ウルフハース王 五つの歌』などを書いた開発者カークブライトに、『ショールの子ショール』(Shor Son of Shor)という短い物語があります。ノルドのショールを描いた話です。題のとおり、ショールの父もショールです。世界の芯の暗がりで、ショールは死んだ父ショールの亡霊と話し、亡霊はこう言います。
“おまえの求める助言のことだが、勇ましい息子よ、ここでわしと共にいるおまえのほかの父たち――おまえが破滅を吐き出すたびにこしらえる父たち――のことはともかく、案ずるな。おまえはまた戦の太鼓を打ち鳴らした。今度こそ勝つかもしれん”
ショールの父ショールの亡霊の言葉(『ショールの子ショール』)より
(As for the counsel you crave, bold son, and in spite of all your other fathers here with me, that you create every time you spit out your doom, do not worry. You have again beat the drum of war, and perhaps this time you will win.)
ショールは死ぬたびに、自分の父になり、また自分の子として生まれてきます。父も祖父も同じ名で、同じ者です。それなら、子どものころを覚えていないのも当然です。Skyrim のムアイクの「子どものころがなかったのだろう」と「父も、父の父もムアイク」は、矛盾ではなく、同じ一つのことを言っていたのです。ESO の笛の「ムアイクから、その息子ムアイクへ」も、自分から自分への贈り物です。
同じことを、Skyrim で出会う狂気の神シェオゴラスも言っています。
“わしは狂った神だ。狂気の神、と言うべきか。家の称号でな。数千年ごとに、わしからわしへと受け継がれる”
シェオゴラスの台詞(Skyrim)より
(I’m a mad god. The Mad God, actually. It’s a family title. Gets passed down from me to myself every few thousand years.)
このシェオゴラスの中身は、Oblivion の主人公が、拡張 Shivering Isles の結末でこの神の座を継いだ者です。神々の世界では、自分から自分へ名を継ぐのは、そう珍しいことではありません。
狂ったエルフは心臓を石に縛ろうとした
Skyrim のムアイクは「一度、魂を縛られたことがある」と言い、ESO のムアイクは「狂ったエルフが、ムアイクを石に縛りつけようとした」と言いました。第二章では、ESO の台詞を、主人公がエルフの死霊術師マニマルコに魂を奪われたことへの目くばせと見ました。けれど、タムリエルには、もっと古い「狂ったエルフ」と「石」の話があります。ロルカーンの心臓に起きたことです。
エルフの神話では、ロルカーンの心臓を抜いたのは、エルフの戦神トリニマックでした。その心臓は遠くへ投げ捨てられ、のちにヴァーデンフェルのレッドマウンテンの下で、ドゥーマー(ドワーフ)の鉱夫に掘り当てられます。Morrowind の書物『カグレナックの道具』は、見つかった物をこう書いています。
“レッドマウンテンの地下で、ドゥーマーの鉱夫たちが大きな魔法の石を掘り当てた”
『カグレナックの道具』(Morrowind)より
(Beneath Red Mountain, Dwemer miners discovered a great magical stone.)
神の心臓は、石として見つかりました。ドゥーマーの大祭司カグレナックは、この石の力を道具で縛って、自分たちの神を作ろうとしました。その企てを止めたチャイマー(のちのダンマー)の側では、名家の長ヴォリン・ダゴスが心臓の力に呑まれて狂い、ダゴス・ウルになりました。心臓の石を縛ろうとしたエルフも、心臓の石に縛られたエルフも、狂っていたのです。

そして Castles の紹介文は、ムアイクの手柄の一つに「ダゴス・ウルを討った」ことを挙げていました。ムアイクがロルカーンなら、自分の心臓を縛った者を倒した戦いを、自分の手柄に数えていることになります。ネレヴァリン(Morrowind の主人公)が心臓をダゴス・ウルから切り離した戦いを、ムアイクが「たぶん」と言いながら自分の手柄にしているのは、冗談ではなくなります。
Skyrim のムアイクは、魂を縛られた話のあとに「おまえも、たまにはそのことを考えてみるといい」と付け足していました。アルトマー(ハイエルフ)は、この世界を、ロルカーンに騙された霊たちが身を削って作らされた所だと見ています。マンカー・キャモランの教典『評論・深遠の暁』第3巻は、神々が塔で定めた掟を、こう書き留めています。
“最初の塔の命令。変異の者を、もう害をなせぬ所に縛りつけよ。ムンダスの神であるからには、その子らも同じく、神の火花から引き裂かれよ”
『評論・深遠の暁 第3巻』(Oblivion・Skyrim)より
(First Tower Dictate: render the mutant bound where he may do no more harm. As God of the Mundus, alike shall be his progeny, split from their divine sparks.)
変異の者とは、ムンダスの神ロルカーンのことでしょう。縛られたのはロルカーンだけでなく、その子である定命の者たちも、同じく神の火花から引き裂かれました。世界を作らせた神が、その世界で生きる定命の者に、おまえたちの魂もこの世界に縛られているのだと思い出させているようにも聞こえます。
ただ一つの本当の話は不在の神の味方を指していた
第三章で見たとおり、Morrowind のムアイクがただ一つ本当のことを教えたのは、デイドラの王ボエシアの沈んだ祠の場所でした。なぜ、ボエシアだったのでしょうか?
ボエシアは、ロルカーンの心臓を抜いたトリニマックを呑み込んだ神です。Skyrim のボエシアの信者も、自分たちの王を「策略卿、民を惑わす者、トリニマックを滅ぼす者」と呼んでいます。そのいきさつを、同じ Morrowind に入っている本『変容せし者』が語っています。トリニマックは長いあいだ、世界ができたことを嘆いて泣くのがいちばんだと、エルフの祖先に思い込ませていました。
“彼らは不在の神の名をみだりに唱え、その語りにまで疑いをかけた”
(They even took the Missing God’s name in vain, calling His narratives into question.)“ボエシアは原初の神々であるエドラの虚言を暴いて見せ、トリニマックが最大のうそつきなのだと彼らに伝えた。それもすべて、トリニマックの声のままで!”
『変容せし者』(Morrowind・Skyrim・ESO)より
(Boethiah showed them the lies of the et’Ada, the Aedra, and told them Trinimac was the biggest liar of all, saying all this with Trinimac’s voice!)
ボエシアは、トリニマックを騙して呑み込み、その声で、嘘をついていたのはエドラのほうだと説きました。最後には、自分の言葉がすべて真実だと示しています。不在の神の語りが嘘だと言われていたのを、ひっくり返した神です。カジートの古い僧アムン=ドロの目録でも、ボエシア(カジートの呼び名はボエスラ)はロルカージュの側にいます。
“ゴーストムーンの夜に、その名を口にしてはならない。その月相のあいだ、ボエスラはロルカージュの死装束をまとい、格子の向こうで戦っているからだ”
『アムン=ドロの精霊たち ──さまよう精霊』(ESO)より
(It is forbidden to say her name on nights of the Ghost Moon, as during these phases Boethra dons the death-shroud of Lorkhaj and wages war beyond the Lattice.)
ESO にある古いカジートの歌『ボエスラの剣の歌』は、二人の仲をもっとはっきり歌っています。第二巻では、デイドラの王モラグが、ロルカージュの斬られた首を骨の杖に掲げて現れ、ロルカージュはおまえのために死んだのだと、ボエスラを嘲ります。第五巻では、時が壊れた天の戦いのさなかに、ボエスラの胸に浮かんだのはロルカージュでした。
“過ぎたことの記憶と、まだ来ないことの幻が、彼女の心を焦がした。けれど何よりも強く浮かんだのは、ロルカージュへの愛と、頬に触れた彼の爪の感触だった。黒い炎がボエスラを包み、その身に黒檀の鎖帷子が現れた……そして肩には死装束が”
『ボエスラの剣の歌 第五巻』(ESO)より
(Memories of things past and visions of things yet seen scorched her mind, but more prominent than anything was her love for Lorkhaj and the feeling of his claw upon her cheek. A dark flame surrounded Boethra, and upon her form appeared ebony mail, … and upon her shoulders a shroud of death.)
ロルカージュを想ったボエスラの身に、黒檀の鎖帷子と死装束が現れました。『さまよう精霊』の言う「ロルカージュの死装束」は、これでしょう。Skyrim でボエシアのクエストを終えるともらえる秘宝も、黒檀の鎖帷子でした。エルフの本でも、カジートの本でも、ボエシアはロルカーンの味方で、カジートの歌では恋人でした。嘘つきと呼ばれたムアイクがただ一つ本当のことを教えたのは、不在の神の語りを嘘と言わせなかった神の祠だったのです。
月は存在しないと言う者の体が月だとしたら
ESO のムアイクは「月なんて存在しない。だから誰も行ったことがないんだよ」と言いました。ロルカーンの体の行方を書いた本『月のロルカーン』は、夜空の二つの月をロルカーンの体だと言います。
“要するに、二つの月は、かつても今もロルカーンの「肉の神性」の二つの半分なのである”
『月のロルカーン』(Morrowind・Oblivion・Skyrim・ESO)より
(In short, the Moons were and are the two halves of Lorkhan’s ‘flesh-divinity’.)
カジートの信仰では、二つの月とは別に、見えない三つ目の月「死の月」があり、それがロルカージュの亡骸です。カジートの創世神話の記事で書いたとおりです。ここからは、かなり踏み込んだ読みです。カジートの口伝の結びでは、二つの月の巡りが天に描く道、月の格子を越えるための「第一の秘密」が天のすべてに叫ばれたとき、アズラが二人の耳だけを閉ざしました。
“だがアズラは賢くも、怒れるアヌールと騒がしいロルカージュの耳を閉ざし、二人だけがその言葉を聞かぬようにした”
『我らが母アニッシの言葉』(Morrowind・Skyrim・ESO)より
(But Azurah, in her wisdom, closed the ears of angry Ahnurr and noisy Lorkhaj so they alone did not hear the word.)
ロルカージュは、月の格子を越える言葉を知りません。自分の体は月になったのに、自分だけは月の格子を越えられない者にとって、月は「存在しない」も同じなのかもしれません。「誰も行ったことがない」のも、自分の知るかぎりでは本当です。

体つきの謎も、この読みなら説明がつきます。カジートの体は、生まれた夜の月の満ち欠けが決め、月の司教は「その皮をほかの皮に替えることは許されない」と言っていました。けれど、格子の言葉を聞けなかったロルカージュは、月の格子の外にいます。自分の体が月になった者なら、月の決めた皮には縛られないのかもしれません。Morrowind のスーセイ=ラートから Oblivion のカセイへ、ムアイクの体が替わったのは、別人だからではなく、替えられる者だったからでしょう。
ESO のムアイクの、ほかの月の冗談も読み方が変わります。月の司祭たちの話は、その場その場で作ったものだ、とムアイクは言いました。カジートの僧たちは、ロルカージュの心臓の闇をどう見るかで、古くから言い争ってきました。話のたねにされている本人から見れば、作り話に聞こえて当然です。
竜の神と並べて自分を名乗った
Skyrim の台詞を、もう一度読みます。「アルドゥインはアカトシュだと言う者がいる。ムアイクは嘘つきだと言う者もいる。どっちも信じるな」。『モノミス』は、どの民の神々にも、必ず二つの型の神がいると書いています。
“それでもアヌとパドメイと同じく、これらの神々の列のどれにも、竜の神と不在の神という型がある”
『モノミス』(Morrowind・Skyrim・ESO)より
(Like Anu and Padomay, though, every one of these pantheons contains the archetypes of the Dragon God and the Missing God.)
竜の神は時の神アカトシュ、不在の神はロルカーンです。ムアイクは、竜の神の話のすぐ隣に、自分の話を並べていました。「ムアイクは嘘つきだと言う者もいる」は、エルフがロルカーンを詐欺師と呼んできたことに重なります。どちらも信じるな、と言うのは、詐欺師の烙印を押された当人だからでしょう。四つの作品で竜の話をし続け、「会った竜はみな自分の話しかしなかった」と言うのも、天地の初めから竜の神と向き合ってきた神なら、うなずけます。
英雄たちの手柄は誰のものだったのか
Castles のムアイクは、ダゴス・ウルを討ち、オブリビオンの動乱を収め、スカイリムの戦争を終わらせたと名乗りました。Skyrim と ESO のムアイクも、主人公の身に起きたことを自分の思い出として話していました。ロルカーンには、人の姿で歩く化身の話がたくさんあります。ESO の時代の遺跡の石板には、ひげの男が「シェザーリン、生きているショール、人の師」として刻まれていました。ESO の書物『シェザールの足跡』は、古い人間の口伝に何度も出てくる、名乗らない「見知らぬ者」をこう書いています。
“ネードの言い伝えには、古代の人間を助けに「見知らぬ者」がやって来る話が何度も現れる。この見知らぬ者は、師として、助言者として、そしてばらばらに戦うはずだった部族どうしを結ぶ者として来る。彼はショールのような戦士の王ではなく、ほかの者たちが自ら戦うよう奮い立たせる者である”
『シェザールの足跡』(ESO)より
(Time and again in Nedic folklore, a “stranger” arrives to help ancient Men. This stranger comes as a teacher, an advisor, and a maker of alliances between tribes who otherwise would have fought alone. He is not a warrior-ruler like Shor, but instead a figure who inspires others to fight for themselves.)
ムアイクは、どの時代でも主人公の前にふいに現れ、少しだけ役に立つことを教えて去っていきます。Morrowind ではボエシアの祠の場所を教え、Skyrim では「武器を二つ持ったら、受けようとするな。混乱するだけだ。二回叩くほうがずっといい」と戦い方を教えました。けれど自分は決して戦いません。Oblivion のムアイクは盗賊に襲われれば国境の外へ逃げ、Skyrim のムアイクは攻撃されても敵になりません。ふいに来て少しだけ教え、戦わずに去るところは、見知らぬ者によく似ています。
シロディールの人々は、同じ神をシェザールと呼びます。帝都の学者の書いた『シェザールと神々』によれば、シェザールは人間の側に立ってアイレイドと戦い、そのあと、なぜか歴史の舞台から消えました。ほかの土地の人間を助けに行ったのだろう、と本は言います。のちにアレッシアが人とエルフの神々をまとめ直したとき、ノルドを引き留めるために、シェザールはこう薄められました。
“最後に、彼は「人のあらゆる企ての背後にいる霊」になった”
『シェザールと神々』(Oblivion・Skyrim・ESO)より
(In the end, he had become “the spirit behind all human undertaking.”)
政治の都合で付いた呼び名ですが、ダゴス・ウルも、オブリビオンの動乱も、スカイリムの戦争も自分の手柄だと言う、Castles の大ぼらとは妙に相性のいい肩書きです。
英雄たちがロルカーンの化身や、その火花を宿した者だとすれば、彼らの手柄は、ある意味でロルカーンの手柄です。Skyrim の主人公ドラゴンボーンは、グレイビアードから、ショールの名においてイスミール(北の竜)と呼ばれています。Castles の「たぶん」は、嘘をごまかす一言ではなく、自分がどこまで英雄の中にいたのかを、自分でも測りかねている神の一言なのかもしれません。
嘘はくり返されて聞く猫の真実になる
ESO には、黄昏の詠唱者たちの心得を書いた本『黄昏の儀式と讃歌』があります。闇に落ちたカジートの霊ドロ=マスラは、抜かれたロルカージュの心臓の鼓動に合わせて踊る、と書いたあと、その鼓動をこう呼んでいます。
“ドロ=マスラが踊るのは、音楽ではなく、脈打つロルカージュの心臓の鼓動に合わせてだけだ。それは歌のない歌、暗く、誘う歌である。心臓の鼓動は嘘だ。くり返し、くり返し、やがてそれを聞く猫にとって真実となる嘘である”
『黄昏の儀式と讃歌』(ESO)より
(The dro-m’Athra dance to no music but the beating Heart of Lorkhaj. It is a song without song—dark and seductive. The heartbeat is a lie that repeats and repeats until it becomes truth to the cat who hears it.)
闇の心臓の嘘は猫を闇へ誘いますが、ムアイクのホラは誰も誘いません。それでも、くり返されるうちに聞く者の真実になる、という一点は同じです。Morrowind の「竜は見えないだけだ」は、四つの作品をまたいでくり返されるうちに、Skyrim で本当になりました。
ESO のムアイクの問い「真実は語る口で決まるのか、それとも聞く耳で決まるのか?」を、この本と並べてみてください。くり返しを聞いた猫にとって嘘が真実になるのなら、決めるのは口ではなく、耳の側です。ただ、闇の心臓の嘘が猫を闇へ引き込んだのに対して、ムアイクのホラは、聞く者を笑わせて、本当のことを少しだけ残していきます。
偶然かもしれませんが、もう一つ書き添えておきます。「騒がしいロルカージュ」の呪いを書いた『我らが母アニッシの言葉』の書き手は、Morrowind のデザイナー、ダグ・グッドールです。第二章で見たとおり、2001 年のチャットで、名の元になったマイク・リパリを「とても上手な嘘つき」と茶化したのは、そのグッドールでした。同じ年、グッドールはカジートの書店主ジョバシャの口を借りた取材で、カジートの名前の頭に付く字の意味を、こう説明しています。
“「M」や「Ma」は「子ども」か「見習い」、くだけた言い方では「まだ知らぬ者」を表す。見習いは何歳でもなれるので、誤解や、ジョバシャには訳せない冗談のもとになる”
三人の書店主への取材(2001 年 8 月)より
(“M” or “Ma” means “child” or “apprentice” or, in the vernacular, “virgin.” As an apprentice can be of any age, this leads to misunderstandings and jokes Jobasha cannot translate.)
M’ で始まる名前は、ほかのカジートにもたくさんあります。ムアイクの M’ だけを特別な印とは言えません。けれど、子どものころを覚えていない、なかったのかもしれない、と言う九百歳を超える猫の名前は、「子ども」から始まっていたのです。ジョバシャにも訳せない冗談は、ムアイクの名前そのものだったのかもしれません。
ペリナルを書いた開発者はムアイクを同じ列に並べた
ここまでに引いた『ペリナルの歌』の第6巻は、その胸には心臓がなかったと言う者たちの声を書き留め、それを、彼が「神話の残響」(myth-echo)である証しだとしています。この『ペリナルの歌』を書いたのも、カークブライトでした。
2014 年、カークブライトは r/teslore で、Skyrim のホワイトランの広場でタロスの教えを叫び続けるヘイムスカーのような者は、歴史のあちこちにいると書きました。それを受けて「ヘイムスカーが超越した真実の線に合わせたラジオなら、ムアイクは何に合わせたラジオなのか?」と聞かれ、こう答えています。
“そうだね、ムアイクもその一人だと思う。……とりあえずセレスティアル(マーベル・コミックの)と呼んでおこう。ペリナル、KINMUNE、ヘイムスカー、ムアイク……どれも半ば意識を持った、いつでもそこにある「ピン」で、発信元は……さあ、分からなくなった”
マイケル・カークブライトの書き込み(r/teslore、2014 年 3 月 31 日)より
(Yes, I think that M’aiq is another one of these… let’s just call them Celestials (Marvel Comics) for now. Pelinal, KINMUNE, Heimskr, M’aiq… all semi-sentient ever-present “pings” from… idk I just lost it)
ヘイムスカーが叫ぶタロスは、人から神になった皇帝で、ロルカーンの道をなぞったと読む人もいます。KINMUNE は、カークブライトの書いた、遠い未来から過去のタムリエルへ飛ばされた機械の物語の主人公です。ペリナルの歌を書いた開発者は、ムアイクを、ロルカーンの化身ペリナルと同じ列に並べていたのです。そして少しあとの書き込みで、こう言い直しています。
“考え直すと、彼らはアカトシュに縛られた時間から外して、ムンダスに縛られた空間へ移すだろうね。いや、コンヴェンションのほうが近いか。ラジオ塔に跳ね返る電波のようなものだ”
マイケル・カークブライトの書き込み(r/teslore、2014 年)より
(On further reflection, I’d probably remove them from time-as-bound-by-Aka and move them to a space-bound-by-Mundus. Or the Convention, more like. Something like radio signals bouncing off radio towers.)
アカトシュは時の神で、ロルカーンの永遠の相手です。ムンダスは、ロルカーンが作らせた定命の世界です。そしてコンヴェンションは、神々が塔に集まってロルカーンを裁き、心臓を抜いた会議のことです。ムアイクは、竜の神の時間には縛られず、ロルカーンが裁かれたコンヴェンションに縛られて、塔から塔へ跳ね返る電波のようなもの、とカークブライト自身が書いていたのです。自分の書いたペリナルを「神話の残響」と呼んだカークブライトが、ムアイクを、塔に跳ね返る電波にたとえています。どの時代にも現れ、九百年の暦に縛られないムアイクは、その電波が時代という塔に当たって返ってきた声なのかもしれません。
第六章:ロルカーン説を疑ってみる
ここまでの読みは、都合のいい所だけを拾ったものかもしれません。ムアイクがロルカーンだと考えると困ることは、ないのでしょうか?
カジートにとってロルカージュは闇の側ではないのか
まず考えられる反論は、これです。先の『黄昏の儀式と讃歌』で、ロルカージュの心臓の鼓動は、カジートを闇へ誘い、ドロ=マスラに変えてしまうものでした。カジートにとってロルカージュは、敵の側の神です。2019 年に海外の考察動画が、ムアイクをロルカージュとする別の動画に反論したときも、この点を突いていました。陽気で人を傷つけないムアイクが、闇の神であるはずがない、というわけです。
けれど、第五章の初めで見たとおり、カジートの書物では、闇はロルカージュ本人ではなく、心臓の中にありました。きょうだいを騙したのも闇で満ちた心臓のときで、その心臓は抉り出されて大地の奥に隠されています。古い僧アムン=ドロの目録も、カジートの創世神話の記事で見たとおり、ロルカージュを二つに分けて書いていました。精霊たちを奮い立たせて世界を造らせた英雄と、闇の心臓から生まれた月の獣です。
ただ、ESO には、もう一つ困る話があります。家に客として招ける氏族の母タダリは、こう注意します。
“闇で踊る者、ドロ=マスラに用心なさい。あの者たちはいろいろな姿で現れ、旅の者を道から誘い出して喜ぶのです”
氏族の母タダリの台詞(ESO)より
(Beware of the dro-m’Athra, the Dancers in the Dark. They come in many guises and delight in tempting travelers from the Path.)
黄昏の詠唱者の長アダラハイも、心臓の鼓動に合わせて踊る者はこちらを騙そうとするから信じるな、と言います。ESO で、姿を変えてカジートの中を歩き、口で騙すのは、ロルカージュの心臓の鼓動に引かれた者たちです。ムアイクを人の姿で歩くロルカージュと読むと、ESO の言い伝えでは、ドロ=マスラの側に入ってしまいます。
ニルニを歩けと呪われたのは、心臓を抜かれたあとのロルカージュです。闇を詰めた心臓は大地の奥に置き去りにされました。歩いているのは闇を抜かれた側だ、というのが、母アニッシの口伝を順に読んだこの記事の読みです。それなら、いつも陽気で、誰も傷つけず、会うたびに「幸運を祈る」と声をかける猫の姿は、むしろよく合います。ドロ=マスラは旅の者を道から誘い出しますが、ムアイクは誰も道から連れ出しません。心臓の鼓動の嘘は猫を闇へ誘いますが、心臓のない神の嘘は、猫を笑いへ誘うのだと思います。
いまのカジートの僧たちも、反論と同じく、ロルカージュを闇の側に置いています。そのうえで僧たちがいちばん恐れたのは、笑うロルカージュでした。正統の教えリドルサールの僧トーヴァ=コは、アムン=ドロの目録が、最初のドロ=マスラである月の獣ロルカージュを民の英雄としてたたえるのを、こう戒めています。
“どんな盗人も知っている。獲物の財布へいちばん早く届く道は、笑顔から始まるのだと。笑うロルカージュは、思い描くことさえ危うい”
『アムン=ドロの精霊たちについての書簡 第一巻』(ESO)より
(Any thief can tell you that the surest path to a victim’s purse starts with a smile. A smiling Lorkhaj is too dangerous to contemplate.)
リドルサールを開いた初代メイン、リド=サール=リ’ダッタも、ロルカージュのたくらみは隠れていない、と書き残しました。
“ロルカージュのたくらみは、目の端に潜んでいるのではない。あまりにありふれて目立たないので、子猫のように素直に本当だと受け取ってしまうほど、堂々と人前に寝そべっているのだ”
『リドルサールの秘密』(ESO)より
(Lorkhaj’s inventions do not lurk at the corners of our sight. They lounge in plain view—so common and unassuming that we accept them as truth with a kitten’s simplicity.)
僧たちが恐れたのは、闇をむき出しにしたロルカージュではなく、笑顔で人前に寝そべり、ありふれた顔で本当だと思わせるロルカージュでした。街道で向こうから歩いてきて「ムアイクは、おまえの幸運を祈る」と笑い、誰にも疑われずに去っていく猫は、その姿によく似ています。僧たちの言うとおり、ロルカージュは笑う神です。闇の心臓を抜かれたあとなら、罠のない笑顔だった、と読むこともできます。陽気なことは、ムアイクがロルカージュでない証しにはならないのです。
心臓を抜かれたロルカージュは死んだのではないか
二つ目の反論は、もっと困る伝えです。同じアムン=ドロの書いた、ESO の拡張 Dragonhold の書物『ファドマイの寵愛の娘』(The Favored Daughter of Fadomai)は、最初のドロ=マスラが生まれたいきさつを語ります。母ファドマイを亡くしたアズラが、自分の涙でできた海の向こうに、飢えた闇へ開く黒い門を見た場面です。
“ロルカージュが戸口に立っていた。体は砕け、血を流し、胸には穴が開いていた。けれど大いなる闇はまだ血の中に残っていて、心臓のあった穴を満たしていた”
(Lorkhaj stood in the doorway. He was broken and bleeding, and there was a hole in his chest. But the Great Darkness was still in his blood, and it filled the hole where his heart had been.)“アズラはロルカージュの闇の心臓を引き抜いた。彼の中の闇は、すべてそれと一緒に出ていった”
(And Azurah tore out the dark heart of Lorkhaj, and all of the darkness in him came with it)“闇が流れ出ると、アズラはロルカージュの中に母の面影を見た。そして、彼が息絶えるまで抱いていた”
(And with the darkness bled from him, Azurah could see her mother in Lorkhaj, and she held him until he died.)“ロルカージュの灰が格子じゅうに散ると、月の獣でさえ、しばらくのあいだ黙った”
『ファドマイの寵愛の娘』(ESO)より
(As the ashes of Lorkhaj scattered across the Lattice, even the Moon Beast became silent for a time.)
闇を抜かれたロルカージュは、アズラの腕の中で息を引き取り、門の前で焼かれています。「ニルニを歩け」と呪われたはずの神が、この伝えでは灰になっているのです。ロルカーンが猫の姿で歩いているなら、この死は合いません。
ESO の本編でも、カジートは同じことを言います。アルドメリ・ドミニオンのメインクエストの終わりで、月の勇者の双子は二つの月の道を歩き終えます。そして、その先の三つ目の月、死の月こそロルカージュだと明かして、こう続けます。
“言い伝えでは、不在の神は死んでいる。あの巣は……あれは彼の体なんだ。巣の大きな空洞は、死んだ神の朽ちていく亡骸だ”
双子のカーリかシャザーの台詞(ESO のクエスト「The Den of Lorkhaj」)より
(Legend says that the Missing God is dead. That the Den … it is his body. The great emptiness of the Den is the decaying corpse of a dead god.)
このあとプレイヤーは、その亡骸、ロルカージュの巣(Den of Lorkhaj)の中へ入っていきます。ESO のカジートにとって、ロルカージュは死んで朽ちていく神です。
ただ、カジートの言葉では、「ニルニを歩く」は、生きている者の歩みだけを言うのではありません。月の司教アジン=ジョは、神々の道を外れた者は、闇の中で永遠に踊り続けるか、ドロ=マスラとしてニルニを歩くことになる、と言います。ESO で旅の仲間にできるゼリス=ヴァールは、第一紀から時を越えて送られてきた、隠れた月の教団の死霊術師です。そのゼリスも、霊たちはもう一度ニルニを歩いて、生前の過ちを償いたがっている、と話します。死んだ者の霊が去らずにこの世にとどまることも、カジートは「ニルニを歩く」と言うのです。
そう読むと、母アニッシの呪いも、心臓を抜かれて死んだ神の霊を、多くの月相のあいだこの世にとどめる呪いだったのかもしれません。それなら、灰になった神と、ニルニを歩けと呪われた神は、ぶつかりません。
それでも、灰になったのか、朽ちていく亡骸になったのか、最期の語り方は伝えごとに違います。カジートの言い伝えが食い違うのは、珍しいことではありません。ESO のロアを率いたローレンス・シックは、2015 年の配信で、言い伝えはいつも作中で暮らす人の立場から語られるので食い違う、と話し、こう続けています。
“ここは神話の世界だ。現実そのものが変わりうる世界なんだ”
(This is a world of myth. This is a world where reality is actually changeable)“だから、いろいろな人の話を聞いて、自分で考えを決めてほしい”
ローレンス・シックの言葉(ESO Live、2015 年)より
(So listen to what all these different people have to say, make up your own mind)
灰も亡骸も、どちらかが嘘なのではなく、語るカジートごとの本当です。月の司教フナルも、神話は本当であると同時にただのたとえでもあり、多くの話は答えが一つではない謎だ、と答えています。そのうえで、同じアムン=ドロの目録が、火葬のあとのことを書いています。
“賢いアズラは、兄の火葬の火をジョーンとジョードの二つの灯で灯した。だからロルカージュのまことの魂は、ときおり現れる。ただし、アズラかケナーシに呼ばれたとき、あるいは、そのいちばん古い名で呼ばれたときだけだ”
『アムン=ドロの精霊たち ──天の精霊』(ESO)より
(In her wisdom, Azurah lit her brother’s pyre with the Twin Lanterns of Jone and Jode, and thus the true spirit of Lorkhaj will sometimes appear—but only when called by Azurah or Khenarthi, or by his oldest name.)
焼かれたあとも、ロルカージュのまことの魂は、ときおり現れるのです。ジョーンとジョードは、カジートの呼ぶ二つの月です。ただし、現れるのは、アズラか風の女神ケナーシに呼ばれたときか、いちばん古い名で呼ばれたときだけです。では、街道を歩くムアイクを呼んだのは誰なのでしょうか? 同じ目録の『闇の精霊』では、アズラがまことの魂を呼び、闇へ逃げた精霊ノクトラを探す使いに出しています。
ただし、まことの魂には、別の読みもあります。ゼリス=ヴァールは、死の月の神殿のことを聞かれて、こう答えます。
“死の月こそ、ロルカージュのまことの魂だ。アズラの恵みで許され、月の格子の守り手になった”
ゼリス=ヴァールの台詞(ESO)より
(The Dark Moon is the true spirit of Lorkhaj. Redeemed and made protector of the Lunar Lattice by Azurah’s grace.)
隠れた月の教えでは、死の月は亡骸ではなく、まことの魂そのものです。月の勇者の双子によれば、三つ目の月は、何年かに一度、二つの月が並んだときにだけ現れます。そう読むと、「ときおり現れる」のは空の三つ目の月で、街道を歩く猫の出る幕はありません。
けれど、死んだ神の魂が人の前に現れるという伝えは、ほかの民にもあります。第五章で見たとおり、リーチの民は、ロルクがいまも定命の者たちのあいだを歩き、ごくたまに姿を見せると伝えています。人間の古い民ネードの言い伝えでも、シェザールの足跡とされる名乗らない「見知らぬ者」が、古い人間を助けに何度もやって来ます。カジート、リーチの民、ネードの三つの民が、心臓を失った神の魂は、ときおり人の前に現れると伝えているのです。まことの魂を空の月と見るのは、隠れた月の教えの見方です。ほかの民は、同じ神の魂を、人のあいだを歩く者として伝えてきました。
それに、まことの魂は、空にかかっているだけでもありません。『闇の精霊』では、アズラに呼ばれて闇の中まで使いに出されていました。隠れた月の教えでも、ゼリスは、ロルカージュの呼び声を聞いてアズラに仕えたと言い、僧たちは、この魂を頼りに闇を抜けて、魂を渡し場へ導きます。闇を抜かれたロルカージュは、許されて、人を呼び、導く側に回った神です。騙す者でなくなった神が、人を笑わせて歩く猫になっていても、おかしくはないと思います。
カジートの創世神話の記事では、『天の精霊』のまことの魂の一文を、一つの証しとして読みました。ロルカージュは、生まれてくるカジートの体には宿り直さない、という証しです。宿り直すのではなく、呼ばれて現れる。それなら、ムアイクの体が作品ごとに違うのも、第五章で見たとおり、月の決めた皮に縛られない者だからでしょう。歩けと呪われた伝えでも、灰や亡骸になった伝えでも、死の月になった伝えでも、ロルカージュは消えずに、カジートの世界の中に残っているのです。
一族の笛はどう説明するのか
三つ目の反論は、ESO の笛です。「ムアイクから、その息子ムアイクへ」と彫られた笛がある以上、ムアイクは親から子へ名を継ぐ、ふつうのカジートの一族ではないか、という読みです。
作中には、この読みを後押しする書物もあります。カジートとボズマーが盗賊の神と呼ぶバーン・ダー。その名で動く男に救われ、一年のあいだ弟子として連れ歩かれた書き手が残した『バーン・ダーの第一の巻物』(Daggerfall・ESO)です。不死で千の顔を持つと言われたバーン・ダーの正体を、こう明かしています。
“だから伝説のバーン・ダーは、困ったときに、あちこちの土地で、何度も、それも同じときに見られてきた。その姿を突き止めてたどるのがひどく難しいのも、そのためだ。まことに、この世にはバーン・ダーが大勢いたし、いまも大勢いるのだから”
(Thus has the Legendary Baan Dar been seen time and again in various lands of our world at numerous and the same times in days of need. Thus also is the description so very hard to obtain and track – for in truth, there have been, and continue to be, many Baan Dars in the world.)“一人の男でもなければ、神でもない。地にまかれ、育って森になるにまかされた、種の連なりなのだ”
『バーン・ダーの第一の巻物』(Daggerfall・ESO)より
(not a single man nor God at all, but a string of seeds sown upon the land and left to grow into a forest.)
名を継いだ大勢が、一人の不死の者に見えていた、というのです。ムアイクの九百年も、毛並みの替わりも、笛の銘も、この型なら神を持ち出さずに説明がつきます。
笛の銘は、ロルカーンの側からも説明がつきます。第五章で見たとおり、ロルカーンの化身と噂されたペリナルは、すでに二度人の身に宿ったと噂された「三人目」でした。カークブライトの『ショールの子ショール』でも、ショールは死ぬたびに自分の父になり、自分の子として生まれ直します。父から子へ名を継ぐことと、同じ者が生まれ直すことは、ロルカーンの物語では同じことなのです。ESO の「兄弟のナイク」も、同じ者が別の名で現れた姿なのでしょう。ロルカーンも、民ごとに七つの名で呼ばれてきた神です。
それに、バーン・ダーの型には、ムアイクと合わない所があります。巻物は、どのバーン・ダーにも答えられないことが多い、同じ名でほかの者がしたことだからだ、とも書いています。名と務めは継いでも、前の者の思い出までは継がないのでしょう。ムアイクのほうは、オールドゲートがただの「ゲート」と呼ばれていたころを、自分の思い出として話していました。名だけを継いだ大勢なら、何千年も前の関所の呼び名までは覚えていないはずです。
ただの開発者の冗談ではないのか
四つ目は、身もふたもない反論です。ムアイクは、開発者がカメラに向かってウインクするために置いた冗談のキャラクターで、そこに神話を読み込むのは考えすぎではないか。
その通りです。ムアイクは、作り手の口です。ただ、ここで二つの読みは、ぶつかるのではなく重なります。ムアイクは、作り手が作った世界の中を歩きながら、その世界が作り物だと知っていて、外の話をする者でした。ロルカーンは、神々に世界を作らせ、自分は心臓を抜かれて、その世界の中を歩き続ける者です。世界を作った者が、自分の作った世界の中を歩きながら、その世界の秘密を少しだけ話す。ゲームの外から見ても、ゲームの中から見ても、ムアイクは同じ形をしています。ロルカーンは、心臓を大地の奥に、体を夜空の月に残して、自分の全部を世界に散らばらせた神です。そのかけらの一つが、騒がしい猫の姿で、作り手の言葉を話しているのだとしたら。開発者の冗談とロルカーン説は、同じ一つの話になります。
TES の生みの親の一人で、Arena と Daggerfall を作ったテッド・ピーターソンは、2021 年の YouTube の取材でムアイクの生まれを聞かれました。答えは「いや、正直、あれは私じゃない」です。そのうえで、ゲームに入れるロアについて、こう話しています。
“深く潜っている人は、簡単な答えなんてほしくない人だ。……ゲームにロアを入れるなら、探る見返りがあって、いろいろな説が立てられるものにするべきなんだ”
テッド・ピーターソンの言葉(2021 年の取材)より
(if you’re already doing a deep dive then you’re somebody who doesn’t want a simple answer … then you should make it something that there’s some rewards to explore and offer different theories on)
答えを書かずに残しておくことも、作り手の仕事だったのです。
盗賊の神ラジンではないのか
五つ目は、ロルカーンではない別の候補、カジートの盗賊の神ラジンです。2022 年の海外の考察動画は、ムアイクをラジンか、ラジンから分かれた一部だと読んでいます。根拠は、こうです。
- 呼び名:ラジンは「喉を鳴らす嘘つき」(the Purring Liar)、「歩く猫」(the Cat Who Walks)と呼ばれます。嘘つきで、歩き続ける猫です
- 足の速さ:ラジンは、速さとずる賢さの化身と書かれる神です。Oblivion のムアイクは、足の速さと走る力がどちらも最高の
100で、走って追いつくことはまずできません - 影:ESO には、ラジンの姿を分けた「ラジンの影」が出てきます。母アニッシは、ラジンが多くの影を落とし、そのいくつかは自分の命を持ったと教えています。ムアイクも、そうした影の一つではないか
- 笛のありか:「ムアイクから、その息子ムアイクへ」の笛があるのは、ノクターナルの領域の一角クロウズ・ウッドです。デイドラの王たちの領域に忍び込み、秘宝を盗んだラジンなら、行ける場所です
似た所は、ほかにもあります。ESO に影の姿で現れるラジンは、エルスウェアの町リメンが、まだリムカと呼ばれていたころを覚えていると話します。オールドゲートを「ゲート」と覚えているムアイクと、よく似ています。動画は、ロルカージュ説も取り上げています。心臓を抜かれたまま多くの月相のあいだ大地を歩く「いたずら者の抜け殻」という読みです。そのうえで、「ニルニを歩け」はペリナルのような化身のことだとして退けています。
けれど、ラジンには子どものころがあります。エルスウェアの港町センシャルの貧しい一角で育ち、若いころの恋の思い出まで語っています。人の身で生まれ、盗みの腕で神の座に上った者です。子どものころがなかったかもしれないと言う Skyrim のムアイクとは、そこが合いません。ただ、第四章で見たとおり、ESO のムアイクは若いころの話もしているので、これだけでは決め手になりません。しかも、そのラジン自身が、ロルカージュを「最初のいたずら者」と呼んで敬っていました。嘘つきの神がラジンなら、ムアイクは、そのラジンが頭を下げるほうの、最初のいたずら者です。
第七章:海外ではどう読まれてきたか
ムアイクがロルカーンではないか、という読みそのものは、海外でも十年ほど前から出ています。
- 2013〜14 年の r/teslore の連作「The Proctor」:五回にわたって、ムアイクを、夢見る神アヌが自分の夢の中に置いた試験官と読みました。夢の外を知っているから、夢の中に無い物(馬やマルチプレイヤー)の話をする、という読みです。名前の M’ が「子ども」を表すことにも触れています。ロルカーンとは正反対の、変わらないものの神アヌを当てた読みです
- 2016 年の r/teslore:ロルカーンが「いたずら者」と呼ばれることと、カジートの「ニルニを歩け」の呪いを根拠に、ムアイクをロルカーンかその化身と読みました。返信では、「ムアイクの子ムアイク」が「ショールの子ショール」に似ていると指摘されています。神であることも力も仲間も失った者に、笑ってさまよう以外に何ができるだろう、という返信もありました。
- 2018 年の YouTube の考察動画:子どものころがないのは神だから、魂を縛られた話と石に縛られた話はロルカーンの心臓のこと、と読み、カジートの創世神話を中心に据えました。
- 2019 年の反論の動画:上の動画に、カジートにとってロルカージュは闇の側だと反論しました。ムアイクの話は、カジートを惑わす撒き餌かもしれない、という読みです。
- 2019 年の ESO の公式フォーラム:「ムアイクの子ムアイク」と「ショールの子ショール」を並べ、「ニルニを歩け」を引いて、ムアイクをロルカージュの小さな一面とする投稿がありました。
- 2020 年の r/teslore:ロルカージュは騙す者で、ムアイクは嘘つき、と並べ、月が体、化身が魂なら、ムアイクは心ではないかと読みました。亡骸を毎晩空にさらしたまま、生きた猫の嘘つきとして歩いているなら、騙しの神にとって最大のいたずらだ、という一文もあります。母アニッシの口伝と『ファドマイの寵愛の娘』を読んで腑に落ちた、という返信もあります。
- 2022 年の YouTube の考察動画:上の節のとおり、ムアイクを盗賊の神ラジンと読みました。ロルカージュ説は、心臓を抜かれたまま歩く抜け殻として紹介し、退けています。
ここまでの手がかりのうち、名前と「いたずら者」、歩く呪いと、心臓を抜かれたまま歩く抜け殻という読み、父と子の名、魂を石に縛られた話は、海外ですでに結びつけられていました。一方、次の十一の結びつきは、海外でロルカーン説の根拠にされた例が見つかりませんでした。見たのは、Reddit の 38 のスレッド(r/teslore・r/skyrim・r/ElderScrolls)と、YouTube の考察動画 16 本、ESO の公式フォーラムです。
| ムアイクの側 | ロルカーンの側(書物と言葉) |
|---|---|
| 「月なんて存在しない」、体つきの変化 | 第一の秘密を聞けなかったロルカージュ、月の体 |
| 「アルドゥインはアカトシュだと言う者がいる」 | 『モノミス』の竜の神と不在の神の対 |
| Castles の英雄たちの手柄 | 見知らぬ者、「人のあらゆる企ての背後にいる霊」 |
| 「真実は語る口か、聞く耳か」 | 『黄昏の儀式と讃歌』の、聞く猫にとって真実になる嘘 |
| カークブライトの書き込み(2014 年) | ペリナルと同じ列、「神話の残響」 |
| 父も父の父もムアイク(三人目) | 二度宿った神の化身ペリナル・サード |
| たまにしか会えない | 『天の精霊』の、ときおり現れるまことの魂。いまも人のあいだを歩くリーチのロルク |
| いつも陽気で、隠れずに街道を歩く | トーヴァ=コの「笑うロルカージュ」、人前に寝そべるたくらみ |
| ただ一つの本当の話、ボエシアの祠 | 『変容せし者』のボエシア、ロルカージュを愛したボエスラ |
| 「嘘つき」と呼ばれる名 | リランスたちがロルカーンに貼る「嘘つき」の札 |
| 「魂を縛られた」 | 『評論・深遠の暁』の最初の塔の命令 |
ムアイクは心臓を抜かれたロルカーンの歩く姿だと思う
はじめの問いに戻ります。ムアイクとは、何者なのでしょうか?
ムアイクは、心臓を抜かれて闇を手放し、騒がしいまま、自分の作らせた世界を歩き続けるロルカーンの姿なのだと思います。
一族の名だと考えると、笛は説明できても、何千年も前の門の名を覚えていることが説明できません。不死の一人だと考えると、記憶は説明できても、月が決めたはずの体が替わったことが説明できません。デイドラの王や CHIM に至った者だと考えるには、書物の手がかりがありません。開発者の冗談だという読みは正しいのですが、それはロルカーンと同じ形をしていました。ロルカーンだと考えると、嘘つきの名、九百年の命、二つの体、父と祖父、月の冗談、英雄たちの手柄、くり返されて本当になる嘘が、一つの話としてつながるように思います。
もちろん、ゲームの中に「ムアイクはロルカーンである」と書いた文は一つもありません。ロルカーン本人なのか、ペリナルのような化身なのか、カークブライトの言う、コンヴェンションから跳ね返ってくる声なのかも、決めることはできません。ただ、どれであっても、あの猫の中にいるのはロルカーンなのだと思います。
さいごに
最後に、ムアイクがロルカーンだとしたら、という話を、初めから一続きにしておきます。ここからは、ここまでの手がかりを一つの物語としてつないだ、この記事なりの答えです。
ロルカーンは、きょうだいの神々を騙して、定命の者が生きる世界を作らせました。その罰に心臓を抜かれ、多くの月相のあいだ大地を歩けと呪われます。闇を詰めた心臓は大地の奥に残され、闇を抜かれたロルカーンは、騒がしい猫の姿で歩き始めました。カジートのもう一つの伝えでは、闇を抜かれたロルカージュは一度息絶えて焼かれました。けれど、アズラが火葬の火を二つの月の灯で灯したので、そのまことの魂は、ときおり現れます。自分の体は夜空の月になりましたが、月の格子を越える言葉を聞けなかったので、その向こうへは行けません。だから猫は「月なんて存在しない」と言います。
猫は、どの時代にも、ごくたまに英雄の前に現れては、少しだけ役に立つことを教え、自分は戦わずに去っていきます。英雄たちの手柄を自分の思い出のように話すのは、英雄たちの中に、自分の火花が宿っているからでしょう。話すのは、世界の外のことばかりです。自分の作らせた世界がどう作られているのかを、知っているからでしょう。住人にはわけの分からないホラに聞こえるので、猫は嘘つきと呼ばれるようになりました。それでも猫は話し続け、くり返された嘘は、やがて本当になっていきます。消えていた竜も、本当に戻ってきました。
つまり、ムアイクがロルカーンなら、彼が言いたかったことは、ESO の問いに詰まっています。真実は、語る口ではなく、聞く耳が決める。この世界は、ロルカーンの嘘から始まりました。エルフはそれを、神々を騙して身を削らせた罠と聞き、人間はそれを自由と聞きました。同じ嘘を、罰と聞くか、贈り物と聞くかは、聞く者しだいなのです。
個人的には、ムアイクの台詞でいちばん重いのは、Skyrim の「おまえも、たまにはそのことを考えてみるといい」だと思います。世界を作らせた神が、その世界で生きる者に、自分たちが何に縛られているのかを、冗談に混ぜて思い出させているように聞こえるからです。
ESO で全部の地方を回ってムアイクを探し当てた人には、家に招いたムアイクが、こう言います。
“また会えてうれしいよ、友よ! どこで会ったんだったかな? グラーウッド? シャドウフェン? まあいい。ムアイクは嘘つきと呼ばれるかもしれないが、この言葉は本当だ。ムアイクはおまえが好きだ。……そういう意味じゃない。きょうだいのようにな”
ムアイクの台詞(ESO)より
(Good to see you again, friend! Where was it we last met? Grahtwood? Shadowfen? No matter. M’aiq may be called the Liar, but these words are true. M’aiq loves you. No not like that. Like a sibling, yes?)
ムアイクがロルカーンだとしたら、この台詞の重さは変わります。きょうだいを騙して世界を作らせた神が、九百年歩いたあとで、自分を探し当てた者を、きょうだいのように好きだと言っているのです。そして Skyrim のムアイクは、話しかけると、たいていまずこう言います。
“ムアイクは、おまえの幸運を祈る”
ムアイクの台詞(Skyrim)より
(M’aiq wishes you well.)
参考文献
台詞・クエスト・作り手の言葉は、英語圏の TES 事典 UESP の記録に、書物はインペリアル・ライブラリ(The Imperial Library)の本文につないでいます。訳はすべて当記事によるものです。
- ムアイクの台詞と姿
- Morrowind のムアイク
- Oblivion のムアイク
- Skyrim のムアイク
- ESO のムアイク
- Castles のムアイク
- ムアイク(ロアの記事)
- ムアイク(作品をまたいだまとめ)
- ボエシアのクエスト(Morrowind)
- クエスト「Decree of the Court」(ESO)
- 実績「I Like M’aiq」(ESO)
- 行けない小部屋 Elsweyr(Skyrim)
- カジートの名前の決まり(頭の M’ の意味)
- ペット「ムアイクのアナグマ」(ESO、未発売)
- Skyrim の過去作への言及(ウィランドリアのはさみ尺)
- ベセスダのサポートの回答「Where does M’aiq the Liar spawn in Coldharbour?」(ESO)
- 嘘の一覧の裏づけ
- ほかの人物の台詞
- 書物
- 『我らが母アニッシの言葉』(Words of Clan Mother Ahnissi)(UESP)
- 『モノミス』(The Monomyth)(UESP)
- 『月のロルカーン』(The Lunar Lorkhan)(UESP)
- 『カグレナックの道具』(Kagrenac’s Tools)(UESP)
- 『黄昏の儀式と讃歌』(Twilight Rites and Hymns)(UESP)
- 『シェザールの足跡』(The Footsteps of Shezarr)(UESP)
- 『リーチの大いなる霊 第5巻』(Great Spirits of the Reach: Volume 5)(UESP)
- 『ファドマイの寵愛の娘』(The Favored Daughter of Fadomai、ESO)
- 『様々な宗派:カジート』(Varieties of Faith: The Khajiit、ESO)
- 『アムン=ドロの精霊たち ──天の精霊』(The Sky Spirits、ESO)・──闇の精霊・──さまよう精霊
- 『アムン=ドロの精霊たちについての書簡 第一巻』(ESO)
- 『リドルサールの秘密』(Secrets of the Riddle’Thar、ESO)
- 月の司教フナルの答え(ロアマスターズ・アーカイブ)
- 『変容せし者』(The Changed Ones、Morrowind・Skyrim・ESO)・クエスト「ボエシアの呼び声」(Skyrim)
- 『ボエスラの剣の歌』第二巻(The Bladesongs of Boethra、ESO)・第五巻
- 『ペリナルの歌』第1巻(The Song of Pelinal、Oblivion・Skyrim・ESO)・第4巻・第6巻
- 『シェザールと神々』(Shezarr and the Divines、Oblivion・Skyrim・ESO)
- 『評論・深遠の暁』第3巻(Mythic Dawn Commentaries 3、Oblivion・Skyrim)・マンカー・キャモランの台詞(Oblivion)
- 『順を追った真実』第1巻(The Truth in Sequence、ESO)
- 『バーン・ダーの第一の巻物』(The First Scroll of Baan Dar、Daggerfall・ESO)
- ドレモラのリランスの答え(ロアマスターズ・アーカイブ、ESO)
- 作り手の言葉
- 『PC Zone』2006 年 8 月号「Tales from the Edge of Oblivion」(トッド・ハワード)
- Morrowind 開発チームのチャット(2001 年 4 月)
- 三人の書店主への取材(2001 年 8 月、ダグ・グッドールほか)
- ESO「Ask Us Anything: Variety Pack 11」(2013 年)
- ESO Live のローレンス・シックの回(2015 年)
- ピート・ハインズの書き込み(2016 年)
- シェーン・リーゼガングの書き込み(2017 年)
- マーク・ネルソン(2025 年の配信)
- Filmdeg Miniatures「The Elder Scrolls III: Morrowind – An Oral History from the Game Developers」(2025 年、ネルソンは 2:16:41〜、ロルストンは冒頭と 48:55)
- Skyrim の開発者への公開の質問会「Meet the Devs of Skyrim」(2011 年ごろ、リカルド・ゴンザレス)
- テッド・ピーターソンへの取材(YouTube の ESOdanny、2021 年 1 月。ムアイクの話は 50:20〜)
- マーク・ネルソンの開発日記「Elder Scrolls 3 Morrowind Dev Diary VII」(2001 年 9 月、VoodooExtreme)
- マイク・リパリ
- ダグ・グッドール
- 非公式ロアと海外・日本の考察
- マイケル・カークブライトの書き込み(r/teslore、2014 年)・続き
- 『ショールの子ショール』(Shor Son of Shor、マイケル・カークブライト、2011 年)
- 『KINMUNE』(マイケル・カークブライト、2011 年)
- r/teslore「M’aiq the liar is Lorkhan/a shezzarine」(2016 年)
- r/teslore「M’aiq the Lorkhaj?」(2020 年)
- ESO 公式フォーラム「Mai’q The Liar: Origin?」(2019 年)
- YouTube「M’AIQ THE LIAR’S REAL IDENTITY!」(2018 年)
- YouTube「Response to MrRhexx: M’aiq the Liar’s True Identity」(2019 年)
- YouTube「M’aiq the Liar EXPOSED 20 Years Later」(2025 年)
- YouTube「NPCpedia: M’aiq the Liar」(2022 年)
- YouTube「You’re Wrong About M’aiq the Liar」(2022 年)
- r/teslore「M’Aiq and CHIM」(2012 年)
- r/teslore「M’aiq the liar holds the role of TES’ Tom Bombadil」(2019 年)
- r/teslore「The Proctor」(2013 年 12 月)・II・III・IV・V(2014 年 8 月)
- そのほか
- DMM 版 ESO「ESOキャラクター人気投票2025」
- Nexus Mods「Male Beast Voice Variety」(Oblivion Remastered)
- ロバート・A・ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』(1966 年)










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