魔術師ギルドを作ったヴァヌス・ガレリオンが、サイジック会のアルテウムで過ごした日々と、マニマルコの追放、島が消えたいきさつを学生たちに書き残した本。ESO の本。
『失われたアルテウム』
Artaeum Lost
『失われたアルテウム』の詳しい説明
農奴の暮らしからサイジックに救われて島へ来た喜び、好敵手マニマルコとの出会い、何事にも動かない会への失望、セポラタワーでの死霊術の儀式、イアケシスがマニマルコを閉じこめずに追放したこと、島が数時間後に消えたことを振り返り、会が戻るまで魔術師ギルドが道を示せと結ぶ。
『失われたアルテウム』の全訳
アルテウムのサイジックの島で過ごした日々のことを、私はめったに語らない。この年と気性では、そうした思い出は煩わしく、気がふさぐ――医者の言い方を借りれば、消化に悪い。それでも、われらのギルドがどこから来たのかを学生たちにいくらかでも伝えるのは、私の務めだろう。
私をよく知る者は、私がアルテウムの生まれでないことを知っている。そう、私はサマーセット島で、癇の強い上級公のもとで働かされる、みじめな暮らしの中で育った。その暮らしは長く続かなかった。あるいきさつでその暮らしを捨てることになり、まもなくサイジックが私の才を見いだした。彼らは、おまえの昔の暮らしは終わったと言った。見つかるのを恐れて床板の下に本を隠すことも、もう無い。干し草をかき集めることも、膝をすりむく台所仕事も、もう無い。これからは賢者の暮らしをするのだ――その学びが公正と平和と知恵のためになるかぎり、好きなだけ学んでよいのだと。あのとき私の胸には、大きな喜びがわき上がった。もちろん、喜びはいつまでも続きはしない。
私は案内役の神秘家ヘリアンドに、船に乗ったことがないので早く海へ出たいと言った。彼女は笑って光るルーンを投げ落とし、思いもよらない速さで私たちをアービスの中へ放り出した。ほんの数秒後、私たちは、アルテウムののどかな畑と牧草地を見下ろす、風の吹きすさぶ丘の上に立っていた。
毎日が新しい発見だった。人なつこいニクサドの群れる霧の窪地。吹きたてのガラスのように澄んだ、歌う水をたたえた隠れた入り江。風が吹くと秘密をささやく花々。定命の者の舌では言いきれないほど長い名を持つ石。私は貪るように読み、絶えず歩き回り、たちまち灰色の外套を得た。
マニマルコに初めて会ったのは、このころだった――いつの日か虫の王と呼ばれることになる男だ。そのころの彼は、私と同じく、前途のある才気あふれる見習いだった。並外れた才と正反対の気性ゆえに、私たちは当然のように張り合った。だが、サイジックの古き習わしは、そうした競い合いを禁じていた。わが師である強大なライトマスター・イアケシスは、私に「張り合いは戦の種をまく」と言った。ああ、だが彼は、盲目の和もまた同じ結果をもたらすことを思い知ったのだ。
学びが進むにつれて、私はサイジックの掟のひびに気づきはじめた。その最たるものが、会のすべてを呑みこむ受け身だった。とまどう亀のように、会は静かにのろのろと進み、ときおり草の上に頭を出して危険を確かめるだけだった。イアケシスは内に目を向けるようになり、タムリエルの事どもから私たちが離れていく度合いは、年ごとに増していくようだった。ライトマスターがなぜ孤立への歩みを始めたのか、私には今も分からない。だが、私たちの使者や助言者は一人、また一人と島へ戻りはじめた。島を包む霧は濃くなり、王たちの頼みは届かなくなっていった。アルテウムの岸の外のこととなると、私たちは用心が過ぎた。その用心は、高くついた。
ある身の引き締まる降霜の月の夕べ、私はセポラタワーの古い石のあいだをさまよっていた。あの場所では、時そのものが琥珀に閉じこめられているように感じられる。すり減った石組みのあいだを強い風が吹き抜け、夢見の洞窟の鈍いうなりが靴の底から伝わってくる。そこは力の場であり、掟と理が、創造の崇高な神秘に席を譲る所だ。その松明に照らされた広間の奥に隠れて、マニマルコが闇の力を操っているのを、私は見つけた。彼はひそかに冒涜の術である死霊術に手を染め、私にも加われと迫った。私は断り、追い払いの呪文で彼の儀式を断ち切ろうと身構えた。だが呪文を編みはじめたまさにそのとき、塔が私たちのまわりで大きく揺れた――夢見の洞窟のうなりが、差し迫った苦々しいものに変わった。島の怒りを身のまわりに感じて、私たちは翌朝、ライトマスターに争いの裁きを仰ぐことに決めた。
イアケシスの前に立ったマニマルコは、死霊術を学ぶことを許してほしいと熱く訴えた。イアケシスが拒むと、マニマルコは荒れ狂い、口汚くなった。デイドラの獣のように、呪いと古い冒涜の言葉を吐き散らした。私はそばに立ち、そのあいだずっと、ライトマスターはマニマルコを閉じこめるだろうと信じていた。だがイアケシスは彼を閉じこめなかった。叱りつけ、灰色のローブを剥ぎ、島から追放したのだ。
「この壊れたメルを、タムリエルの人々に放つのですか?」と、私は叫んだ。
イアケシスは何も言わなかった。ただ手を上げて、まばゆい紫の光をマニマルコに浴びせた。そして、それだけで、わが好敵手は消えていた。私は呆然と立ちつくした。私が誰よりも敬っていたメルが、狼の檻の扉を開け放ち、おとなしい羊たちの世界へ獣を放ったのだ。次元融合を経た今、私たちはイアケシスの慈悲の苦い結果を目にしている。
まもなく私はアルテウムを去った。振り返ると、島の大きな崖とうねる牧草地が霧の中へ遠ざかっていったのを覚えている。島が消えたのは私が去ってわずか数時間後のことだと、あとで知った。偶然と見るのは難しい。イアケシスは自分の愚かさに気づき、世から身を隠したのかもしれない。サイジックは、マニマルコが何を解き放つかを知っていて、争うより身の安全を選んだのかもしれない。いずれにせよ、サイジックの島は記憶の中のものとなり、かつて誇り高かった会は闇に沈んだ。
彼らが戻ったなら――もし戻るなら――タムリエルを平和と繁栄へ導くという誓いを思い出してくれることを願う。それまでは、私たちギルドの魔術師がその務めを引き受けねばならない。か弱き者を守り、新しい呪文と新しい発見を求め、何よりも勇敢であれ。秘術の危機を前にして、魔術師ギルドこそが道を示さねばならないのだ。










