【TES世界観解説】トリビュナルとは何者か その1:チャイマーの起源と第一評議会

当ページのリンクには広告が含まれています。
Tribunal

※この記事には、Morrowindのネタバレを含みます。

目次

はじめに

Morrowindの日本語化作業をきっかけに、The Elder Scrollsシリーズのロア(ゲーム内の歴史や考察)文化にあらためて目覚めた管理人が、UESPやゲーム内書籍、海外コミュニティを中心に、いろいろなTES世界観(ロア)の解説記事を書いていくシリーズです。

今回はトリビュナルについて詳しく調べて書いていきます。
具体的には、トリビュナルとなった3人が神になるまでの過程、ネレヴァルとネレヴァリンの生き様、そしてMorrowindのストーリーの中核にある真のストーリーを整理し、考察していくものです。


神話時代の記事で語った通り、TESの神々(エイドラ)はかつて完全な存在でした。しかしロルカーンの提案によってムンダスの創造に巻き込まれ、自らの力を世界に注ぎ込むことで、不死を捨てて世界の骨組みとなりました。

『The Elder Scrolls(TES)』の世界において、神々と定命の者の境界線は、想像されているほど厳密ではありません。

神々がいま完全な存在ではないのは、彼ら自身が定命に近づくことを選んだからです。

この方向は、神々から定命の者への一方通行の流れでした。

ところが第一紀の半ば、ある三人のチャイマーが、その流れを逆方向に押し戻そうとしました。神話時代にレッドマウンテンに射ち込まれたロルカーンの心臓を発見し、そこから神性そのものを”奪い取る“ことで、定命の身でありながら神となったのです。

ロルカーンの心臓 出典:UESP

それがヴィヴェクアルマレクシアソーサ・シル──三柱の神(トリビュナル)、すなわちアルムシヴィ

Almsivi(アルムシヴィ) ──同じ三柱を指すダンマー側の呼称。三柱それぞれの古い名前の頭の音を組み合わせた、いわば連結神名。

  • アルマレクシア = Ayem(アイェム)Al
  • ソーサ・シル = Seht(セト)m-si
  • ヴィヴェク = Vehk(ヴェク)vi

これを繋げて Al-m-si-vi、すなわちAlmsivi。発音は「アルムシヴィ」。ダンマー社会の内部、特に神殿信徒のあいだではこちらの呼び方のほうが日常的です。

Almsivi mercy」「Praise be to Almsivi」といった慣用表現でゲーム中にも頻出します。

ふつうのファンタジー作品であれば、これは英雄譚として語られるはずです。定命の者が修練と冒険によって神に到達する、王道の物語として。

ところがTESでは違います。彼らの神格化は同時に誓いの破棄であり、師への裏切りであり、呪いの始まりでもありました。チャイマー全体が肌を灰色に変えてダンマー(暗き者)になったのは、この三柱の罪のせいです。

そして約3,500年後、戻ってきたネレヴァルの転生体、ネレヴァリンの手によって、彼らの神性は終わりを迎えます。

この物語の特徴は、ただ一つの「正史」が存在しないことです。

トリビュナル神殿の公式見解、ヴィヴェク自身の私的な告白、アッシュランダーの口承、異論派司祭の批判、そしてダゴス・ウル本人のメッセージ…トリビュナルをめぐる証言は、ことごとく食い違います。

誰が誰を裏切ったのか、誰がネレヴァルを殺したのか、ダゴス・ウルは英雄だったのか裏切り者だったのか
──どの問いにも、複数の答えがあります。

しかし、その食い違いこそがトリビュナルの物語の本質でもあります。彼らは「奪い取った神」であり、奪った者には正史を書く資格が永久に回復しないのです。

この記事では、ゲーム内書籍やメモである

  • レッドマウンテンのネレヴァル / Nerevar at Red Mountain
  • レッドマウンテンの戦い / The Battle of Red Mountain
  • ウルフハース王 五つの歌 / Five Songs of King Wulfharth
  • ダゴス・ウルを倒すための計画 / Plan to Defeat Dagoth Ur
  • 守護者たち / The Anticipations
  • 真実への歩み / Progress of Truth

など複数の文書を交錯させながら、神格化前のチャイマー社会から始まり、神格化の儀式、アズラの呪い、神としての三千年の統治、ダゴス・ウルの帰還、そして第四紀の落日まで──三柱の生涯と、それを取り巻く諸説をたどっていきます。

第一章: レスダイン、第一評議会の時代

トリビュナルが神となるのは、第一紀700年頃のレッドマウンテンでのことです。しかしその瞬間に至るまでには、長い前史があります。

  • なぜ三人のチャイマーが、神を「奪い取る」という発想に至ったのか?
  • なぜネレヴァルは彼らを信頼して側近に置いたのか?
  • なぜダゴス・ウルがレッドマウンテンの心臓室で番人として残されたのか?
  • なぜアズラの呪いが、三柱だけでなくチャイマー族全体に及んだのか?

これらの問いに答えるには、神格化の250年以上前、第一評議会が成立した第一紀416年、さらにはその遥か前のチャイマーの起源にまで遡る必要があります。

この章で扱うのは、第一紀700年の悲劇に至るまでの「前史」です。チャイマーという民族の成り立ち、ドゥーマーとの千年規模の対立、ノルド支配下の176年の捕囚、ネレヴァルの台頭、デュマックとの友情、第一評議会の成立、そして252年続いた平和の時代。

これらは単なる背景説明ではなく、トリビュナルの物語を理解するために不可欠な土台です。なぜ三柱が神になったのかを考える前に、彼らがどのような世界の中で、どのような関係性のなかで生きていたのかを知る必要があります。神格化は突然起きた事件ではなく、250年の平和と、そのなかで深まっていった人間関係の上に起きた出来事だからです。

少し長い章になりますが、ここで物語の土台を固めておくことで、後の章で起きる悲劇の重みが、ずっと違って見えてくるはずです。

それでは、サマーセット諸島の話から始めましょう。

よければ、Morrowindのテーマ曲を流しながらお読みください。この記事の空気には、あの低く長い旋律がよく合います。

BGM BGM 1

0:00 0:00

約束の地と、地下の隣人

それは、神話時代の終わりの頃のことであった。

サマーセット諸島に住むエルフたちのなかに、預言者ヴェロスという男があった。彼はアルドマー社会の華美と秩序を嫌い、より厳格で霊的な生き方を求めて、善きデイドラ──ボエシア、メファーラ、アズラ──の啓示を聞いた。三柱のデイドラは彼に新しい土地を約束し、移住の道を示した。

ヴェロスに従ったエルフたちは、サマーセットを離れ、東へと長い旅を始めた。

途中で彼らの前に立ちはだかったのが、トリニマック──アーリエルの最強の騎士、神話時代にロルカーンの心臓を抉り出したあの存在である。トリニマックはヴェロスの背教を阻止しようと現れたが、ボエシアが彼を「食べ」、その排泄物からマラキャスが生まれた。トリニマックの信徒たちはオークとなり、ボエシアに従ったエルフたちは姿を変えてチャイマー、すなわち「変わりし者」となった。

彼らはやがて、タムリエルの北東の地に辿り着いた。当時その土地は名もなく、後にレスダイン、さらに後にモロウウィンドと呼ばれることになる地である。

しかし、約束の地は無人ではなかった。

地下にはすでに、別のエルフの民が住んでいた。ドゥーマー──「深き者たち」と呼ばれる、神を信じず、論理と工学とトーナル・アーキテクチャー(音響工学に似た独自の魔術)を信仰する民族である。彼らはレッドマウンテンの地下深くに巨大な都市群を築き、独自の文明を営んでいた。

地表のチャイマーと地下のドゥーマー。両者は最初から相容れなかった。チャイマーは祖先と三柱の善きデイドラを崇め、ドゥーマーは神々の存在を否定した。チャイマーはドゥーマーの世俗的な技術を「冒涜」と見なし、ドゥーマーはチャイマーの祖先信仰を「迷信」と嘲った。両者は何世紀にもわたって、小規模な襲撃と領土争いを繰り返した。

しかし、彼らがいかに憎み合おうと、外から来る者たちの剣には等しく刺された。

ノルドの鉄と、捕囚の時代

第一紀240年ごろ、北のスカイリムから一人の男が大軍を率いて現れた。

その男の名はヴレイジ・ザ・ギフテッド──ハラルド王の後に続くイスグラモル王統の王にして、第一ノルド帝国の建設者。彼は故郷スカイリムを出発し、西のハイロックと東のレスダインに向かって、五十年に及ぶ征服戦争「スカイリム征服戦」を開始した。

ノルドの軍勢は、チャイマーともドゥーマーとも比較にならない数と、スゥーム(Thu’um、声の力)を操る戦士たちを擁していた。そしてレスダインのチャイマーとドゥーマーは、互いに憎み合うあまり連携することすらできなかった。

地表のチャイマー諸名家は次々と陥落した。地下のドゥーマー王国も、ヴァーデンフェル本島の中央部こそ独立を保ったものの、本土の都市は次々とノルドの支配下に置かれた。

こうして始まったのが、レスダインのスカイリム捕囚(Skyrim Captivity)である。

この捕囚は、長かった。

実に約百七十六年間、レスダインはノルドの支配下にあった。チャイマーの諸名家は、それぞれ独立した君侯として残されはしたが、年貢を納め、ノルドの将軍たちに頭を下げ、自分たちの土地を「占領地」として生きねばならなかった。第一ノルド帝国の最盛期、ヴァーデンフェル島を除くレスダインのほぼ全域はノルドのものであった。

この捕囚の時代、地下のドゥーマー王国に新しい王が生まれた。後の世にデュマック・ドワーフ・キングとして知られる男である。彼はレッドマウンテン地下の王座に就き、ノルドの侵略から守り抜いたヴァーデンフェル本島を、ドゥーマー文化最後の砦として治めた。

地表でも、一人のチャイマーが生まれていた。

その若者の名はインドリル・ネレヴァルといった。

商人の護衛から、ホーテイターへ

ネレヴァルの出自について、信頼できる記録はほとんど残されていない。

ヴィヴェクが後に記した『三十六の教訓』の断片によれば、ネレヴァルは若き日、商人の隊商の護衛として各地を巡る一介の戦士に過ぎなかったという。インドリル家の末端の血筋ではあったが、王家の嫡子でも諸侯の世継ぎでもなかった。彼が背負っていたのは、ノルド支配下のチャイマー社会で生き延びるための、ただ剣一本だけだった。

しかし、彼の剣は人並みではなかった。

各地を旅する間に、ネレヴァルは無数の戦闘を経験し、多くの友と師を得た。ヴィヴェクによれば、その師の一人にソーサ・シルがいた。既にチャイマー随一の魔導士として名を成していた老練の男である。ソーサ・シルはネレヴァルに魔術と工学の融合を教え、後に同じく弟子となるヴィヴェクとも引き合わせた。

ある時、ネレヴァルは商人の隊商の警護で、ムーンホールドへ向かった。レスダイン本土の中央に位置する、チャイマーの古い王都である。当時その都を治めていたのは、一人の女王であった。

その名はアルマレクシア。古い名をアイェムという。

ヴィヴェクの記述によれば、ネレヴァルがアルマレクシアと出会ったとき、彼女は既に王座にあり、ヴィヴェクはまだ生まれてすらいなかった。アルマレクシアは美しさと慈愛で名高く、しかし同時に、戦士としても恐れられていた。彼女もまた、ノルド支配下のチャイマー社会で、自分の都を守るために剣を取った経験を持つ統治者だった。

ネレヴァルとアルマレクシアの出会いについて、文献は多くを語らない。確かなのは、二人がいずれ結ばれること、そしてアルマレクシアが──統治者として、戦友として、そして妻として──ネレヴァルの傍らに立つようになることである。

………

第一紀369年、ノルド王ボーガスが死んだ。

これが、すべての始まりだった。

ボーガスの死は、ノルド帝国に継承戦争(War of Succession)をもたらした。北の王国は内紛で揺れ、レスダインに駐留する軍勢への補給は滞り、将軍たちは互いに自陣営の援軍として呼び戻された。百七十六年続いた支配の鎖が、一気に緩み始めた。

この機を、ネレヴァルは見逃さなかった。

第一紀415年頃、彼はチャイマー諸名家を一つずつ説得して回った。長年互いに反目し合っていた家々──インドリル、レドラン、フラール、ドレス、テルヴァンニ、そしてダゴス──を、ノルドという共通の敵に対する一つの軍に纏め上げるために。

そしてこの時、彼に与えられた称号がホーテイター(Hortator)だった。

月と星の下、一つの氏族

ホーテイターとは、チャイマー社会において全ての名家から全会一致で指名された、危機に際しての最高軍事指導者を意味する。

ネレヴァルがホーテイターに指名されたという事実そのものが、彼の威信を物語っていた。長年いがみ合っていた六大名家全てが、一致して彼を選んだのだ。

この時、彼の指に嵌められた指輪がある。

月と星の指輪──正式名を「祖先の指輪、月と星の下のひとつの氏族」(Ring of the Ancestors, One-Clan-Under-Moon-and-Star)

嵌めた者に超自然的な説得の力を与え、ネレヴァル以外の者が嵌めれば即座に命を奪う。血統ではなく魂そのものを識別する、神からの認証印だった。彼が長年反目し合っていた六大名家を全会一致で纏められたのも、この指輪の力に依るところが大きい。

「月と星の下、ひとつの氏族」──この名前には、政治的な理念が込められていた。月と星の下、すなわちムンダスのもとで、チャイマーは一つの氏族として団結する。家ごとの確執も、地方ごとの伝統も、この一つの理念のもとに従属する。それがネレヴァルの掲げた旗だった。

血の友

ホーテイターとなったネレヴァルは、すぐに自身の立場の限界を悟った。

チャイマー諸名家を統一しても、なおノルドを撃退するには兵力が足りない。チャイマー単独では、いかに継承戦争で弱体化したとはいえ、ノルド帝国の東方軍に勝つことはできなかった。

彼に残された選択肢は、ただ一つだった。

地下の隣人と──何世紀にもわたって憎み合ってきた、あのドゥーマーと──手を結ぶことである。

ネレヴァルはレッドマウンテンへ向かい、デュマック・ドワーフ・キングに会見を求めた。会見は容易ではなかった。ネレヴァルが妻となったアルマレクシアの助言を受けたのか、ヴィヴェクの説得術を借りたのか、それとも月と星の指輪の力を頼ったのか──文献は明確ではない。

しかし、両者は会った。

そして、両者の間に何かが起きた。

ヴィヴェクの記述、神殿史料、そして帝国の歴史書のいずれも、この一点だけは一致して伝えている──ネレヴァルとデュマックは、最初の会見で互いを認め合い、血の友(brothers in arms)となった。両者の友情は、外交的な同盟というより、戦士同士の魂の結びつきだった。

第一紀415年から416年にかけて、両者は連合軍を編成した。地表のチャイマー諸名家、地下のドゥーマー諸氏族。互いに憎み合っていた二つの民族が、人類史上初めて、対等な軍事同盟として共に戦うことになった。

ただし、すべてのドゥーマーがこの同盟を支持したわけではなかった。

ローケン氏族(Rourken Clan)の長は、デュマックの決定に強く反発した。チャイマーと手を結ぶなど耐え難い屈辱であると断じ、彼は自身の槌、ヴォレンドラング(Volendrung)を西へ投げ、「これが落ちた所に新たな国を建てる」と誓って氏族ごとレスダインを去った。槌が落ちた地は、後のハンマーフェルとなる。クラーゲン氏族(Kragen Clan)もこれに続き、スカイリムへ移住した。

デュマックの判断に従わなかった氏族が出たことは、後の物語にも影を落とす。レスダインに残ったドゥーマーは、最初から内部に亀裂を抱えていたのだ。

それでも、残った力で十分だった。

第一紀416年、ネレヴァルとデュマックの連合軍は、ノルドの占領軍をレスダインから完全に駆逐した。「スカイリム捕囚」は終わり、レスダインは解放された。

そして同年、解放された土地の上に、新しい統治体制が築かれた。

それが、第一評議会(First Council)である。

第一評議会と、平和の二世紀半

第一評議会は、人類史上類を見ない統治体制だった。

チャイマーの六大家(インドリル、レドラン、ドレス、フラール、テルヴァンニ、ダゴス)とドゥーマーのヴァーデンフェル王国が、対等な議席を持って一つの政府を構成する。両者の代表が並んで座り、一つの国家──新たにレスダイン王国と名付けられた領域──を共同統治する。

ネレヴァルとデュマックは、共に評議会の指導者として選出された。ホーテイターは戦時の称号であり、平時には返上されるはずだった。しかしネレヴァルの威信は突出しており、彼は事実上の終身ホーテイターとして、評議会の中心に立ち続けた。

評議会の発足とともに、ネレヴァルとアルマレクシアの結婚式が執り行われた。

その祝宴で、デュマックは祝いの品として双子の魔剣を贈った。

トゥルーフレイム(Trueflame)、そしてホープスファイア(Hopesfire)。

ドゥーマー鍛冶の最高峰の作とされる二振りの剣は、超自然的な炎の魔法を宿していた。トゥルーフレイムはネレヴァルへ、ホープスファイアはアルマレクシアへ。二振りの剣を並べて贈ることは、両者の婚姻を祝福すると同時に、チャイマーとドゥーマーの永続的な同盟の象徴でもあった。

そしてここから、レスダインの平和の二世紀半が始まる。

第一紀416年から、第一紀668年に第一評議会戦争が勃発するまで、実に二百五十二年にわたって、チャイマーとドゥーマーは共に栄えた。これは、TES世界全体の歴史を見渡しても、異種族間の同盟が長期にわたって機能した稀有な例である。

この時代、レスダインには前例のない繁栄が訪れた。チャイマーの祖先信仰とデイドラ崇拝、ドゥーマーの理性と工学。本来交わるはずのない二つの世界観が、互いの差異を保ったまま、地表と地下で並行して花開いた。

ヴィヴェクが生まれたのも、この時代である。

『三十六の教訓』によれば、ヴィヴェクはアルマレクシアが既に女王であった頃、まだ母の胎内にあったとされる。つまりヴィヴェクは、ネレヴァルとアルマレクシアの結婚よりも後に──第一評議会成立後の平和の時代に──生まれた、若い世代の人物だったことになる。後に彼は、ネレヴァルの戦友として、また師の一人ソーサ・シルの弟子として、この時代の中で成長していった。

ネレヴァルとヴィヴェクは、共に各地を旅した。

『三十六の教訓』には、二人で世界の北方──アカヴィル、ヨクダ、アトモーラ──を巡ったという記述すらある。文字通りに受け取ることはできない神話的な記述だが、二人が長い時間を共に過ごし、戦い、語らった日々があったことは確かだろう。

ソーサ・シルは、自身の研究に没頭していた。

デュマックは友情の証として、ソーサ・シルにケメル・ゼ(Kemel-Ze)というドゥーマー遺跡の一翼を贈った。ソーサ・シルはこの設備を使って、自身の生涯のプロジェクト──後にクロックワーク・シティとして結実する機械仕掛けの都──の予備研究を始めた。第一評議会の平和な時代、彼は既に、神となった後の自分の住処を構想していたことになる。

第一紀461年、ネレヴァルとデュマックは共に、シロディールへ赴いた。

その地でアレッシア帝国(第一帝国)の新皇帝ゴーリエスの戴冠式が執り行われ、レスダイン王国は正式な代表として両者を派遣した。当時のアレッシア帝国は、エルフ全般に強い敵意を持つアレッシア教団の影響下にあり、エルフの代表が式典に出席することは前例のないことだった。さらにその式典には、かつての敵であったホアグ・マーキラー(Hoag Merkiller)──ノルドの英雄として、レスダイン解放戦争でネレヴァルと剣を交えた将軍──も出席していた。

それでも、戴冠式は平和裏に終わった。両者の外交手腕、そして二百年近く続いた評議会の威信が、こうした困難な場でも機能していたことを示すエピソードである。

ヴォリン・ダゴス、最も忠実な男

ネレヴァルの傍らには、もう一人、忘れてはならない男がいた。

ダゴス家の当主、ヴォリン・ダゴス(Voryn Dagoth)である。

ダゴス家は、第一評議会のなかでもやや特異な位置にあった。チャイマーの名家でありながら、その文化はドゥーマー寄り──世俗的、技術志向、神々への懐疑を含む──だった。後の歴史学者は、インドリル、レドラン、ドレス、フラール、テルヴァンニ家を「正統派」と呼び、ドゥーマー族とダゴス家を「世俗派」に分類した。

ダゴス家の本拠地は、ヴァーデンフェル島のコゴルーン(Kogoruhn)。ドゥーマー王国の隣接地に位置するこの砦は、地理的にも文化的にも、ドゥーマーとチャイマーの境界線上にあった。

しかしヴォリン・ダゴス個人は、ネレヴァルに対して──少なくとも、第一評議会の時代を通じては──絶対の忠誠を誓っていた。

文献によれば、彼はネレヴァルの最も忠実な臣下の一人であり、最も親しい友の一人でもあった。アルマレクシア、ヴィヴェク、ソーサ・シルが「神格化候補」となる側近三人だとすれば、ヴォリン・ダゴスは彼ら三人とは異なる、もう一つの位置にいる男だった。

この時代、ヴォリン・ダゴスは神になることを望まず、ネレヴァルの傍らで何の野心も持たず、ただ忠実に仕えていた。

これが後の悲劇の伏線になることを、まだ誰も知らなかった。

五人と、二百五十二年

第一評議会の時代、ネレヴァルを中心とする五人がそこにいた。

妻にして女王、アルマレクシア。 教師にして魔導士、ソーサ・シル。 若き戦友にして詩人、ヴィヴェク。 忠臣にして友、ヴォリン・ダゴス。 そして、地下の血の友、デュマック・ドワーフ・キング。

この五人と、ホーテイターであるネレヴァル自身が、レスダインの黄金時代を支えた。

二百五十二年。

それは、長い時間だった。エルフの寿命をもってしても、若くして第一評議会に参加した者が、老年になってもまだ評議会の議席に座っていられるほどの時間。一つの世代が生まれ、育ち、家を築き、子を成し、老いていくのに十分な時間。

その間、レスダインは平和だった。

ノルドの脅威は遠ざかり、内部の紛争は評議会で調停され、文化は交流し、技術は花開いた。チャイマーの祖先信仰とドゥーマーの理性は、互いを否定することなく、レスダインという一つの土地の上で並行して栄えた。

ネレヴァルは、自分の仕事を成し遂げたと思っていただろう。

しかし、レッドマウンテンの地下深くで、何かが動き始めていた。

ドゥーマーの大祭司カグレナック(Kagrenac)──かつて月と星の指輪を鍛えた工房の主にして、ドゥーマー随一のトーナル・アーキテクト──が、地下のさらに深い場所で、ある「もの」を発見していた。

それは、神話時代にアーリエルが射ち落とした、ロルカーンの心臓だった。

解説 ──物語の細部を読み解く

物語の中でさらりと触れた要素のいくつかは、TES世界の構造を理解するうえで補足が必要なものです。ここでは章の物語に直接紐づく形で、いくつかの論点を整理しておきます。

ホーテイター──全会一致で選ばれる戦長

物語の中で「ネレヴァルがホーテイターに指名された」と書きましたが、この称号の重みは、現代の感覚では掴みにくいかもしれません。

ホーテイター(Hortator)は、チャイマー社会において全ての名家から全会一致で指名された、危機に際しての最高軍事指導者を意味します。これは平時の地位ではなく、平時には存在すらしません。一人でも反対する名家があれば、ホーテイターは成立しないという、極めて重い称号です。

ネレヴァルが指名された時点で、長年互いに反目し合っていた六大名家──インドリル、レドラン、ドレス、フラール、テルヴァンニ、そしてダゴス──が一致して彼を選んだことになります。これだけでも、彼の威信がいかに突出していたかが分かります。

そして興味深いのは、この称号が後の物語で重要な意味を持つことです。第一評議会戦争でネレヴァルが諸名家を再び纏める必要に迫られた時も、彼は再びホーテイターとして指名し直される必要がありました。さらに、はるか後の第三紀──Morrowindのプレイヤーがネレヴァリンとして各名家を回り、「ホーテイター」として認められる必要があるのも、この古い称号の継承儀式そのものの再現です。

ホーテイターは血統で受け継がれるものではなく、生きている諸名家の全会一致によって認められる称号です。だからこそ、ネレヴァリン予言において「転生したネレヴァル」が改めて六大名家(の生き残り)から指名を受ける、という構造が成立します。

月と星の指輪──ドゥーマーが鍛え、デイドラが祝福した不可解な遺物

物語パートで触れた指輪「祖先の指輪、月と星の下のひとつの氏族」(One-Clan-Under-Moon-and-Star)、通称「月と星」(Moon-and-Star)は、TES世界における最も奇妙なアーティファクトの一つです。

その不可解さは、由来そのものにあります。

UESPの記述によれば、この指輪はドゥーマー大祭司カグレナックの工房に属する鍛冶師の一人によって鍛造され、デイドラ女神アズラによって祝福されました。

ドゥーマーは神を信じない民です。デイドラなど特に冒涜的な存在として軽蔑していたはずです。にもかかわらず、よりによってカグレナックの工房で、デイドラの祝福を受けることになる指輪が鍛えられた。これは何を意味するのか。

考えられる解釈はいくつかあります。

一つの可能性は、デュマック自身が密かにこれを発注した、というもの。ノルド支配下の時代、デュマックはチャイマーとの将来の同盟を予見し、その象徴となるアーティファクトを準備していたのかもしれません。ドゥーマーの鍛冶技術とチャイマーの女神の祝福を一つに込めることで、二民族の融合を物質化した、ということになります。

別の可能性として、カグレナックがこの時点で既に何らかの長期的な計略を持っていた、という見方もあります。第一評議会戦争を引き起こすことになる、あの大祭司が、なぜネレヴァルを認証する遺物を鍛えたのか? チャイマーの英雄を持ち上げることで、後にその英雄を「神への挑戦」の道具として利用する目論見があった──と読むこともできなくはありません。

文献はこの謎に答えません。確実なのは、この指輪が「ドゥーマー技術」と「デイドラの祝福」という、本来交わるはずのない二つの力を一つに込めたものであり、エルダースクロールズシリーズの中でも特に稀有なアーティファクトである、ということです。

なお、指輪の効果は二つあります。一つは嵌めた者に超自然的な説得の力を与えること。もう一つは、ネレヴァル以外の者が嵌めると即座にその者の命を奪うこと。これは血統や系譜ではなく魂そのものを識別する装置で、後にネレヴァリンが「真の転生体」であることを証明する手段としても機能します。

ネレヴァルとアルマレクシアの結婚──女王と若き戦士

物語パートでは「アルマレクシアは既に女王であり、ネレヴァルがまだ若き戦士であった頃に出会った」と簡単に触れました。この関係は、二人の力関係を理解するうえで重要です。

ヴィヴェクの『三十六の教訓』の記述によれば、アルマレクシアがムーンホールドの女王として既に統治の座にあった時、ネレヴァルはまだ商人の隊商の護衛を務めるような若き戦士に過ぎませんでした。つまり婚姻は対等な王と王妃の結合ではなく、女王と若き戦士の結合だったことになります。これに近い形で言うなら、ネレヴァルは事実上「婿入り」に近い立場でアルマレクシアに迎え入れられた、と読むことができます。

これは後の物語にも影を落とします。アルマレクシアが神格化された後も「ムーンホールドの女王」として臣民に近く、戦士としても恐れられたのは、彼女が元々独立した統治者だったからです。ネレヴァルが死んだ後にトリビュナル神殿を実質的に率いる立場になるのも、彼女が単なる「英雄の妻」ではなく、自身の統治基盤を持つ女王だったからです。

ただし、この力関係には影もあります。アルマレクシアは「愛そのもの」「慈愛の女王」として称えられる一方で、独占欲と自尊心の強さが伝承の端々に滲む。神格化後、神性が衰え始めた時に彼女が最も激しい変化を示すこと、つまりヴィヴェクとソーサ・シルへの嫉妬と憎悪は、この時代から既に種が蒔かれていたとも読めます。

ヴィヴェクの若さ──第一評議会以後の世代

物語の中で「ヴィヴェクが生まれたのも、この時代である」と書きましたが、これは多くの読者が見落としがちな細部です。

『三十六の教訓』によれば、ヴィヴェクはアルマレクシアが既に女王であった頃、まだ母の胎内にあった、とされます。つまりヴィヴェクはネレヴァルとアルマレクシアの結婚より後、第一評議会成立後の平和の時代に生まれた、若い世代の人物です。

これは三人の側近の関係を理解するうえで重要です。アルマレクシアとソーサ・シルがネレヴァルと同世代、あるいはやや年長(特にソーサ・シルは三柱の中で最年長)であるのに対し、ヴィヴェクはネレヴァルより遥かに若い。ネレヴァルが商人の護衛時代に既に老練の魔導士として活躍していたソーサ・シルが、後にネレヴァルの教師となり、さらにその後ヴィヴェクの教師となった──という時系列が見えてきます。

ヴィヴェクが後に「ネレヴァルの戦友であり、教え子であり、おそらく恋人でもあった」と記述されることがあるのは、この大きな年齢差を踏まえると、より理解しやすくなります。ネレヴァルにとってヴィヴェクは、戦友であると同時に若い後輩であり、ある意味で息子のような存在でもあったのかもしれません。

第一評議会の構造──正統派と世俗派の境界線

物語パートでは「チャイマーの六大家とドゥーマーのヴァーデンフェル王国が対等な議席を持って一つの政府を構成した」と書きましたが、この構造には後の戦争の伏線となる重要な区分があります。

後世の歴史学者は、第一評議会の構成員を二つに分類しました。

  • 正統派(Orthodox)
    インドリル、レドラン、ドレス、フラール、テルヴァンニの五大名家。チャイマーの伝統的な祖先信仰とデイドラ崇拝を保持し、ヴェロシ的な精神性を重んじる家系。
  • 世俗派(Secular)
    ドゥーマー家(ドゥーマー族そのもの)とダゴス家。世俗的、技術志向、神々への懐疑を含む。

ダゴス家がチャイマーの名家でありながら世俗派に分類されるのは興味深い点です。彼らはドゥーマーとの技術交流に積極的で、文化的にもドゥーマー寄りでした。本拠地のコゴルーンがドゥーマー王国の隣接地にあったことも、この傾向を強めていました。

この区分は、第一評議会戦争が勃発したとき、突然意味を持ちます。世俗派の二家(ドゥーマーとダゴス)が同じ陣営に立ち、正統派の五家がそれに対抗する、という構図に(表向きは)なるからです。ただし実際には、ヴォリン・ダゴスがネレヴァルへの忠誠を選んだことで、ダゴス家は複雑な立場に置かれます。

ヴォリン・ダゴス──「神格化候補」ではない第四の側近

物語の中でヴォリン・ダゴスを「五人目」として位置づけました。これは少し補足が必要です。

ネレヴァルの側近として通常語られるのは、アルマレクシア、ヴィヴェク、ソーサ・シルの三人です。彼らは後の三柱、すなわち神格化候補の三人。しかし、第一評議会の時代に話を絞れば、ネレヴァルの最も親しい人物のリストには必ずもう一人、ヴォリン・ダゴスが入ります。

ヴォリン・ダゴスの位置は、他の三人とは決定的に違います。彼は神になることを望まず、神になる資格を持たず、ただネレヴァルの忠臣であり友であり続けた男です。アルマレクシアが妻、ソーサ・シルが教師、ヴィヴェクが戦友であるのに対し、ヴォリン・ダゴスは「最も忠実な臣下」「最も親しい友」という、より素朴な関係でネレヴァルの側にいました。

そしてこの素朴な忠誠こそが、後の悲劇の引き金になります。

第二章で語ることになりますが、ロルカーンの心臓とカグレナックの計画をネレヴァルに密告するのは、このヴォリン・ダゴスです。ネレヴァルが致命傷を負った後、心臓と道具の番人として残されるのも、彼の忠誠ゆえです。そして数千年後、ダゴス・ウルとして蘇り、レッドマウンテンの神となるのも──この男です。

ローケン氏族の離反──同盟の最初の亀裂

物語の中で、ネレヴァルとデュマックが連合軍を組んだ際、ローケン氏族とクラーゲン氏族がこれを拒否してレスダインを去った話を書きました。これは些細な細部ではなく、ドゥーマー社会の内部に既に亀裂があったことを示す重要な伏線です。

ローケン氏族の長は、戦槌ヴォレンドラング(Volendrung)を西へ投げ、「これが落ちた所に新たな国を建てる」と誓って氏族ごとレスダインを去りました。槌が落ちた地に築かれたのがヴォレンフェル(Volenfell) ──「槌の都」を意味する都市で、後のハンマーフェルの語源にもなっています。クラーゲン氏族はスカイリムへ移住しました。

この離反が示すのは、「全てのドゥーマーがチャイマーとの和平を支持したわけではない」という事実です。デュマックの統治には最初から反対派が存在し、その反対派は一定の数を占めていた。これが意味するのは、第一評議会という「奇跡的な平和」が、ドゥーマー社会の側から見れば、必ずしも全会一致の合意ではなかった、ということです。

そして後の物語で重要になるのが、離反した氏族のドゥーマーも、第一評議会戦争の終結時に消滅したという事実です。レッドマウンテンで何が起きたにせよ、その出来事はレスダインに残ったドゥーマーだけでなく、遠くハンマーフェルに移住していたローケン氏族にも、スカイリムのクラーゲン氏族にも、同時に及びました。

タムリエル全土のドゥーマーが、同じ瞬間に消えたのです。

ノルド帝国の継承戦争──なぜ176年の支配が崩れたか

物語パートで「第一紀369年、ノルド王ボーガスが死んだ。これが、すべての始まりだった」と書きました。この出来事の意味を、もう少し丁寧に補足しておきます。

ボーガス王は、ヴレイジ・ザ・ギフテッドから始まったイスグラモル王統の最後の王でした。彼の死後、後継者を巡って内紛が勃発し、これが継承戦争(War of Succession)として知られる五十年に及ぶ内戦に発展します。第一ノルド帝国は徐々に瓦解し、第一紀420年、酋長協定(Pact of Chieftains)によって帝国の崩壊が確定しました。

ネレヴァルがホーテイターに指名され、デュマックと同盟してノルドを駆逐したのが第一紀415-416年です。つまりネレヴァルの蜂起は、ノルド帝国がまだ完全に崩壊する直前──最も弱体化していた絶妙のタイミング──を狙ったものでした。

これが意味するのは、ネレヴァルの解放戦争が「圧倒的に強大な帝国に対する民族独立闘争」というより、「内紛で疲弊した占領軍を、最後の一押しで追い出した」性格を持つ、ということです。ノルドが本気で反撃する力を失っていたからこそ、チャイマーとドゥーマーの連合は成功しました。

そして、この絶妙のタイミングを見極めたネレヴァルの政治的洞察力こそが、後に第一評議会の二世紀半の安定を支える基盤にもなります。ネレヴァルは単なる戦士ではなく、政治と外交の天才でもあった、ということです。

なお、後にウルフハース王(物語パートでも触れた、後の第一評議会戦争でドゥーマー側に付くノルド王)がノルドの統一を一時的に取り戻すのは、この継承戦争の混乱が続く第一紀500年のことで、ネレヴァルの解放戦争よりさらに後の出来事です。

さらなる解説

ここからは、物語の中に出てきた各要素について、より深く解説していきます。
ただし、あまりにも長くなってしまうため、興味があるときに読んでいただければと思います。

チャイマーとは何者か?

チャイマー(Chimer)は、現在のダンマー(Dunmer / 暗き者、ダークエルフ)の祖先にあたるエルフの民族です。語源は「変わりし者(Changed Ones / Changed Folk)、あるいは古い呼称で「北の民(People of the North)」「ヴェロシ(Velothi / ヴェロスの民)」とも呼ばれます。

神話時代の記事で扱った通り、TES世界のエルフ諸族は皆、共通の祖先アルドマー(Aldmer※ハイエルフではない、エルフの源流から派生しています。アルドマーがサマーセット諸島に定着した後、地域や信仰の違いから複数の民族に分岐しました。

  • アルトマー(ハイエルフ、サマーセット本流)
  • ボスマー(森のエルフ、ヴァレンウッドへ移住)
  • アイレイド(シロディールへ移住、後のホワイト・ゴールド・タワーの主)
  • チャイマー(変わりし者、レスダインへ移住)

ドゥーマーもまたアルドマーから分岐したとされますが、その経緯は他のエルフ諸族と異なり、極めて早い時期に起きたとされ、詳細は不明のままです。

ヴェロスがチャイマーの祖となる信徒たちを率いてサマーセット諸島を離れたのは、神話紀の中期から後期──いわゆるメレシック紀(Merethic Era / 神話紀) とされる、第一紀よりもさらに前の時代です。

この時代のサマーセットの民については、資料によって「アルドマー」「サマーセットのアルドマー」「アルトマー」と表記が揺れます。そのため、本記事では便宜上「アルトマー社会」と記述する場合もありますが、厳密にはヴェロスが反旗を翻した相手は、サマーセットに根を下ろしたアルドマー系社会、すなわちエルフ文明の本流に対して、と理解してください。

アルドマー本流の民がアーリエル(人間社会でアカトシュと呼ばれる時間竜に対応する、エルフ側の神格) を主神として崇め、神話時代の秩序とアルドマー時代の高みへの回帰を理想とするのに対し、チャイマーが選んだのは正反対の道でした。彼らはアーリエルではなく、デイドラ──三柱の善きデイドラ(アズラ、ボエシア、メファーラ)──を崇拝の対象として選んだのです。

これは単なる「神様の選択違い」ではありません。エイドラ(アーリエルやマーラなど、ムンダス創造に参加して力を犠牲にした神々)とデイドラ(ムンダス創造に参加せず、自身の領域を保ったまま外側にいる神々)は、その存在の根本的な性質が異なります。エイドラを選ぶことは「秩序と継承」の側に立つことであり、デイドラを選ぶことは「変化と独立」の側に立つことを意味します。

チャイマーがデイドラを選んだということは、彼らがアルドマー社会の「失われた高みへの回帰」という価値観そのものを拒絶し、もっと別の方向──変化を恐れず、祖先を直接崇め、自分たち固有の道を歩む──を選んだということです。

ヴェロスとは誰か?

預言者ヴェロス(Veloth the Pilgrim)は、チャイマーの民族的アイデンティティの根源にいる人物です。

彼はもともとアルドマー社会の中の宗教改革者でした。生まれは貴族階級だったとされますが、アルドマー社会を「野心、貪欲、退廃の上に築かれた文明」として軽蔑し、より霊的で禁欲的な、伝統と正直さと正義を尊ぶ生き方を求めた。

そして彼が啓示を受けたのが、ボエシア──「陰謀の王子(Prince of Plots)」とも「裏切りの神(God of Betrayal)」とも呼ばれるデイドラ公です。

ボエシアはヴェロスの夢と幻覚の中に繰り返し現れ、新たな宗派を創設するよう導いたとされます。ボエシアの教えの中核にあったのが、「定命の者は神性に到達できる」という信念でした。これは後にサイジック・エンデバー(Psijic Endeavor) と呼ばれる教義として体系化されます。

サイジック・エンデバーは、本記事の中でも極めて重要な概念です。「定命の者が修練と試練を経て、神となる方法」──ヴェロスがアルドマーから持ち帰り、後にチャイマーが信奉した教義であり、そして遥か後にトリビュナルが「実行」してしまう教義そのものです。トリビュナルがロルカーンの心臓を使って神格化したのは、ある意味でサイジック・エンデバーの最も極端な実装でした。

彼らは教義通り、定命から神への道を歩んだ──ただし、ネレヴァルとの誓いを破るという形で。

ヴェロスはこの啓示を受け入れ、アルドマー社会から離脱することを決意した。彼に従った者たちが、後のチャイマーとなります。

ヴェロスとボエシア、メファーラ、アズラの関係について、もう少し補足します。三柱の善きデイドラはそれぞれ、チャイマーに異なる教えを授けました。

ボエシア ──哲学、魔法、「責任ある」建築、そして社会のあり方そのものを教えた。後の名家(Great House)制度の原型は、ボエシアとメファーラの共同の教えに遡ります。

メファーラ ──秘密の殺害、暗殺、陰謀の技を教えた。チャイマーは敵に囲まれた少数民族だったため、これらの技は生き残るために必要だった。後のモラグ・トング(暗殺者ギルド)もメファーラの創設とされます。ボエシアと共に、名家の組織化にも関わった。

アズラ ──「アルトマーとは違う者になる」秘密を教えた。アズラはチャイマー全体の母性的な祖先として描かれることが多く、「個別の祖先」というより「民族そのものの母」として位置づけられます。アズラの星(黎明と黄昏の星)は、後にチャイマー/ダンマーの宗教の象徴となります。

この三柱の役割分担は、後のトリビュナルの三柱の役割分担と対応します。

  • アルマレクシア(統治と社会秩序)はボエシア
  • ヴィヴェク(秘術と詩人の多面性)はメファーラ
  • ソーサ・シル(神秘と運命)はアズラ

三柱が善きデイドラを「自分たちの先行存在」と位置づけたのは、こうした文化的・神学的な系譜があってのことでした。

トリニマック事件 ──ボエシアがトリニマックを「食べた」とはどういうことか

ヴェロスとチャイマーの東方移住の途中で起きたとされる「トリニマック事件」は、ダンマー神話の中でも特に劇的(いろんな意味で)なエピソードです。

トリニマック(Trinimac)は、アーリエルの最強の騎士であり、ロルカーンの胸から心臓を抉り出した張本人。アルドマー社会では、アーリエルに次ぐ「第二の神」として広く崇拝されており、特にエト・アダ(原初の精霊)の中でも最も強き者とされました。

ヴェロスがアルドマー社会から離脱しようとしたとき、最初に動いたのはトリニマックの司祭たちでした。彼らはヴェロスの教義を「冒涜」として糾弾し、信徒たちが背教を続けるならば追放すると脅した。アリノール(サマーセット島の首都)のサピアーチ(賢者会議)もこの分裂を禁じます。

それでもヴェロスとその信徒たちが教えを捨てなかったため、ついにトリニマック自身がチャイマーの前に現れた──というのが、伝承の語る次の場面です。

ここで、版による食い違いがあります。

ダンマー版(書籍: 「変容せし者/The Changed Ones」 に基づく)

ボエシアは罠を用いてトリニマックを口の中に誘い込み、「食べた」(ate Trinimac)。そしてトリニマックの姿と声を借りて、トリニマックの信徒たちに語りかけ、メファーラと共に「真実」──ロルカーンの試練、サイジック・エンデバーの規則、家を建てる方法、そして「正しい肌の着方」──を教えた。最後にボエシアはその場でトリニマックを排泄して見せ、自分の語ったことが全て真実であることを証明した。

オーク

トリニマックは、ヴェロスとその信徒たちの離反を止めるため、ボエシアと対峙した。ある伝承では、トリニマックがボエシアに決闘を挑み、勝利寸前まで追い詰めたところで、メファーラが背後から刺したとされます。その隙にボエシアはトリニマックを呪い、姿を変質させ、「窒息する空気と灰の場所」へ追放した。そこでトリニマックは屈辱と怒りの中で再生し、オークの父マウロック、すなわち後にマラキャスと呼ばれる神となった。

どちらの版も、結末は大きく見れば同じです。トリニマックは存在として「変質」し、別の神――マラキャス、あるいはマウロック(Mauloch, Orc-Father)――になった。マラキャスは現在、デイドラ公の一柱として知られています。「呪われた者の神」「追放された者の守護者」を司る存在で、オルシマー(Orsimer / オーク)の主神でもあります。

トリニマックの信徒たちはどうなったか。彼らもまた、変容しました。ボエシアとトリニマックの信徒たちは、その排泄物を自身の肌に擦り込み、姿を変えた──というのが、UESP上の最も直接的な記述です。ボエシアの信徒たちは姿を変えてチャイマーに、トリニマックの信徒たちは姿を変えてオーク──オーシマー(Orsimer / 呪われたエルフ)──となった。これがオークの起源神話です。

つまりこの事件は、二つの民族の起源を同時に説明しています。チャイマー(変わりし者)オーシマー(呪われた者) は、いずれもアルドマー社会からの離脱者であり、いずれもデイドラ的な変容を経て別民族になった。両者は鏡像のような関係にあるとも言えます。

なお、トリビュナル神殿はこの事件を独自に解釈します。神殿の公式書「守護者たち/The Anticipations」では、「ボエシアはエルフたちにロルカーンの試練の真実を告げ、アーリエルの戦士トリニマックを打ち破った。ボエシアはトリニマックを食べ、空にした(voided him)」と簡潔に記されています。

トリビュナル神殿はチャイマーの起源神話をそのまま継承したわけです。

ドゥーマーとは?──神を信じない異質な隣人

ドゥーマー(Dwemer)、別名「深きエルフ(Deep Elves / Dwarves)」「深淵の民(Deep Folk)」は、TES世界の中でも特異な存在です。

彼らもまた、アルドマーから派生した民族の一つとされます。ただし、その分離の経緯は他のエルフ諸族と大きく異なります。ドゥーマーがアルドマーから分かれたのは、タムリエル史の極めて初期──おそらく他のエルフ諸族の分岐よりずっと前──であり、その経緯は記録に残っていません。彼らの社会は、アルトマーとの類似点を僅かしか持たず、言語、文字、信仰、生活様式の全てにおいて独自の道を歩んだ。

ドゥーマーがレスダイン地域に住み始めた時期も、特定が困難です。ある説では、ドゥーマーはヴェロスの時代より遥か前から既にタムリエル北東部に住んでいたとされ、別の説では、ドゥーマーは元々チャイマーと同じアルドマー集団から分岐した別部族で、後に世俗的な名家として位置づけられたともされます。

確実なのは、神話紀の中後期(High Velothi Culture期)には既に、ドゥーマーがヴェロシ山脈(現在のスカイリムとモロウィンドの境界の山脈群)の地下に確固たる文明圏を築いていたことです。

ドゥーマーが他のエルフ民族と決定的に違ったのは、神々の存在そのものに対する態度でした。

アルトマーは失われた神性への回帰を求める。ボスマーはイフレ(Y’ffre、自然の神)に従って森と一体化する。チャイマーはデイドラを崇める。それぞれ違いはあれど、いずれも何らかの神を「自分たちより上位の存在」として認める点では共通しています。

ドゥーマーだけが、これを認めなかった。

彼らの世界観において、神々は信仰の対象ではなく、「克服すべき対象」あるいは「単なる現象」でした。ドゥーマーの哲学者たちは「神々はムンダス創造に騙された不完全な存在に過ぎない」「我々はその不完全さを越えて、自らの力で完全な存在になることができる」と説いたのです。

これはアルトマーの「失われた神性への回帰」とは似て非なるものです。アルトマーは「神性を取り戻したい」のに対し、ドゥーマーは「神を必要としない存在になりたい」のです。前者が神への憧れを保つのに対し、後者は神を否定する。

興味深いのは、ドゥーマーもまたチャイマーと同じく「定命の者が神性に到達する」という発想を共有していたことです。

ただしその方法論が決定的に違った。

チャイマー(およびヴェロス)はサイジック・エンデバーという霊的・宗教的な道を歩んだのに対し、ドゥーマーは技術と工学によってこれを達成しようとした。後にカグレナックがロルカーンの心臓を”演奏“して人工神ヌミディウムを作ろうとしたのは、ドゥーマー流のサイジック・エンデバーの究極の実装でした。

トーナル・アーキテクチャーとは?

ドゥーマーの信仰の中心にあったのが、トーナル・アーキテクチャー(Tonal Architecture) という独自の技術体系です。

これは音と振動を用いて現実そのものを操作する技術、現代風に言えば「音響工学+魔術+宇宙論」を融合したような分野で、ドゥーマー以外には誰も完全には習得することができませんでした

UESPの記述によれば、ドゥーマーのトーナル・アーキテクトたちは、自身の声で音を発し、それを魔法のトーク(Torc / 首輪状の魔具)で増幅していました。さらに「トーナル・アテニュエーター」と呼ばれる保護用の頭部装備を着用し、自分たちの作業から生じる調和的な反響と思考器官の干渉から身を守っていました。

彼らはほぼ完全な音響制御を持ち、その技術を鉱業、医療、建築、そして心理学にまで応用。古代チャイマー学者の記述によれば、ドゥーマーは音響的な力を用いて弱き者の精神を支配し、複雑な聴覚的催眠を行うこともできたといいます。

トーナル・アーキテクチャーの根本にある考え方は、TESの宇宙論と密接に関わります。ドゥーマーは神々を信じない代わりに、宇宙の根源的な構造そのもの──音と振動──を操作対象としていた。これは神話時代の記事で扱った「アヌの『ある』とパドメイの『ない』」の二元論を、ドゥーマー独自の解釈で再構築したものとしても読めます(ただしこの解釈はロアコミュニティに広く流通しているもので、ゲーム内書籍に直接の記述があるわけではありません)

この技術は、ドゥーマーの建築、機械、武器、そして魔術全てに応用されました。ドゥーマーの遺跡を探索すると見つかるセンチュリオン(Centurion / 機械人形)アニマンキュラ(Animunculi / 機械の昆虫)スチームエンジン、そして巨大なトーナル・レゾネーター(Tonal Resonator)

これらは、すべてトーナル・アーキテクチャーの産物です。

そしてこの技術が、後にカグレナックがロルカーンの心臓を”演奏”して神を作ろうとする際の基盤となります。トリビュナルが心臓と接続する儀式が三段階のトーンで行われるのも、ヌミディウムが動く塔として機能するのも、すべてトーナル・アーキテクチャーの延長線上にあります。

なお、後にソーサ・シルがクロックワーク・シティで開発する技術も、ドゥーマーのトーナル・アーキテクチャーの研究を基盤にしています。彼はドゥーマーのトーナル・フォーク(音叉)を改良し、レゾナント・スフィア(共鳴球)などの独自の道具を生み出しました。トリビュナルとドゥーマーの技術的な系譜は、こうして繋がっています。

ドゥーマーの技術と神話的構造は、TES世界の中で最も精密で、同時に最も傲慢な「神への挑戦」だったと言えます。

地下の都市群 ──失われた文明の規模

ドゥーマーは地表だけに都市を築いた民ではなく、地下深くに巨大な都市と要塞を築きました。これは単なる隠遁ではなく、彼らの建築哲学の表れです。彼らにとって地下は「安全」であり「効率的」であり「美しい」場所でした。

主要なドゥーマー都市群は以下のような分布でした。

ヴァーデンフェルとレスダイン本土
最大級のドゥーマー文明圏。レッドマウンテン周辺には、後に「ヴァーデンフェル」と呼ばれる強大なドゥーマー王国が存在し、その奥にはロルカーンの心臓を秘めた「心臓の間」へ通じる要塞群が築かれていた。ヴァーデンフェルには地表に露出したドゥーマー遺跡が多く、レスダイン本土側にも地下深くへ広がる都市や要塞が存在した。

Vvardenfell はドゥーマー語で「強き盾の都」を意味し、古くはレッドマウンテンそのもの、あるいはその周辺のドゥーマー王国を指した名とされる。

スカイリム
ブラックリーチ(Blackreach) を含む地下世界。Skyrimのプレイヤーが探索する地下都市群、アルクンザムズ、ムズルフト、ラルドサール、そしてブサル・ゼル(Bthar-Zel / 深き民の交差点とも結びつけられる名)などは、この北方ドゥーマー文化圏の一部である。ヴァーデンフェルの遺跡とは構造が異なり、重要な区画がより地下深くに隠されている場合も多い。

ハンマーフェル
後にローケン氏族が移住して築いたヴォレンフェル(Volenfell / 槌の都)を含む。ローケン氏族は、チャイマーとの和平と第一評議会の成立に反発してレスダインを離れ、西方へ移住したドゥーマー氏族である。伝承では、族長が戦槌ヴォレンドラングを投げ、その落ちた地に定住したとされる。スロス・ムカイ周辺にも、ムダン(Mudan)などドゥーマー系の遺構が残る。

シロディール
シロディールは、モロウウィンド、スカイリム、ハンマーフェルほど明確なドゥーマー文明圏としては語られない。後世の研究では、南方にも未発見のドゥーマー遺跡が存在する可能性は示唆されるが、シロディールに大規模なドゥーマー勢力があったとは一般に考えられていない。

ドゥーマーは種族として完全に統一されていたわけではなく、氏族(Clan)や地域ごとに強い独立性を保っていました。デュマック王が支配したのは、主にレッドマウンテンとヴァーデンフェル周辺のドゥーマーであり、スカイリムやハンマーフェルの氏族まで一元的に支配していたとは考えにくい。実際、ローケン氏族はデュマックとネレヴァルによる和平に反発し、レスダインを離れてハンマーフェルへ去っています。地域ごとに建築様式や都市構造にも差があり、ヴァーデンフェルの遺跡と、スカイリムやハンマーフェルの遺跡は同じドゥーマー建築でありながら、見え方も内部構造も異なっていました。

このことは後の物語で重要になります。

第一評議会戦争が始まったとき、すべてのドゥーマー氏族が同じ立場で戦争に関わっていたわけではない。レッドマウンテンのドゥーマーが戦争の中心にいた一方で、ローケン氏族のように、すでに遠くハンマーフェルへ去っていた氏族もいた。

にもかかわらず、レッドマウンテンで起きた事件の結果、彼らもまた他のドゥーマーと同じように消えたとされています。これについては第二章以降で詳しく扱います。

平和の終わりへ

物語の中で、ネレヴァルは「自分の仕事を成し遂げたと思っていただろう」と書きました。

そう思って当然の時代でした。憎み合っていた二つの民族が、人類史上初めて対等な政府を築き、二百五十二年もの間、互いを殺さずに共に栄えた。これは奇跡でした。エルフの長い寿命をもってしても、奇跡と呼ぶしかない時間でした。

しかし、奇跡は永遠ではありませんでした。

第二章で扱うのは、この奇跡が崩れていく過程です。レッドマウンテンの地下深く、ドゥーマーの大祭司カグレナックが発見した「ロルカーンの心臓」。それを「演奏」して新たな神を作るという、人類史上最も野心的で、最も冒涜的な計画。最も忠実な臣下ヴォリン・ダゴスから届いた密告。血の友デュマックとの最後の会見。そして三百年近く続いた友情の、突然の終わり。

【TES世界観解説】トリビュナルとは何者か その2:心臓の発見、そしてレッドマウンテンの戦い

ぜひ記事をシェアしてください!今後の励みになります!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントを投稿する

1件でも複数でも自動でZIPにまとめて添付します。画像: jpg, png, gif, webp (5MB/件) / その他: txt, log, csv, md, xml, json, ini, cfg, conf, yaml, yml, zip (1MB/件)

目次